第拾玖話「修羅」(後編)
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
拳と拳が交差し合う。
互いの拳は両者の頭部にヒット、共にのけぞり合う。
いくら武器がないとは言えど、腕力が強化されたアーマードの拳の威力はダメージはかなりある。
しかしこのくらいではダウンはしない。
両者は再び拳を握りしめ戦いを続ける。
相手の機体は始めに右から殴り、その次に左から殴りを入れようとする。
俺は相手に合わせ殴られる部分に腕を添えて防御の姿勢をとる。
右フックからの左フック、相手の防御を崩すにはこの方法が有効であった。
そして最後に__
「おらぁッッ!!!」
右拳を固く握りしめた真正面からのパンチ『右ストレート』を仕掛けてくる。
咄嗟の反応で右下に姿勢をずらしてかわす。
そして__
「食らえッッッ」
一瞬の間に拳を引き、下から上へと拳を振り上げた。
俗に言う「右アッパー」。
相手の機体の顎部分に直撃し後ろへとよろける。
「__くっ、何故だ? ド素人の一般人ごときがここまで動けるわけがねぇ!」
俺は応えた。
「一応だけどボクシングなら経験あるぜ。まぁ多少かじった程度だけどな」
これでも元の世界ではボクシングのクラブに通っていた。
とは言っても本当にかじった程度で大して強いわけではない。
ただ、このアーマードが俺を強くしてくれるのだ。
あの頃やってた時より身軽でパンチの威力も上がったおかげで格闘戦を有利に立ち回れる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
太田は咆哮を上げ突撃してきた。
俺はパンチの寸前を狙い、横から腹部めがけて右足によるミドルキックを浴びせる。
「ぐぉッッッ!?」
カウンターキックが見事に決まる。
あまりの速さと装甲が他と比べ薄い部分に攻撃を食らったため、太田は地面に倒れこんだ。
「わりぃ、ボクシングはボクシングでもキックボクシングの方だったわ」
「くっ......」
太田はフラフラとした状態でも立ち上がる。
最後に俺は助走をつけた。
そして大地を踏みしめ高く跳ぶ。
「はぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
膝を曲げ足を突きだす。
通称「ドロップキック」。
太田は防御の姿勢すらまともにとれず脳天部分にクリーンヒットした。
装甲部分がえぐられる。
機体は音をたてて崩れ落ちるようにまた倒れた。
俺は地面へと着地し太田の元へ駆け寄る。
どうやらこれ以上動けないようだ。
その時太田は俺に対して呟いた。
「ははっ、だがこちらの隊が人数は有利だ......この模擬戦、俺たちが貰った......」
俺はうーんと考え込み笑ってこう応える。
「だと、いいんだがな」
***
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ」
「茜ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!」
零士が手を差し出し伸ばすものの、その手を握れなかった。
撃ち落とされた茜がだんだん小さくなっていく。
「くそっ、てめえよくも____!?」
振り向いていた時には既に銃口が仕向けられていた。
それも頭部まで30cmの距離。
「貴方に質問です」
「は、はひっ」
「どうして他人を思う余裕などあるのでしょうか?」
「そ、それは__」
「さようなら」
パァァッッンッッッッッ
街の上空にて一つの発砲音が響いた。
僅かたった5分で二機を倒したのだった。
しばらくしてとある一機がそんな小夜に近づいていた。
(相手はこちらが見えていない、ならこちらが有利。今のうちに仕留めてやるッ)
建物の影に隠れて動いていたのは優だった。
優は標準を定め機関銃フォルテを構える。
(全弾命中すればどんな状態であろうと撃破できる......! さぁ、今に敵をとってやる)
優はトリガーをゆっくりと引いた。
パァァッッンッッッッッ
「えっ......?」
弾丸は優の胸部を貫いていた。
おかしい、おかしい、おかしい。
何故だ?
奴は今こっち向いていなかった。
奴はスコープをつけていなかった。
奴はバイポットを立てていなかった。
そもそも僕に気づいていなかったはずだ。
なんで当たるんだ......?
優が困惑で立ち尽くしていると小夜から通信が入る。
「すみません。最初から見えていたこと、教えていれば良かったでしょうか?」
優の機体は機能を停止し、その場でフォルテが落下した。
初の模擬戦は三木率いる隊の勝利となる。




