光の太刀筋
この世界は、男は強くなければいけない。
男は妻と子を守り、女は家庭を支える。男は、子供の頃から剣を握る。
父は名の知れた剣士で、この小さな村にとどまらず、この世界に存在する4つの国で名を知らないものは、生まれたばかりの赤ん坊くらいだろう。
過去、世界にはゲートと呼ばれる空間のねじれがありその空間から悪魔が進行し4つある国の3国が支配下に置かれる時期があった。
それに、抵抗する人間は最後の1国の名だたる剣士を収集し、悪魔の討伐に乗り切った。
苦戦を強いられると思われたが、後に三英雄と呼ばれた3人の人間が悪魔を圧倒し、悪魔は退散、ゲートは閉じられた。残った悪魔は討伐され人間は平和を取り戻した。
その三英雄の1人が、レックス・アルト・ハルマール。私の父だった。
私の名は、レオン・アルト・ハルマール。
私は、昔から、父に憧れて育った。
母親から父の話を聞かされ育ったし、学校で習う歴史では父の名前が上がってとても誇らしかった。
しかし、それは自分にとっては重荷にしかならなかった。
なぜなら、私は、剣の才能がからっきしだった。
三英雄レックスの息子だと期待され、剣を持つだけで周りの視線を集めた。
しかし、周りが自分の才能に気づくのにそう時間はかからなかった。
この国は、3歳から15歳までは、木刀を持つ。
16歳になると真剣(金属の剣で殺傷能力がある、以降略)を持ち、国の傭兵として訓練される。
並のレベルではそこまで、才能が認められれば騎士団に任命される。
さらに、その騎士団の中から選ばれた優れた騎士は、国王直属の近衛騎士団に任命されることとなる。
この世界に生まれた子供たちの夢は、騎士団に入団することだ。
近衛騎士団ともなれば地元の町村の誇りだと言われる事は間違いないだろう。
7歳まではさほど、実力差はない。
しかし、そこから差が開き始め、真剣を持ち始める前の15歳にもなれば実力差は素人目で見てもわかるくらい一目瞭然だ。
そして、私の実力に周囲が感付き始めたのが、その7歳だった。
剣の才能は、遺伝するといわれている。
しかし、才能の無い私はハルマールの血縁ではないと周囲に噂されたり、学校でいじめられたりする事が度々あった。
泣いて家に帰ると父からは「悔しかったら、力をつけろ」が定番のセリフだった。
母は、優しく胸に抱いて頭をなでてくれた。恐らく、父の立場や名が重荷になり、プレッシャーや圧力がかかっている事を気にしてくれていたんだと、そう思った。
7歳の時、学校での模擬戦での事だった。
教師のさじ加減で実力差が近い者同士で模擬戦をする。
当時、私の実力はビリ争いをするレベルだった。
しかし、なぜかガキ大将ポジションの7歳とは思えない大きな体格でその分剣の一撃は重く、当時かなりの実力があった者と模擬戦を
させられた。
「俺は、お前を倒して、お前の父親も倒して新たなる三英雄になるのだ!」
…。こいつは、何を言っているのだろう。俺に勝っても何の誇りにもならないし、お前が父さんに勝てるはずがなかろうに。
「では、はじめ!」 「うおおおおおおお!」 年の割に大きな巨体を揺らし、突っ込んでくる様子はまるで猪だ。
父さんから教わっている。こういう相手はフェイントに弱い。切りかかるふりをすると、必ず大振りで撃ち合おうとする。
半歩体をずらして、剣をいなしそのまま一撃をくらわして…終わりだ。
コン!! 木の甲高い音が鳴り響く。…。 俺は、空を見上げていた。 「何が、起こったんだ…。」
巨体は、馬鹿にしたような瞳をこちらへ向けた。「はっ。大した事ねぇじゃねえか。本当に、三英雄レックスの息子か? これじゃ、レックスもたいしたことねえな。」
「だまれ…。」 「あん?なんか、言ったかよ?」 「だまれって言ってるんだよ! 父さんを…馬鹿にするな!!」
