第拾参話「試験と日常とワンワン」(前編)
俺が早苗のことが好きだというのはたった1日で収まった。
現在の時刻は8時半。
ちょうど飯を食べおわって部屋にもどってきたところだ。
俺はドアを開けて入るなりまっすぐデスクに向かった。
明日は追試験がある。
この試験に合格できないと残念ながら俺は除隊となってしまう。
「.......はぁ」
俺はため息をつき腕を伸ばす。
昨日の疲れがまだたまっているのか、中々集中することができない。
こんなとき死に戻りを使えればなぁ......
不謹慎ながらもそう考えてしまう。
一度出た問題を暗記して死に戻りをすれば試験なんて楽チンだ。
でもそんな下らないことに使うのは言語道断だ。
教授からはむやみにやるなと言われてるし、例えやったとしてもどこまで過去に戻るのか分からない。
とりあえず今の安定した流れをほつれさせてしまうのはもっての他、今を大事にしないと。
だからと言ってここで試験に落ちたら本末転倒だよな。
さて、どうしたものか__
コンコン
俺の部屋のドアをノックしている音がする。
誰だろうか?
俺はドアを開けた。
「あれ? 駆と透じゃないか?」
そこには俺が言ったとおり駆と透がいた。
二人はレジ袋を片手に持っていた。
「三木! 明日大事な試験なんやろ? ほれ」
そう言ってポンと2つのレジ袋を手渡される。
「まあ、中身は大したものじゃないですが、ヒロ君のお力になればと」
中身を見るとエナジードリンク2本とミントガムが入ってた。
「じゃあな、三木、頑張れよ」
「ご健闘を祈ってますよ」
「あぁ! 絶対合格するから!」
二人に手をふり別れを告げたあと、ドアを閉めた。
早速エナジードリンクに手をつける。
「ちょうど眠かったところだ。助かったぜ」
そう言ったあとにエナジードリンクに口に含もうとしたとき__
コンコン
またノックの音がした。
今度はなんだ......?
俺はエナジードリンクをデスクの上に置いてドアの前まで来た。
そしてドアを開ける。
「三木さん! これ受け取ってください!」
いきなりお守りを渡された。
渡してくれた相手は琴だった。
「えっと、ありがとう、琴」
「えへへ、あ、気になってたんですけど三木さんって本当に早苗さんのこと好き.......なんですか?」
......琴には伝えておくか。
俺は琴の耳元で「実は違うんすよね」と答えた。
「ありゃりゃ......そうだったんだ!」
「ん? なんか嬉しそうだけどどうかしたのか?」
「なんでもなーい、じゃあまた明日ね! バイバーイ!」
琴はぴょんぴょんとスキップで自分の部屋へと戻っていった。
俺は困惑しながらも自室に戻る。
ん? なんだ?
触った感触に気になってお守りを見てみたが、少しボロボロなのが目に写った。
どっかに落としちゃったのかな......?
まあボロボロだろうが貰えるだけありがたい。
表には健勝祈願と書いてあった。
珍しいお守りなんだな。
後ろをみてみると黒く塗りつぶされたようなあとがあった。
まあこういうデザインなんだろう。
俺はデスクに戻ろうとした。
だが、
コンコン
またノックをする音が聞こえた
今度はなんなんだ?
そう思ってドアを開けた。
そこには美月がいた。
「あ、ごめんね。忙しいところ邪魔しちゃって」
「いや、別に大丈夫。それでなんか用があるのか?」
「用と言っても大したことじゃないんだけど、これあげるね」
虹色の何か輪のようなものを渡される。
「ん? これは一体......?」
「それはミサンガって言ってね、それが切れるまで肌身離さずつけていると願いが叶うそうなの!」
早速俺は腕に通した。
「うん! とても似合ってるよ! また明日頑張ってね! じゃあね!」
俺は手を振り返した。
そしドアを閉めた。
コンコン
えぇ......
あれから10秒も経ってないぞ。
俺は仕方なくドアを開けた。
「三木、調子はどうだ?」
そこにいたのは今宵だった。
「まあまあ......かな? ちょっと眠いんだ」
「そうか、なら良かった。ちょうどこれを届けたかったからな」
そう言って巾着袋らしきものを渡される。
「これは何が入ってるんだ......?」
「うむ、それには眠気覚ましの漢方が入ってある。とても身体によく効くぞ」
エナジードリンクと続き漢方か......
これは今日眠れんぞ。
「あ、ありがとう。今宵さん」
「では健闘を祈るぞ」
「はい!」
俺は今宵に別れを告げてデスクに戻った。
流石にあれからノックの音は聞こえなかった。
よし! 頑張るか!
俺だけじゃないみんながいるんだ。
俺は漢方をイッキ飲みし勉強に手をつけた。
終わらない夜が始まる。