「あの世界」(後編)
こうして俺たちは次の配給が来る時間_19:00までトランプで遊び尽くした。
勝敗は5分5分だったが、暇潰しと不安をかき消すのには十分だった。
そして夕食が配給される。
__が、
「なんやねん、今日の昼食と同じ食いもんやないかい!」
またもやデミグラスソースのコンビーフの缶詰だった。
「あ、ああ、確かにそうだな、でもこういう緊急事態だししょうがないだろ?」
俺はキレだしたリュウジをなだめる。
「せやけど、普通は缶詰っつーのはいくつもあるもんやろ!?」
まあ......言われてみればそうだな......
「あったまきたで、ワイ、係員に言ってくるわ」
そう言うと立ってゲート付近にいる係員の方へと向かう。
俺は慌てて彼に付き添おうと追いかける。
「係員さん、どういうことや、なんで昨日から同じ缶詰なんや」
リュウジの不満が出る気持ちは分からなくもない。
「は、はぁ......すみません、では他の種類の缶詰めと交換しますので少々お待ちください。」
係員は急いで管理室へと走っていった。
「なんや、他の種類あるんならとっととそれ皆に配れば良かったんやのに......」
リュウジは腕組みしながらそう言い捨てる。
「良かったじゃないか、また二人で喋りながら食べようぜ」
「せやな、今回は許してやるわ」
やっと落ち着いてくれた。
短気なのは昔から変わらない性格だ。
そのかわり、誰かが困っているとすぐに助けに来る良いやつだとを俺は知っている。
2分ぐらいして係員が段ボール箱を抱えながらやって来た。
ドサッと下ろ段ボールを開けると、そこには違う種類の缶詰め_さばの味噌煮が入ってあった。
「げ、魚、ワイ食えへんで」
「おいおい、好き嫌いはよくないぜ、こればっかりは文句言うなよ」
リュウジの偏食は変わらないままか......
そういや高校の弁当ずっと肉と米だけだったな。
その時、ゲート付近の壁にある装置から声がした。
「緊急連絡だ、すまない、2名が2m級レヴナントとの戦闘で負傷した、ただちにゲートを開けてくれ」
「分かりました、今すぐ開けますのでそれまでお待ちください」
係員はとっさの事態に冷静に対応し、装置のボタンを速やかに押す。
87924......56372......15431......37982......
ん......?
なんで俺が係員がパスワードの数字のボタンを押す前に分かってるんだ......?
瞬間、昨日ゲームのストーリーが鮮明に思い出された。
冒頭で主人公がアーマードには乗らず、シェルターに避難する選択をするシーンだ。
そこで隊員に化けたレヴナントが内部の係員と連絡を取り合い、最終的にゲートを開けてしまってレヴナントに姿を変えて襲ってくるのだ。
もし今起こっている状況がそうなるとしたら.......
「係員さんッ! 開けないでくださいッ!」
だが時すでに遅し。
__37982
画面にはその数字が映っていた。
ガチャンという音と共に4つのゲートが開かれる。
__そして。
「いやいや、どうも助かったよ」
「一時はどうなるかと思ったぜ」
二人の隊員が中へと入ってくる。
「あの負傷したという隊員は今どこにいるので__」
係員が話しかけようとした瞬間だ。
彼らはこちらを見るなりその体から触手が生え出した。
そして内部から突き破りレヴナントの姿へと変貌する。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
叫んで逃げようと背を向けた係員だったがその直後、後ろから刺される。
俺たちは後ずさりする。
だが追い討ちをかけるようにシェルターの外からいくつものレヴナントが入って来た。
人型や変異型、2mから4mまで大小様々だ。
雪崩れ込んで入ってきては次々に人に襲いかかる。
これも見たことのある出来事だ。
シェルターは地獄絵図と化していた。
発狂し逃げ惑うひ弱な人間。
散乱とする血肉と死体。
シェルター内部を覆い尽くすほどのレヴナント。
俺はレヴナントの集団をくぐり抜けゲートの外に出るのを狙い、ついにそのチャンスが到来したときのことだ。
__ゴロン。
1つの死体が腕と首のない状態で転がってきた。
服装で正体が判明する。
「......リュウジ?」
それは隆二の死体だった。
「あぁ......あぁ......ああああああああああああ」
俺は半狂乱になりながらもゲートの外まで突っ走った。
嫌だ、嫌だ、こんなの夢だ、夢に決まってる。
外に出た時のことだ。
「う、嘘......だろ......?」
既にシェルターの外はレヴナントに囲まれていた。
そして自分を見るなり近づいて来る。
「く、来るな.......化け物......」
そんな言葉も通らずレヴナントに襲われる。
「嫌だ......死にたくない......死にたく__」
肢体からもがれ最後に首をもがれた俺は言葉を失った。
__ズダダダダダ、ズダダダダダ
ん......?
フォルテの銃声が聞こえる。
そしていつの間にか俺は地にひれ伏していた。
しばらくして銃声が鳴り止む。
その時、聞いたことのある女性の声がした。
「少年、もういいぞ」