俺は、ガキ大将に切りかかった。…。目が覚めた時には、治療室にいた。
俺はどうやらガキ大将に一撃食らわせたらしい。しかし、まるで蚊に刺されたかのように、ぴんぴんした様子で一撃で俺を沈めたという。
俺は、決着がついたのにも関わらず、不意打ちをしたとして説教されるらしい。
母さんが、学校に来て相手の親とガキ大将に頭を下げた。「息子が、どうもすいませんでした。今後、同じことがないようしつけますので…。」
母さん…何を言っているんだ…。悪いのはあいつで…あいつは父さんを馬鹿にして…。
「あなた、私の坊やが怪我でもしたらどうするつもりでしたの? 全く。子が子なら親も親ですこと。しっかり教育してくださいまし。」
なんだと、くそばば…。俺が、殴り込もうとしたとき静かに母さんに静止させられた。「どうも、すみませんでした。」
母さんは、そう言い残してすぐ俺と部屋をでて、帰路についた。
「レオン…。今日のことは気にしなくていいから、家に帰ってゆっくり休みなさい。」
俺は、何も言わなかった。
その晩の事である。
「この、恥さらしが!! 剣士が相手を不意打ちだ? お前は、剣士じゃねえ。大馬鹿野郎が!」俺は、父に殴られていた。
何故だ?何故、俺はこんな目にあっているのだ…。「お父さん、やめて下さい! レオンは不意打ちするような子じゃありません!」
「うっせえ!どんな理由があっても、事実は変わらねえ! 恥さらしは、出て行け!!」 「わかりました…出ていきます。」
俺は、家を飛び出した。「レオン!!待って!」 母さんの静止を振り切り俺はただ走り続けた。
一時間くらい、走っただろうか。ここがどこだか分からないが、村の西に位置する森だ。森には、獣が出るため子供が入ることは禁じられている。
今日は、ここで野宿か…。そう思っていたその時…ガサガサ…。近くの草むらが揺れる音がした。
「誰か…いるの…?」 声をかけた瞬間、ガサ! 草むらから一つの影が姿を現した。 夜獣だ。夜行性の肉食獣で家畜を襲う厄介な相手で、今の俺では到底太刀打ちできる相手ではない。
しかも、持っているのは木刀。真剣ならまだしも、木刀なら撃退すら叶わない。「ひっ…。けど、殺らなければ…殺られる。」
次の瞬間、夜獣が襲い掛かる。「ガルル!」突進はかろうじて、かわした。が、切り返しが早い。すぐにまた来る。長い爪の生えた右足が襲い掛かる。
咄嗟に木刀を振りかぶった。木刀は夜獣の右足を捉え、一撃を防ぐ。「やった!」しかし、ザクっと肉が引き裂かれる感触がした。
返しの、左足をもろに食らった。「があああああああ!」痛い。胸の皮膚を引き裂かれた。血がどくどく流れ出る。俺死ぬのか…。死を覚悟したその時。
夜獣の頭が吹っ飛んだ。「え…?父さん…?」暗くてよく見えないが人型だ。
顔を見る。 まるで、骸骨のようにやせ細った顔。そして、今気づいたが、周囲に漂う腐った匂い。「アンデット…。」
アンデットとは、森で亡くなった人間の死者が蘇ったモンスターで、能力値は呪いの力で格段に上がり、強さは上位騎士団員レベルだ。夜の森で会いたくないモンスターランキング五本の指に入るだろう。 今度こそ、だめだ。アンデットから逃れることはできない。アンデットが剣を振り上げた次の瞬間、俺の体は弾け飛んだ。しかし、生きている。
何故だ。そして、俺が立っていた所には男が立っていた。男は、アンデットが振り切った剣を何事もなかったかのように剣の鞘で受け止めている。
「よお、アンデットなんか久々にみたわ~。お前、手加減してやるからよお、んー、じゃあ、素手でいいわ。俺と一戦殺りあおうぜ。」
アンデットと素手?死にたがりも甚だしい。助けてくれたのはありがたいが、それでは俺もろとも全滅だ。
男は、剣を投げ捨てた。終わった。 …。確かに、終わった。がおかしい。立っているのは男で、アンデットは…消滅していた。
