第捨漆話「何か顔つき変わった......?」(前編)
大学に着くとまず始めに駐輪場で自転車を置いた。
そうして中に入り席に着く。
しばらくすると他の学生に紛れあの世界にもいた人達__そう、美月や駆達が入ってきた。
美月は既に色んな人と仲良くおしゃべりを楽しんでいた。
確か入学式のあと一日通ったから今日で二日目......だよな......
それでいてすぐ仲良くなれるなんてとんだコミュ力だ。
で、俺はその美月と高校生からの仲だという話だ。
美月がこちらを見つけると遠くから手を降ってきた。
俺も手を振り返す。
さて、まだまだ時間はあるし寝てようか__
そう思ったときだ。
「三木やっけ? ワイは宇崎駆って言うんや。よろしくな」
声のありかを頼りに右に向くと駆が立っていた。
ちゃらちゃらした服装に金髪姿。
服装以外はあの世界の駆と一緒だった。
こうして私服姿を見るとやはり違和感を覚える。
「あぁ、よろしくな」
そういや他の人達は俺のことが分からないから、念のためにいつかコンタクトをとろう。
ここでいう念のためとは長谷教授のように、この世界とあの世界で関係を持ってるのではないかと情報を得るためだ。
「ところで三木、あそのにいるやつちょっと気にならへんか?」
そう言って駆が指を指したのは大宮透だった。
一人でデスクに向かってパソコンを見ながら何やらメモをとっているように見えた。
「俺、ちょっちちょっかいしかけてくるわ」
駆はニヤニヤと透に近づいていった。
俺は「ちょ待てよ」と追いかける。
「俺は駆、こいつはさっき友達なった三木や。確か大宮やっけ? よろしくな!」
いつの間にか友達認定されてる......
透はこっちを一瞬見たが何事もなかったように自分の作業に戻った。
「なんや、ノリ悪いな。三木行こうぜ」
「あ、あぁ......あの、すいません」
俺は透に謝り駆とともにその場から離れた。
おかしいな、透ってあんな冷静すぎる人だったっけ?
俺はまた違和感を覚えながら一日を過ごした。
「__よし、今日の講義は終わったな」
俺は書類を持ってこの世界のB5資料室へと向かった。
ノックをするとドアが開けられる。
「あら、お疲れ様、何かよう?」
「あ、そのこれを渡せとあっちの世界の長谷教授からと」
俺は書類を手渡す。
「ふーん、こことは違う世界から持ってくるだなんて凄いわね。どれどれ__」
ペラリペラリと書類をめくっていく。
その時の長谷教授の表情はまるでステーキを目の前にしたような興味が湧き溢れたものだった。
そして最後に書かれた文章を読んでフッと笑みをこぼした。
「__ありがとね。参考になったわ」
「そ、そうですか。別にこんなの渡したところで意味とかあるんですかね」
「うん、実にあるわよ」
その書類をコピーしてる最中、長谷教授はコーヒーを淹れてくれた。
当たり前かもしれないが淹れる手つき、できた時の味や香りはそのまんま一緒だった。
「__で、貴方はもう行くの?」
コーヒーを飲み終わると長谷教授はきいてきた。
「そうっすね、あまり長居しちゃあの世界に戻れなくなるかもしれないので」
「......じゃあ、頑張ってきてちょうだいね。でも不思議ね。」
「? 何がですか?」
「だって貴方が戻ってくるのは貴方にとっては一週間後、一ヶ月後かもしれないのに、私からするとたった一日後だもの」
「あはは、確かにそうですね」
俺は長谷教授に別れを告げた後、ゲームサークルへと向かった。
「よし、あの世界に戻る前にちょっくら練習していくか!」




