第拾玖話「修羅」(前編)
「__ほらほら! 早く当ててみてよ!」
「くっ......」
短機関銃で連射しながらも一体の機体を狙い撃つ。
しかしその軽やかなアクロバットでかわされ続ける。
標準は合っている。
それなのにまるで役に立っていない。
(ちょこまかちょこまかと......! これじゃあらちが明かないッ!)
早苗はブーストをかけ、撃ちながら追いかけた。
それでもその身のこなしに命中することはなかった。
そして短機関銃MP67はついに弾切れを起こす。
「チッ......ここでかッ」
「おっと、もう終わりぃ?」
そのタイミングを見計らった優は、背中部分のロックを外し機関銃「フォルテ」を右手に装備する。
口元でにぃっと笑い、早苗に銃口を向けて撃ち放った。
即座にブースターを起動させて回避を試みるものの、脚部に弾丸が集中して着弾され動きが遅れてしまった。
「あちゃー、みすっちゃったか......次こそ狙ってやる!」
早苗には分かっていた。
今のはただのミスではなく故意であったことを。
そして彼、優は見た目の割には残酷な人物であることを。
早苗はMP67を地面に捨てた。
かわりにショットガンGS12を両手に持つ。
ある程度は読めていた。
彼は私の弾が切れるまで逃げ続け隙を見つけてから反撃をする。
そうすることで一方的に攻撃が可能になるというわけだ。
いわゆる『待ち』に徹底した戦闘スタイル。
だが私には奥の手がある。
当てれば一撃で相手を仕留めれられるショットガン。
近距離戦に持ち込んでこいつを使えば、どんなに硬い装甲ですら貫き通す。
ここで問題なのがいかに相手にノーダメージで接近すること。
今はとりあえず身を隠すしかない......!
早苗は一気に出力を上げて建物の裏まで移動しようとした。
しかし__
バゴォォォォォォンッッッッ
「何ッ!?」
その建物の壁がいきなり爆発。
砕け散ったガレキと爆風に飲まれてしまう。
「前がッ......」
衝撃に耐えたが黒煙が周囲の視野を奪う。
その時黒煙に穴が開き無数の弾丸の嵐を浴びせられる。
徐々に機体を貫通していった。
やがて身体の自由が効かなくなるほどにまで到達し、凄まじい轟音とともに早苗の機体は爆発を引き起こす。
撃破したのを確認し自身の隊に報告をいれる。
「こちら優、早苗とかいう女を倒しました。__あぁ、はい勿論いつも通りですよ。__え? 卑怯だって? 嫌だなぁ、僕にも__」
煙を上げ焼かれ立っているかつてアーマードだったものに背を向けて、次の標的を狙いに飛び去った。
優。
偵察担当でありながらも工作員としての顔を持つ。
弾切れまで敵機の攻撃をかわしていたのはただの囮。
本当の狙いはC4と呼ばれる設置型爆弾をあらゆる場所に取り付けること。
相手がそこに逃げるように誘導させ見事に罠にはめたのだった。
ピーーーーーー
機能停止の音声がシミュレーションボックス内に響き渡る。
黒くなった画面が視界を覆った。
早苗の手は震えていた。
その後仲間からの勝利、引き分けなどの通信が続々と入ってくる。
何か冷たいモノが頬をつたっていった。
「負け......た......」
「ワタシが......」
「どう......して......?」
***
「どりゃあああああああああああッッ!!!」
「おらああああああああああああッッ!!!」
戦場に響く金属音と叫び声。
ところどころにぶつかった跡があるビルなどの建物。
二人には周りが何も見えていなかった。
いや見えなかったわけではない。
そんなつまらないものを見てるのが惜しかった。
互いは目の前にいる強者を逃すわけにはいかなかったのだ。
それはまるで血に飢えた獅子のごとく。
熱き決闘が申し込まれる。