結果はこうだ。男が剣を投げ捨てた瞬間、再度アンデットは剣を振り切った。しかし、剣は空を切る。しかし、アンデットの切り返しは神業ともいえよう。
俺の目では追いきれないが一秒間に5.6撃は放ったはずだ。しかし、剣は空を切り、一秒後アンデットの体を男の拳が貫通した。
「アンデットって、こんな弱かったけか?つまらんな。てか、くっせえ!帰ったらすぐ手洗おっと、おい坊主大丈夫か?…。仕方ねえな。」
俺は、貧血で気を失っていた。
目が覚めると、見知らぬ小屋みたいな場所のベットに寝かされていた。夜獣にやられた傷も手当されている。
「ここは…。」「お、目覚めたか、小僧」小屋の奥から一人の男が顔を出した。「待ってろ、今から朝飯作るからよ。」
しばらくして、肉とパンらしきものとスープが出てきた。「ありがとうございます、いただきます。」一口、口に運ぶ。…美味い。
俺は、あっと言う間に完食してしまった。そういえば、昨日の昼から何も食べていなかったか。「ごちそうさまでした。美味しかったです。」
「おうよ。それより、お前夜の森で何してやがった。ママにダメだって教わらなかったか?」 「すみません…実は…。」
俺は、昨晩あったことを話した。ふーん、お父さんが馬鹿にされてねぇ。そんな強えのか、お前のパパはよお。そんなことより、自分のためにかばった息子を理由も聞かずに殴るったあ、ダメ親父だな~。」「強いのなんの、僕のお父さん、三英雄ですもん。」 「…。なに? お前、名前はなんてーんだ?」
「僕は、レオン・アルト・ハルマールです。」 「ハルマール…。お前、レックスの息子か。」「はい、父さんをご存知ですか?」愚問だった。父さんの名前を知らない人はこの世界では少ない。けど、家名まで知っている人は少ないか。「ああ、よーーーく、知っているとも。」 父さんと関係がある人物、当時の悪魔討伐隊の中でも上位の人物。実力的にも騎士団か近衛騎士団の人か…。あたりと予想しておく。「ところで、おじさんの名前はなんていうんですか?」 「ああ、俺か、俺はアイル・ラル・ヴァンガードだ。」 アイル?ヴァンガード? え? 「アイルさんって、もしかして、…三英雄の?」「ああ、そうだぜ。」ま、まじかあああああああ。
俺は、しばらくアイルさんと話をしていた。父さんと悪魔を討伐した話やそれまでのことだ。
「しかし、あいつも変わってねえなあ。主観が強すぎて、いつも周りのことなんかまるで見えちゃいねえ。」…。否定できない。
「それより、お前、弱ええな。本当にレックスの息子か? まあ、確かに剣は遺伝だって言っちゃいるが父親が遺伝するとは限らねえんだ。なんだって、お前は母さんの息子でもあるからな。母さん側の血が強くたっておかしくはねえ。世間はそれを認めたがらんけどな。」「それは、初耳でした。誰情報ですか?」「誰って、俺情報だよ。俺もなあ、父親が近衛騎士団レベルでな、遺伝されると思っていたんだが、全く遺伝されなかった。15歳まで才能なしだった。」「ええ?あり得ません。そんなの。だって、アイルさんは、三英雄じゃないですか?」「確かに、三英雄にはなったがその時は30近くだ。生まれたころから、強かったわけじゃねえ。」「じゃあ、なんで三英雄になれたんですか?」 「俺はなあ、15歳まで才能がなかったのを遺伝のせいにしてた。だが、そうじゃねえ。確かに、持って生まれたもんが回りと違う。でもそんなもんなあ、自分次第なんだよ、人間死ぬ気でやりゃあどこまでも行けんのさ。俺が、変わったのは死ぬ気で剣と向き合って、死ぬ気で鍛錬を積んだからだ。」
…。すごく心に響いた。そうか、持って生まれたものはあくまで貯金に過ぎないのか。なら、俺も…変われるだろうか…。「アイルさん、お願いがあります。」
