第捨伍話「まだやるべきことがある」(後編)
俺は急いで自室へと戻った。
バタンとドアを閉めベッドに仰向けになる。
「あぁ......疲れた。明日は大事な模擬戦だってのにあんなことしやがって」
そう明日は模擬戦だ。
リーダーは俺、三木 祥。
そして人数は俺を含めて8人。
詳細はまだ把握できないがおそらく相手も人数を合わせて8人だろう。
勝っても負けても特にないと思うがここは全力で勝ちにいきたい。
とりあえず今日は早く寝るか。
その前に、
「さて、これどうするかな......」
俺は長谷教授から手渡された用紙を掲げる。
うう、こんなの覚えろって言われてもできるわけないだろ......
「これをあっちの世界に持っていけたらなぁ......」
長谷教授からは物は試しと言われたが本当にできるのか?
いや、期待なんてできないな。
普通に考えて量子とかそういうレベルで他の世界で持っていけるわけないだろ。
「考えるのも疲れたな.....」
俺はだんだんうとうとしてきた。
そうしたままいつの間に眠りにつくのだった。
長谷教授から渡された用紙を片手に__
「ふわぁ......よく寝た......」
時計を見ると6時。
よし今日も早く起きれたな。
早起きは本当に気分がいい。
よし、支度をとっととすませて今日の模擬戦頑張るか!
ってうん?
よくよく見てみると部屋はいつもの部屋じゃなかった。
いつもの部屋、ここで言えばアーマード世界の部屋のことだ。
つまりそういうことだ。
「あ、あれ......? 元の世界に戻ってきちゃった......?」
ふと右手に違和感を覚え見てみると、手にはあの用紙が握られていた。
どうやら成功......したようだ。
いや成功というか別に思いもよらないタイミングで転移したから、成功と言えるのか......?
まあ、心のどっかで戻りたかったのだろう。
俺はこの世界での支度を済ませて朝食をとりに、下の階へと降りた。
そしてテーブルに着く。
朝食はスクランブルエッグとパンとスープの完全洋食セットだ。
俺は何事もなく食事にありつける。
が__
「......どうした、ヒロ? どこか調子でも悪いのか?」
父さんが新聞を畳み心配そうにこちらを見る。
俺は泣いていた。
こんなにもこの世界の普通のご飯がおいしかったのに感動していた。
あの世界の食事は基本的人工の味付けをされた合成食。
俺は久しぶりの普通のごはんが美味くて美味くてたまらなかった。
最後にスープを飲み干しごちそうさまと手を叩く。
「あら、そんなに美味しかったの? また今度も同じの作るからね」
「あ、あぁ......ありがと」
俺は涙をぬぐいカバンを持って靴を履き、外へと出た。
そういえばこの世界では普通の大学生だったんだな。
俺は自転車のロックを外し漕ぎだした。
カバンにはあの世界のモノが詰め込んである。
これを早くこの世界の長谷教授に渡さないと。
俺は坂を坂をと登る。
太陽は俺を照らし輝かす。
最後の坂を超え、大学が見えてきた。