第捨参話「試験と日常とワンワン」(後編)
「デデデデデデート!?」
「デデデデデデデデデデデデートです......!」
まさか、ついに俺にもこんなモテ期が来るなんて.......!
神様ありがとう、俺生きてて良かっ__
「まあ、とは言ってもいぬの散歩に付き合ってほしいだけですけどね」
「あ、はい」
「すみません、小夜ちゃんがいないので代わりを探してたんです。もしかしてお忙しかったですかね......?」
「ゼンゼンダイジョブデス」
俺の期待は見事に打ち砕かれた。
そうこうして俺はグラウンドの格納庫の外側の隅にある犬小屋まで来た。
「この子はポチって言うの。見て、可愛いでしょ!」
あ、ありきたりな名前なんだな......
どれどれ、見てみるか。
犬小屋から出てきたのは薄茶色の毛並みをした小柄の犬だった。
いわゆる秋田犬だ。
確かに可愛い。
試しに俺は手を差し出し頭を撫でようとした。
「グルルルッッ」
撫でようとした直前、ポチは後ろに回避し牙を剥き出した。
「あ、あれ......?」
「あ、いい忘れてたんですけど、この子結構人見知りで......」
「そ、そうなのか。とりあえずリードは俺には持てないな」
俺はやれやれとため息をついた。
「あはは、色々とすみません」
琴はリードを持ち、俺は琴の横についた。
二人で話ながらグラウンドの周りを歩く。
「__ところで疑問に思ったが、小夜ってどういう人なんだ? なんかいつも無口でなに考えてるか分かんないんだよな」
「うーん、確かに私も一方的に話していっつも相づちさせてますね。あ、でもたまに口を開いたり質問してきたりしますよ」
「ほーん、例えば?」
琴はごっほんと咳払いをし、声調を小夜に似せるようにして喋る。
「なぜ、人間は己の本能に従って行動するのに無駄な思考をに囚われるのでしょうか?」
「??????」
何言ってんだ????
何一つとして答えが出ないし、そもそも質問自体が理解できない。
「確かにそうはなりますよね......私も何も答えられませんでした」
「まあ、しょうがないさ、小夜は天才だからこそ理解できないなにかがあるもんだ」
「なるほどです......」
「あ、そういやもうひとつ聞きたいことがあるんだが、前にくれた御守りって何でちょっとだけボロボロだったん__」
「わぁ!!!!?」
俺が質問しようとしたときポチがいきなり走り出した。
リードを握っていた琴は無理やり引っ張られる。
俺も慌てて走り出した。
しかし、ポチの足は尋常じゃないほど速く俺の足だと捕まえられそうにはなかった。
距離はどんどんと遠のいていく。
ポチは施設から外に出られるゲートに向かっていた。
ポチは一体何がしたいんだ......?
は、まさか外に出たいんじゃ!?
俺はきづいてしまった。
だが、それとともに安心した。
なぜならゲートは背の高い頑丈な扉でできており、ネズミ一匹入れる隙間一つすらないのだ。
勝ったな......!
そう思っていたが現実というのは非常だった。
なんとゲートが開いていたのだ。
近くに整備士達がいるのが見えた。
おそらくメンテナンス中なのだろう。
琴を連れたポチは空いたゲートに一直線に駆けていった。
あまりにもの速さに整備士達は誰一人とすら気づかないでいた。
遅れながらではあるが、俺もゲートを通り抜けしようとした。
しかし一人の整備士に行く手をはばまれる。
「おっと、坊や、お外に用事かい? あいにくここは誰一人通らせてはいけないんだよ。それが犬でもあってもね」
いやさっき一人の少女と一匹の犬が通りすぎたんですけど。
「緊急事態なんですよ! どうか通してくれませんか!?」
俺は必死に懇願する。
事情を説明している場合ではなかった。
「もしかして、外に逃げ出そうとでも? それはいかんな~あははは」
「うるせえ! どけ!」
俺は腰に手を当て高らかに笑っている整備士を思いっきりグーで殴った。
それと同時に拳を食らった整備士はぶっ倒れる。
一部始終を見ていた周りの他の整備士達は、何事だとこちらに駆け寄ろうとした。
俺は隙を見計らってゲートを抜けようと全力疾走する。
だんだん小さく見えていく琴を目印に俺は走った。
「待ってろよ、琴。今助けにいくからな」