「なんだ?」「僕に稽古をつけてください。」「生半可じゃなんも変わらねえ。死ぬ気でやる覚悟がお前にあんのか?」「…あります。」
「わかった、でも俺は中途半端が嫌いなんだ。今から8年、木刀から真剣に変わるまで面倒見てやる。俺から、レックスの野郎には言っといてやる。」
「ありがとうございます…!」そして、アイルさんとの修業の日々が始まった。
稽古は毎日、1日20時間だ。一日置きに、剣術→武術・トレーニング→剣術→武術・トレーニングといった感じだ。トレーニングは剣をふる筋力を養うためには不可欠だ。しかし、剣が主流のこの世界で武術が必要なのかということだがどうやら必要らしい。アイルさん曰く、剣対剣の戦いなら父さんには勝てないが、剣対剣武術ならアイルさんに分があるらしい。
本当だろうか?にわかに信じがたいが、三英雄が言うくらいだ、間違いないのだろう。
まず、剣術だが剣を振るための体が全然できていないという。まあ、この年頃はまだ成長期前なので大概、剣にふられていて普通らしいが。技術がない分、生まれつき体が大きい方が有利だそうだ。体ができるまでは素振りがメインだった。ただ、剣を振るだけというのにこれがまた、奥が深い。つい利き腕に力が入ると剣筋が鈍り、剣撃のスピードも切れ味も格段に落ちるという。アイルさんの言う最速最短の剣筋を習得する為にとにかく剣を振り続けた。
体術・トレーニングの方だが、やはり初めはトレーニングがメインになった。足腰を鍛えるため、全身に重りをつけられ森中を走りまわされた。とんでもなく大きな斧で薪を割り、アイルさんが倒した体格が3mあるだろう熊を運び(いいように、使われてはいないだろうか?)、基本熊ではなく岩だったが、腕だけで何十メートルもある上り坂を何往復もさせられたときは腕が取れるかと思った。
1年がたった時、木刀に重しが埋め込まれた。まだ素振りしか見てもらえていない。いつになったら、実践が待っているんだろう。
体術・トレーニングの方は体術の方がメインになりだした。こちらはいきなり実践らしい。右・左と拳を放つが全て受け流される。蹴りも全てよけるか、叩き落とされる。
そして、これがうまい、足払い。たちまち尻餅をつけば最後気持ちいい一発をもらう。 筋力差もあるのでまずは受け手になり、打撃を避けたり、受け流したり、叩き落とす稽古がメイン。受け手に関してはそれほど筋力は必要ない。やがて、それが型にはまりはじめると攻め手の稽古に変わった。
武術の方は、三年で認められるレベルに成長した。
剣術の方は三年目からようやく打ち合わせてもらえた。さすが、三英雄というところだ。剣術のレベルは化け物。剣撃が早すぎて見えない。
最初の一年は体に食らい続け全身あざだらけになった。しかし、徐々に目が慣れてきた。相手の剣撃を被弾はするものの数回に一回は落とせるようになってきた。
これは、体術の受け手に近い。4年が経過した頃には、受けるので精一杯だったが、徐々に攻撃も挟めるようになってきた。
しかし、武術にしろ剣術にしろこの4年で一度もアイルさんに一撃を入れられずにいる。
5年目、6年目はあまり変化がない。が、確実に被弾は減り、攻めの手数は増えつつあった。特に、6年目は、どちらにも致命傷はなく半日打ち合って休憩になる日があった
。それから、7年目剣術に武術が混ざり始めた。途端に防戦一方になる。相手の剣撃を止める。そして、自分の剣撃を入れようとした瞬間、バランスが崩れる。足払いだ。
そのまま、蹴りが来る、剣で防ぐが踏ん張れていない、吹っ飛ばされる。そしてとどめの一撃。やはり、さすが剣武術の使い手。まだ、何枚も上手みたいだ。
しかし、武術は既に習得の域にある。初めは対応できていなかったものの、徐々に対応し始め一年がたつ頃には剣武術でも渡り合うようになった。
