第捨漆話「何か顔つき変わった......?」(後編)
「これから戦場にでも行くみたい」
「......」
俺は思わず無言になってしまい立ち止まる。
まさか......感づかれたのか......?
「なんてね。でもなんか昨日より顔つき変わったよ? まるで別人っていうほどでもないけど」
「あはは、気のせいじゃないかな」
「そうなのかなー? うーんん怪しいなぁ」
そう言って美月はこちらをじろじろ観察する。
そうして何か分かったみたいにポンっと手を叩いた。
「あ、分かった。彼女できたんでしょ! なんだか男らしい顔になったからさ」
「えぇ......」
彼女だなんて1000%できるわけない。
俺は引きぎみに応えた後、ゆっくりとチャリを押し歩く。
「え、もしかして図星だった? え、本当......なの......?」
なんだか悲しそうな表情でこちらを見てくる。
「図星じゃないって。普通にいるわけないだろ? 高校生の俺のあだ名覚えてるか?」
俺の高校生のあだ名は「モテナイン」。
ナイン、つまり9人のモテない人が俺のクラスにいた。
そのうちの一人が俺だ。
ルックスは普通だが人を平気で小馬鹿にすることからモテなかった。
これだけ言わせてもらうが、平気で小馬鹿にすると言うとあるがあくまで故意じゃない。
まあ要するに天然で人の地雷を踏みに行く爆弾男だったわけだ。
「__知ってるよ。天然タラシでしょ」
「え?」
俺は耳を疑った。
そんなあだ名など一言も聞いたことがない。
「三木は無自覚だったかもしれないけど、あんたは色んな人落としていたんだよ。もう、これに関しては私に相談がいっぱい来て困ったんだからね!」
俺は呆然と立ち尽くす。
落とす? 一体なんのことだ?
顔は普通、性格は可燃ごみだった俺がか?
「......言っとくけど一番困ってたのは私だからね」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない、そういうところホント鈍感だよね」
「えぇ?」
美月はツーンとそっぽを向き歩き出した。
俺は慌てて追いかける。
「__はい、ここまでありがとね。また明日ね」
「おう、じゃあな」
俺は家まで送った後自宅まで自転車を漕いだ。
漕いでいる途中考え事をする。
さっきのあだ名についてだ。
本当にあんなあだ名をつけられたことはない。
他の誰かと間違えたのかと一瞬思ったが、そんなやつは俺のクラスどころか学級、学校の人にはいないはずだ。
俺は家に着くと高校で親友だった鳴無 隆二に電話をかけた。
「__おお、三木やんか久しぶりやな。どないした?」
「あぁ、俺の高校時代のことなんだけどさ__」
そこで俺のあだ名やその他の過去、美月について聞き出した。
出てきた応えを元にメモにまとめてみるとこんなかんじだった。
・美月とは高一で知り合った。そのまま三年間同じクラス。
・美月がいた、ある程度モテてた以外は自分の記憶と一致している。
・鈍感すぎて誰一人とも付き合うことはなかった。
「__まあ、こんなもんやな。なんや? 記憶喪失でもしたんか?」
「あ、いや......ちょっとしたレクリエーションで自分のことを話すっていうやつがあってさ、それのネタ集め的な」
「なるほどな、じゃあまたいつかかけてくれや」
「おうよ」
ピッと電話を切ってベッドに座り込んだ。
美月が来たことによって過去が変わったのか、はたまた俺がただ単に忘れているだけなのか。
考えても考えても謎は深まるばかりだった。
そうして夕食をとり、風呂に入り寝る準備を済ませた。
明日はいよいよ模擬戦だ。
ベッドに入り意を決して目をつぶった。




