第弍拾壱話「西南部防衛作戦発表」(中編)
「__というわけなんだが、この状況を打開できる手立てはないか?」
俺たちは一度、モニタールームにて集まり話し合いを行う。
普通、作戦というのだから最初からあらかじめ準備されていたものが発表されるはずなんだが......どうやらそんな普通は通用しないらしい。
とりあえず皆から意見を求めるものの誰も口を開くことはなかった。
再びふりだしに戻ってしまう。
そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎていく。
「__今日はそこまでだ。これにて解散」
授業が終わったあとも食堂に集まるなりまた話し合った。
しかしそれでも良い案は出ない。
自室に戻ったあとでも一人で悩み込んでいた。
が、無理なものは無理なものである。
ふと俺は気分転換に外へ出ることにした。
風が気持ちいい夜だった。
道路からグラウンドに出るための階段を下りていくと、誰かが走っているのが見える。
俺に気がついたのかこちらへと向かってくる。
「__三木、私に何か用でも?」
「あぁ、いや、ただの気分転換かな。邪魔させて悪いな」
「気分転換ということは......あれからずっとあのことについて考えていたのか?」
「まぁ、そんなかんじかな」
「ふむ、そうだったか......あまり無理するのではないぞ」
俺たちは階段に座る。
月はぼんやりと明るい。
「__最近、私の姉が切羽詰まっている状況なのは知っているか? 三木」
東雲教官もとい東雲凛花は東雲今宵の姉である。
どうやら何か不穏な気配を感じ取っていたらしい。
「......まぁ、さしずめ俺たち新米装着者を2度も戦場に出すことが辛いんだろうな」
「三木も薄々感じていたか......そうか、やはりそうなるものか......」
「.......まあ、生きて帰るしかないってことだな」
「うむ......」
しばらく沈黙が流れる。
二人はゆっくりと星空を眺めていた。
しばらくして今宵が俺に問いただす。
「実は私に困っていることが一つある。三木、聞いてくれないか?」
「あぁいいぜ」
「うむ、ではお言葉に甘えさせてもらう。今まで皆が私のことをさん付けして呼ぶのだが、何故だろうか?」
さん付けのことか......
確かに俺も他の仲間も今宵を呼ぶときは今宵さんだ。
俺は夜空を見上げ少し考える。
「まぁ、単に身長が大きいし真面目だし......かっこいい......からかな?」
かっこいいの言葉に今宵はぴくんと反応する。
「そ、そうなのか......かっこ......いい......のか......」
「そういう大人な今宵さんに対して、親しみを持ってさん付けしてるんじゃないか? 少なくとも俺はそうかな」
「う、うむ......」
「......さん付け、あんまり好きじゃないのか?」
「否、そんなことはない。が、たまには呼び捨てで呼ばれると親近感が湧くかな......と」
なんだそういうことだったのか。
俺は立ち上がった。
「む、どうしたのか?」
「今宵」
「......!」
「なんてな。こんなんでいいか?」
「まあ、うむ。いきなりだが良かった......と思うぞ。なんだかワガママを聞いてもらったようでかたじけない」
「全然大丈夫だぜ」
今宵も立ち上がる。
身長は同じぐらいだ。
だが、その風貌から少し今宵の方がやや大きいように見える。
「いつか伴侶からその名で呼んでもらいたいものだ。それが私の夢である」
「......伴侶?」
伴侶というのは婚約者ということだ。
俺はまさか今宵がそんなこと夢に見ていたとは知らなく、目を丸くした。
俺の問いにポーっと顔が赤くなっていく。
「ぶ、無礼者ッ! そこは聞き流すものだぞ!」
「えぇ.......そうだったのか。なら申し訳ない」
「むう......とりあえず他の人には内緒にするのだぞ」
「分かったよ。誰にも言わないから」
今宵と俺の夜の談笑はまだまだ続く。