そして、8年目、約束の最後の年。この年を境に世界が一転する。アイルさんの動きが遅い。手を抜いているのだろうか。否、アイルさんは僕に対して手加減をしたことがない。そして、アイルさんが狙って繰り出される剣撃・打撃のラインが光る。その光のラインをなぞるように剣撃・打撃が繰り出される。
もちろん、対応は容易だ。たやすく避ける、そして、アイルさんに一撃が入る…その時。「まて。」直撃の瞬間、アイルさんから静止があった。
「どうしたんですか?」「…。お前、俺の剣筋・体術が見えているだろ?」「どうして、そう思うんですか?」「俺も、それが見え始めてから、劇的に強くなったからだ。」
「もう、俺はお前に太刀打ちできるレベルにない。俺は、もう光の太刀筋はみえない。歳をとるにつれ段々見えなくなっていった。」
「もう、稽古はつけてもらえないんでしょうか?」「もうここに、お前を超える者はいないからな。1週間後、卒業試験を行う。それまで、自己的に研鑽を積むように。」
そういって、アイルさんの稽古は終わった。一週間後、ある男性が現れた。その人に、アイルさんは僕を紹介した。「この小僧は、レックスの息子のレオンだ。」
「なるほど、レックスの息子か。私の名は、カイン・マーク・シリウス。元三英雄だ。この、男に模擬戦をして欲しいと頼まれてな。」
「よろしくお願いします。」カインさんは、双剣王と呼ばれる二刀流使いだ。早速だが、始めよう。 そして、卒業試験が始まった。
先に仕掛けて来たのは、カインさんだ。剣が二本ある分、手数が多いがしかし、一撃一撃は軽く、今の俺なら充分見切れる。
全て、流し叩き落した。そして、足払い。「ぐ…。」バランスを崩すカインさん。そこへ一撃を放つが体をねじり剣で受け流す。致命傷にならず、カインさんは戦線を離脱する。「なるほど、昔のアイルそっくりだ。強い。本気を出そう。」カインさんからオーラを感じる。再びカインさんから剣撃がくる。先ほどより手数が多い。さらに、複数回切る付けた後、距離を取られる。こちらが攻めに転じることができない。厄介だ、なら次はこちらから攻めよう。カインさんの剣撃をすべて落とす。距離を取られる。ここだ、ここで一気に詰めてそれを阻止する。そして、足払い。よけられた。しかし、彼の足は宙に浮いている。チャンスだ。前蹴りを入れる。「ぐぅ。」カインさんが吹っ飛ぶ。着地点でさらに、足払い。カインさんが一回転するそこへ剣撃。カインさんごと地面へ叩きつけた。「ぐはっ…。私の負けだ。」こうして、修行の日々は終わった。
「アイルさん…そして、カインさんもありがとうございました。」「レックスの野郎によろしく頼むぜ。あいつは、すぐに図に乗るからな。一度ぶっ飛ばしてやれ。今のお前ならできるはずだ。後、教育費は出世払いで頼むわ。」「ははは。必ずまた、顔を出します。」「ああ、待ってるぜ。」「レオン君といったね。15歳というともうすぐ、傭兵団に入るだろう。そしてすぐ、新人戦の大会があるはずだ。国の奴の目が狂っていなきゃ、すぐ近衛騎士団のトップもあり得るだろう。まあ、頑張れよ。」
俺が、近衛騎士団のトップ?しかし、二人の元三英雄を倒したんだ。そのレベルまで到達したのだろうか? 「お二人ともありがとうございました。では、出発します。」
そして、森を後にした。
帰路、夜獣の群れに遭遇した。あの時の俺なら小便を垂らしていただろうが、もうそんなことはない。襲い掛かる夜獣をボールでも蹴るような感覚で一撃。そしてもう一匹。三体同時に来た。剣を抜く。木刀だが充分だ。周囲を薙ぎ払う。残りの三体夜獣は絶命した。
家が待ち遠しい。朝まで歩き続けた。
もうすぐ家だ。ああ、いい匂いがする。「ただいま…。」
中にいた女性と目が合う。しわが増えているが見間違える事はない。「母さん…。」「レオン…?ああ、レオン!」俺は抱きしめられていた。母さんは温かった。
