第拾壱話「絶望」(中編2)
それから別れの挨拶を交わし自分の寮の部屋に戻った。
これからどうするかは結局決まらなかった。
そのまま何もなく夜が明けた。
俺はいつも通りの時間に起き、身支度を済ませ教室へと向かった。
既に何人かはいたが美月の姿はなかった。
時刻は7時となり朝のホームルームが始まる。
「_貴様ら、昨日の件のことについては分かっているな」
東雲教官はバンッと教卓を叩きつける。
「......ここは戦場だ。いつ誰が死んでもおかしくない」
俺はゴクリと唾を飲み込む。
「......教官」
そんな中、駆が口を開く。
「なんだ? 宇崎」
「美月はどうしていないんですか?」
「あぁ、高岩のことか。あいつはやめたぞ」
え?
やめ......た......?
「如月の死がトラウマになってうつになったらしい。それと同時に死に対しての恐怖が強まって更に......まあ、しょうがないとしか言いようがない」
「そう......ですか......」
「......これを機に話がある」
東雲教官は真面目な表情になった。
「無理に続けろとは言わん。この隊から抜けてもいい」
あたりはシーンと静まりかえる。
「抜けたところでペナルティはない。国指定の避難所に送る予定だ。抜けたメンバーは他のところから人員を新たに調達する。貴様らにとって悪い話ではない。どうだろうか」
しばらくして琴が手を挙げた。
「すみません、私、我慢してたんですけど美月ちゃんと同じく大事な仲間を失うのが怖いです......だから....その......抜けます」
「そうか、今までよく頑張った」
琴までも......
「......俺もです」
そう言って手を挙げたのは駆だった。
「なんだかんだ言って死ぬのは怖い......ですね......本当にすみません。今までお世話になりました」
「宇崎も......か。そうかこちらこそ今までありがとうな」
次々と抜けていくメンバーを見て俺はどうしようもなかった。
確かに仲間や自分が死ぬのが怖いのは、人間誰しも思って当たり前のことだ。
俺があの時気づいてればこうはならなかった。
俺が全て奪ったんだ。
自分を責めても何も取り返すことはできない、そんなことは分かりきっていた。
_朝のホームルームが終わった。
抜けると言った二人は荷物をまとめて俺たちに挨拶をし、輸送車に乗り込みどこかへと行ってしまった。
残ったメンバーは俺を含めて5人。
二人が行ってしまったあと、言いよう難い虚無感に襲われた。
俺が自室に戻ろうとしたとき東雲教官が俺を呼び止めた。
「いつものやつだ、教授によろしく頼む」
そう言って手渡されたのは茶色い封筒だった。
俺はコクりと頷き駆け足で支部のB5資料室へと向かった。
コンコンとノックをする。
中から長谷教授の返事がし、俺はドアを開けて入っていった。
「久しぶり、かしらね」
「大体一週間ぶりですね。元気してましたか?」
「まあ.......ボチボチ? けど研究はそこそこ進んだわよ」
「そう......ですか......」
「あら? やけに暗いわね。もっと喜んでもいいのに」
「すみません、つい先日同じ隊の仲間が亡くなってしまって......」
「なるほどねぇ......それは御愁傷様だわ」
「俺のせいなんです.......俺が早く気づいてさえいれば......」
俺は拳を固く握りしめた。
「自分を責めても過去は変えられないわよ」
「......」
「......あくまでも自分を攻めなければの話、なんだけどね」
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......どういうことだ?
俺には全く意味が分からなかった。
その時長谷教授は驚くべきことを口にした。
「......私と過去を変えてみない?」




