第拾壱話「絶望」(中編1)
_そこからほとんど記憶がない。
いつの間にか俺は寮の自室にいた。
時計の針は午後10時を指している。
早苗はどうなっただろうか。
覚えている記憶では、あれから......あれ?
いや、ダメだ。
全く思いだせない。
チクタクと音をたてて針が進む。
他の音は一切しない。
俺はベッドに寝転んだ。
これからどうすればいいのかをため息をつきながら考える。
......とりあえずグラウンドにでも走りにいくか。
寝ながら考えても何も出ない。
こういうときは走って考えるのに限る。
早速自室から出て玄関に向かう。
道中にある休憩室にて俺は立ち止まる。
......そういや、ここで美月と早苗が話していたよな。
美月は今回のことをどう受け止めているのだろうか。
さぞかし辛いだろうな。
今まで共にしてきた仲間が初陣で重症を負ったってのは。
俺は歩き始める。
そのまま外へと出た。
辺りは暗かった。
だがグラウンドに一つの人影があった。
「あの身長......今宵さんか」
ちょうど良かった。
早苗がどうなったのか聞きたかったところだ。
俺は手をふる。
それに気がついたのか今宵はこちらの方へと駆け寄ってきた。
「すみません、走ってる途中に」
「ああ、ただ頭を冷やしていただけだ。別に大丈夫だぞ」
「えっと、頭を冷やす?それまたどうして?」
「同胞があんな目に遇ったからな......少し冷やさないと落ち着かないもので」
なるほど。そういうことだったのか。
「それで、私に何か用事があるのか?」
「はい、早苗が襲われてからの記憶がなくて。あれからどうなったんですか?早苗は無事なんですか?」
今宵は少し夜空を見上げ考える。
そしてこう応えた。
「結論から言うと早苗は亡くなった」
「え......」
てっきり重症を負っただけで生きているのだと思っていた。
そんな簡単に人が死ぬものなのか?
俺には今の状況を読み込むことができなかった。
「あれからどうなった......か。かいつまんで話すと三木、お前が早苗を必死に守ったんだ。」
「守った......?」
聞く話によると、早苗を襲ったレヴナントをめった刺しにし、他に現れたレヴナントも銃器などで対抗し救援が来るまで守りきったそうだ。
しかし、救援が間に合わなく早苗は出血多量で亡くなってしまったのだ。
「_そうですか。あの時近くにいた俺がレヴナントに気がつかなくてすみません」
「否、三木はよくやった方だ。あの量のレヴナントから生還したんだぞ。誇りにもってもいいぐらいだ」
「でも......俺は早苗を助けてあげられた、なのに......俺は......」
「馬鹿者ッ!」
ガバッと抱き締められた。
「同胞が一人でも生き残ったんだぞ。それだけでもいいことではないか!? 早苗のことは悲しいのは分かる。でも過ぎた過去はどうにもならんのだ」
今宵の眼から涙が滴り落ちる。
俺は何も言い返すことはできなかった。
代わりに強く抱き締め返してあげた。
月に照らされたまま時は過ぎる。