「あの世界」(中編2)
30年前......? 確かバブル全盛期だった時の頃か。
だからって何か大きな何かは起こらなかったはずだが......
「申し訳ないですがご存知ないです......さっきレヴナントと会って、ショックを受けたからだからかもしれません、くわしく教えてくれませんか?」
俺はとっさに嘘をついた。
こうでもしないとこの世界に馴染めないだろう。
そう思ったからだ。
「なるほど、......あれは絶望の始まりだったよ、地球外知的生命体通称『レヴナント』が__」
「お願いだからその話はやめてッ!」
そう叫んだのは一人の女性だった。
「私は......目の前で......レヴナントに親が......殺されたの......だからレヴナントの話は......もうやめて」
下にうつむいて泣きながら彼女はそう話した。
俺たちは黙りこむ。
そして特に話がないままシェルターへと着いた。
武装された2人組が輸送車の扉を開け、俺たちは指示に従い歩いてとある場所へと着く。
_シェルター。
それは1つの小さい山だった。
それも昔友達と虫とりに遊びにいつもよく行ってた思い出の場所だ。
隊員が中にいる係員に固定電話らしきもので連絡をとりシェルターのゲートが開く。
四重で重厚な頑丈なゲートのようだった。
そして中からしか開けられないように作られているらしい。
指示に従って列を乱さずに中へと入っていく。
シェルターは東京ドーム1個分もの広さだった。
おそらく山の中を全部くりぬいたのだろう。
100人ほどいるのだろう。
多くの人々が寄り添い合って生活していた。
しばらく周りを散策したのち、気になる人物がいるのを見て話しかけた。
「久しぶりだな、リュウジ、生きてて良かったよ」
彼の名は鳴無 隆二。
小学校からの友達で高校まで同じだった。
彼こそがあの時この山で一緒に虫とりをしに行ってた友人だ。
エセ関西弁を使うのが彼のアイデンティティーであり、彼のエセ関西弁による会話は誰ですら笑顔にさせる。
「いやー、まさか小学生の頃よく虫とりに行ってた山がいつの間にかこんなことになるとはな、まあ、あの時はすっごい楽しかったな」
そう懐かそうに話すと、リュウジは顔を曇らせ驚きの発言をした。
「ん?なに言うとんねんや、ワイあんたのこと知らへんで」
え?
「ま、あんたはなんかワイのこと知ってるみたいやし仲良くしようや、あとこの山はワイが小学校に入学した時からシェルターに改築するため立ち入り禁止になってたやろ」
......どういうことだ?
確かに俺たちはこの山で遊びにいってたはずだ。
勘違いとかは絶対にありえない。
なぜならこの地区で山があるのはここだけだからだ。
そもそも俺のことを知らないだって......?
「何下向いとるんや?具合でも悪いんか?」
「ああ、いや、何でもない、たださっきレヴナントに襲われそうになってアーマードに助けてもらったんだが、恐怖でショックを受け、記憶が変になったかもしれない」
またもや俺は嘘をつく。
「ほーん......そうなんや、それは不幸中の幸いだったんやな......でどうやった?」
リュウジはなぜか目を輝かせる。
「どうやった?って言われてもどういうことだよ?」
俺は意味が分からなく問い返す。
「ワイはテレビでしかレヴナントやアーマードを見たことがないんや、どんな感じだったか教えてくれや!」
そう言いながらずいずい来る。
「そうだな......レヴナントは、そのまんま黒い化け物で腕が刃状になってて、恐怖のあまり足が思うように動けなかったよ、あれはホントにトラウマもんだ」
レヴナントはゲームで散々見慣れたが、実際に見ると恐怖を感じてしまう。
トラウマというわけでもなかったが、こいつには少し誇張して話せばそれ以上詮索はしない。
「なるほどなー、で、アーマードはどうやったんや?」
「アーマード......幻げ_」
俺はつい名称を言いそうになったのを押さえた。
「ん?げんげ......?」
「悪い噛んだ、えっと、幻想的な機体だったな、うん」
「幻想的? どんな感じだったんや?」
「ああ、美しく洗練されたフォルム、颯爽とレヴナントを倒すその姿、全部が全部、魅力的で幻想的だった」
俺はあえてテンションを上げながら彼に伝える。
「おお! それはええもん見れて良かったな」
それから俺たちは他愛もない会話を続けた。
彼と1ヶ月ぶりに話すのはとても楽しかった。
しかし、リュウジの記憶に俺の存在はなく、噛み合わないこともしばしばあった。
__「この世界」は「この世界」なのだろうか。
俺は話しててずっとそのことが頭から離れなかった。
まあ、きっと夢かなんかの延長線のことだろう。
俺はそう思い込んだ。
しばらくして昼食が配給された。
昼食と言っても缶詰だ。
それでも朝食をとっていない俺からすれば、それは御馳走とも言える。
おまけにデミグラスソースのコンビーフ、缶詰にしては旨い方だった。
「__昨日と同じ夕食やが、まあうまいねんな」
そう頬張りながらリュウジが言う。
「そうなんだな......」
そういえば昨日の夕食は母さんが作ってくれたカレーだったな......
「せや、飯食い終わったらトランプでゲームでもしようや」
リュウジはズボンからトランプを取り出す。
家で彼と遊ぶときはよくトランプをしてたっけな。
中学生になってからはゲーム機が発売してしばらくはやらなかったが。
「いいぜ、じゃあ最初にやるゲームは__」