「凄く、凄く心配した。すごく大きくなって、立派になって…。おかえりなさい。」母さんは泣きじゃくっていた。「ただいま、母さん。」
すると、奥から一人の少女が姿を見せた。「お母さん?どうしたの?ん?あなた、誰?」「ミーニャ、お兄ちゃんよ?」「お兄ちゃん…そうこの人が…おかえりなさい」
「た、ただいま。」どうやら、俺が出ていった直前、母さんのお腹には妹がいたらしい。だが、発覚したのが俺がいなくなってからだという。
「帰ったのか。」「父さん…。」「あの時は、カッとなって悪かった。アイルに…世話になったのか?」「はい。」「そうか、俺はあいつがどこにいるかしらん。お礼がしたいと伝えておいてくれ。」「わかりました、父さん」「ああ。あと、おかえり、レオン。」「ただいま、父さん。僕、強くなりました。」「ああ、見ればわかる。」「さあ、みんなで朝ごはんにしましょ!」 久しぶりの母さんのご飯、家族みんなで食べるご飯はやはりおいしかった。
そして、16歳になり、傭兵団に入団した。そしてすぐ、新人戦だ。新たなる傭兵団員の実力確認が主な目的だろう。
各地方ごとに傭兵団はある。俺の地域の新人の傭兵は1000人くらいだ。
基本、トーナメント制の個人戦だ。一回戦、なんの因果か。相手はあの時のガキ大将だ。10mくらいの距離で向かい合う。「お前、レオンだろう?学校に来ず、不登校していたと思っていたが、こんな所に顔を出してなんのつもりだ?」「もちろん、力を示すためですが…」「ふんっ!落ちこぼれが。一瞬で終わらしてやる。」
始め! 「うおおおおお。」相変わらずの猪ぶりだが…ん?なんだこいつ。カタツムリより遅い。光の太刀筋の加護によるものだとは思うが…。光の太刀筋って解除できるのか?やってみるか。
目の力を抜く。すると、子犬くらいのスピードには見えた。こいつどんだけ、のろいんだよ。剣撃がくる。よけて、腹に蹴りを一発。「ぐはあああ。」
ガキ大将が悶絶する。「貴様!剣術の大会だぞ…剣を抜きやがれ…。」「剣を抜く価値もない相手に剣は抜きません。」「貴様ああああああああ!」猪…否うりぼーが突っ込んでくる。ガキ大将が剣を振りかぶる。しかし、その剣が振り下ろされることはない。がら空きの顔面に拳を一つ。で終了だ。
一本! 会場が騒然としている。無理もない。剣をもった少年が素手の少年に瞬殺されたのだから。「反則ですわ!!剣の大会で武術なんてルール違反です。」
あーあ、また出たよ、親バカババアが。「そんなもの、ルールにはなかったはずです。審査員、どうなんです?」「…。確かに、武術を禁止するルールはありません。よって、結果は…覆りません。」「そんな…。」ババアの顔は傑作だった。
この大会は、1000人規模の個人戦だけあって、1か月近くにわたって行われる。闘技場に行って、瞬殺して家に帰る。この大会はウォーミングアップにもならない。結局この大会俺が、剣を抜くことはなかった。その、決勝戦の帰り道。「お兄ちゃん!お疲れ様!すごいかっこよかった!」最近、ミーニャの俺への評価がうなぎ登りだ。俺のとりこになるのも時間の問題か。しかし、妹に手を出すほど悪趣味ではない。
その夜、晩御飯が豪華になった。小さな大会で優勝した程度なのに。無論、アイルさんに出会っていなかったら初戦敗退濃厚だっただろう。
それを理解している父さんはなんの反応もなく、いつもより豪華な食事に箸を伸ばしている。
最近、村を歩いていると村娘からは歓声が、男からは嫌な視線が飛んでくる。正直、気まずい。
大会が終わってしばらくすると、訓練が始まる。大会の戦績に影響されて上からA.B.C.D.Eクラスに振り分けられる。
このクラスに年齢は関係ない。気が乗らないが、いきなりAクラスに入れられた。ちなみに、同期はいない。
