詞煙
会社の屋上。
たまには外の空気を吸いながらと、買ってきたパンをもって扉を開けた。
「おや」
「あ、先輩。お疲れ様です」
春の昼光を浴びる先客がいた。
掴みどころのない、いくつか上の先輩。
屋上の手すりによっかかって、こちらに顔だけ向けてくる。
「先輩はいつもここに来てるんですか?」
「いや、たまに。君は?」
「僕は今日、ちょっと思いつきで」
「そうかい」
よく見ると、先輩はタバコも吸ってないのに口に手をやっていた。
「何してるんですか?」
「ん? ああ。ちょっと恥ずかしいんだけどね」
後ろ頭をかきながら、先輩は手を外して大きく息を、空に吐いた。
「こうやって、タバコを吸う真似をしている」
「……なるほど?」
「まぁ、一種のストレス発散さ。言葉にならないモヤモヤを、息と一緒に吐き出してるんだ」
「そうなんですね」
息を吐くだけでストレス発散ができるのだろうか?
先輩の横で同じ体勢になって、真似をしてみた。
タバコを吸って、吐く。
「……」
「真似かい?」
「どんな感じだろうって」
「どうだった?」
「ちょっとスッとします」
「そりゃ何より」
会話が切れたので、いただきますとパンを頬張る。
ジューシーカツサンドとホットドッグは、そう時間もかからず食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「いい食べっぷりだったね」
「見てたんすか?」
「あまりに美味しそうに食べていたから、つい、ね」
「……そうすか」
「さぁ、午後も頑張るぞ」
「はい」
何だか少し後ろ頭が痒くなって、息を空に吐いた。