第拾弍話「如月早苗という人物は」(中編2)
「え、三木、それ......どういうこと......?」
振り替えるとそこには早苗がいた。
俺は最悪のタイミング過ぎて固まってしまう。
「三木、貴様もしかしてそんなことに気をとられていたのか」
東雲教官は薄目でこちらを睨む。
「......」
ダメだ。この状態で「はい」とは言えない。
予定としては適当に叱られて次からは気を付けます。
終わり。ちゃんちゃん。
で済ませたかったのに。
「テストの件があったが、貴様が除隊することを代わりにそれをなしにしてやってもいいんだぞ」
まずいまずいまずい。
段々悪い方向に向かってるよ......
どうすればいいんだ? 俺。
自問自答をしてみるも案は出なかった。
ここはもう諦めて「はい」と言うしかないのか......
「は、はい......」
言ってしまった。
弱々しい声だが言ってしまった。
「......」
「......」
二人とも無言になる。
「......この大馬鹿者ッ!」
パシンッ
乾いた音が鳴り響く。
ちょうど東雲教官から平手打ちを頬に食らったところだ。
そしてその長身から髪を掴まれ顔を無理やり上げられる。
「戦場の掟がなっとらんッ! 貴様は何を学んだんだッ!? 色恋沙汰を戦場に持ち込むな。それで貴様が死ねばこの隊の恥さらしだ。もう一度言う。恥さらしだ。分かったな」
東雲教官は俺の髪から手を離した。
その後何も言わずに教室から出ていった。
「くっ、いってぇ......」
「ねぇ、三木」
後ろから早苗の声がする。
「私のこと......その......好きなの......?」
「え、まぁ、まぁな」
まだ事は済んでいない。
ここは好きっていう設定でいくか......?
「どこが......好きなの......?」
ほよ?
なんかいいかんじじゃね??
まあ、俺自身は好きでもなんでもないが。
とりあえず適当に答えるか。
「ちょっとクールなとこっていうか。まぁそんなかんじです、はい」
これで大丈夫だろう。
ふ、なんとかこっちはこっちで特に支障はなく済みそうだ。
「そう......なんだ......」
「あ、あぁ」
「キモ」
「え?」
思わず口に出てしまった。
いや、待てどういうことだってばよ。
早苗は俺のことをまるでゴミを見るような目で見ている。
「あのさ、キモいよ。何? 好きって? クールなとこが? ほんっとキモい」
追い討ちをかけられるようにキモいと言われる。
「私をかばってくれたのは感謝している。でもそれとこれは別だから。」
「......」
俺はあまりにもの展開にまたしても言葉が出なかった。
「これ明日、みんなにバラしたらどうなるかなぁ」
バラすだって......!?
そんなことしたら社会的に俺が死ぬじゃないか!?
「じゃあね、キモツギ。あ、あと私、忘れ物とりにきただけだから」
早苗は机から何かを取り出したあと足早に教室から去っていった。
終わった......
完全に終わっ_
てないな!!
先手を打っておけばいいのだ。
先にこういうデマが流れるよと伝えればなんとかなるだろう。
と言っても今は夜の9時半、部屋まで行って呼び出すのは少し無理がある。
おそらく今宵はこの時間帯でもグラウンド走っているだろう。
今宵だけにでも伝えなければ。
_グラウンドに来てみたものの誰一人としていなかった。
そういえば早苗が死んだ世界では頭を冷やすために走ってたんだよな。
じゃあ死ななかったらそもそも走る必要はない......ってことか。
俺は一人で「なるほど」と手を叩いた。
いやいやいや、これじゃダメなんだって。
仕方ない。
早苗を生かせてあげられたんだ。
このくらいのペナルティはあってもいいだろう。
とりあえず長谷教授に今までのこと報告しよう。
死に戻りしたら必ず報告しなきゃいけないんだった。
って言ってもこの世界の長谷教授が言った訳ではないが。
俺は茶色い封筒を片手に支部のB5資料室に向かった。