Bクラスに一人だけいるらしい。俺も、Bにしてもらおうか?なんて思っているうちにAクラスが収集された。「よく聞け!新たな新入りを紹介する!もう皆知っているだろうが、レオン・アルト・ハルマール、あの三英雄レックスの息子だ。先月の新人戦優勝。A級に一年目が来るのは珍しいが仲良くしてやってくれ。以上だ。訓練を開始する。」紹介を受けている間、メンバーを見渡したが、とっつきやすい奴はいなそうだ。皆にライバル視されている。視線が痛い。なんせ、騎士団に一番近い連中たちだ。
年下にしかも、ルーキーに迫られるのは対抗心があるだろう。
訓練だが、傭兵団からは真剣だ。もちろん、がちがちの鎧で固められている。が、俺としては鎧の方が動きずらいし極力つけたくないというか付けない。しかも、ケガさせたくないので、木刀を使いたい。しかし、それだと相手がお怒りになるので真剣は使うことにしよう。
午前に素振りやトレーニング、午後から模擬戦だ。
模擬戦だが、A級だから猛者揃いかと思いきや、素手で倒せそうなレベルだ。向こうは、鎧を着ない俺を殺す勢いで迫ってくる。
しかし、いくら真剣でも当たらなければ木刀と変わらない。相手の剣が空を切る。「ちょこまかちょこまかと!」しばらく、練習で遊んでやり、相手がへとへとになったら、足を払い、剣の腹で吹っ飛ばす。切りはしない。血が出たらグロいもん。それを見たやつらが、我こそはと挑んで来るが、全員返り討ちにしてやった。剣を使ってあげているのはあくまで、相手のプライドを尊重してのことだ。「レオン・アルト・ハルマール。貴様、只者ではないな。」と教官。いえ、そんなことは、皆さんお強いので僕も必死です。「そのようには、見えんが。」「いえいえ、そんなことは…」やめろじじい、俺の努力の演技が無駄になる。
結局、俺の努力むなしく、ここの連中とは一人として仲良くならなかった。
しばらくして、各地の新人王が集められ、国家規模の真の新人王決定戦が開催された。
30人ほど集められた。問題なく決勝まで進んだ。この大会からは真剣だ。いつもA級の人たちと遊ぶが如く軽くいなし、最後に一撃を入れて終える。
決勝まできた。相手は落ち着いた青年で、騎士団レベルかも知れない。が、なんら問題はない。アイルさんに比べれば天と地だ。
他者の目からすれば、速すぎる剣撃のやり取りに見えるだろう。しかし、俺からすれば、並の剣士レベル。剣撃を一撃いれてやると、防ぎやがったが体勢を崩した。
そこに、右の拳をぶち込んで。終了だ。一本! 優勝が決まった。 その時、会場に黒い稲妻が走り、空間がねじれる。そして、空間に穴ができ…「ゲート…」
皆がそう判断するほど、言い伝え通りの様子だ。 「に、逃げろー!」観客が一斉に避難する。それに、乗じて姿を見せたのは一体の悪魔だ。「へへへ、愚かな人間どもよ。いま、復讐の時が来たのだ! まずは、お前からだ!」 悪魔が襲い掛かってくるが、光の太刀筋は有効なようだ。長い爪を振り抜き…空を切る。「なに…?」お返しだ!
剣が悪魔を捉える。「ぐあああああああああ。」次の瞬間、悪魔が断末魔を上げ、消滅した。
結局、ゲートはこの一ヶ所のみだったらしく、この後、湧き出る悪魔をズタズタ切り倒して…
~
ってもう寝てるじゃん。今からが、いいところなんだよ?パパがかっこよく...。まあいいか、おやすみな。ベットにはスヤスヤ眠るまだ幼い少年。名を、ジーク・アルト・ハルマールという。
部屋の灯りを消し男が部屋を退出する。どうやら、寝かしつけるのに絵本を読み聞かせていたらしい。その本のタイトルは「英雄第二世代 レオン ~たった、1人で悪魔の軍勢を撃退した男~」タイトルも内容も大袈裟に美化されて書かれたその絵本の作者は…ミーニャ・アルト・ハルマール…。さすがブラコンの妹だな。笑 (おわり)