第拾話「切望」(後編)
「...ん?」
反応があった場所の途中にいく最中、ドアが突き破られた市民体育館が目に入った。
通常は市民がイベントやスポーツクラブで用いる場所だ。
だがどうやらここは避難所として使われているらしい。
「...なあ如月」
「何?」
「ここって避難所だよな」
「はあ?何言ってるの?当たり前でしょ?」
「じゃあさ、」
「なんでここには生体反応が1つもないんだ..!?」
「......」
この先の方面にレヴナントの反応。
そして突き破られたドア。
1つとしてない生体反応。
悪い予感がした。
冷や汗が頬をつたるのが分かった。
この先に何が待ってるのか、俺には理解できていた。
足取りは重かった。
それでも吸い込まれるように市民体育館へと歩みよっていく。
「_待って」
ふいに後ろから早苗の声がした。
「寄り道してる場合じゃないはずよ」
確かにそうだ。
こんなところで時間を費やすしてる暇なんてどこにもない。
それでもその足が止まることはなかった。
俺は体育館の中へと入っていく。
そこにはさっきまで生活をしていたような跡があった。
_死体が散乱していた。
顔がないもの、肢体がないもの、下半身がないもの、原型すら留めていないもの、老若男女バラバラなものがそこにはあった。
俺は思わず吐きそうになった。
無理やり上を見上げこらえる。
それでも胃という胃からなにやら酸っぱいものが込み上げてくる。
アーマードのマスクで分からないが、おそらく恐ろしいほどの腐乱臭がするだろう。
俺は一歩、また一歩と前に進む。
しばらく進むと微かだが生体反応があった。
俺はその反応がある場所へと向かう。
「...そこに誰かいるのか」
声がした。
その声の元には一人の中年男性がいた。
「レヴナントにやられたんですか...?」
俺は声をかける。
「あぁ...見てのありさまだ」
今ににも息絶えそうな様子だ。
目は開けることができないかんじだった。
「今、救援を呼びます、しばらく待っていてください」
そう言って俺は支部に伝えようとした。
しかし彼はこう言った。
「私はなにもかも失ってしまった。もうこのまま楽になりたい...」
「...ッ!ダメですよ!生きてるだけでいいことの1つや2つ!あるじゃないですかッ!」
俺は必死に訴える。
だが彼は何も応えなかった。
そして徐々に生体反応が弱まっていくのが分かった。
どうすることもできなかった。
「俺があなたを担ぎます。早く肩に乗ってください」
「......」
返事はなかった。
しびれを切らし俺は彼を無理やりにでも担ごうとした。
しかしそれはできなかった。
なぜなら体がぱっくりと横に引きちぎられていたからだ。
俺は身の毛がよだった。
既に男性の生体反応はなかった。
そんな中、1つの通信が入る。
「三木、まだか」
「......」
「三木ッ!」
「あ、あぁ...今戻る」
俺は慌てて外へと出た。
晴天がやけに眩しかった。
「三木、何かあったか」
「いや、何もなかった」
俺は嘘をつく。
「...そう」
おそらく早苗は察しているのだろう。
俺たちはそのあと何も言わずに目標地点へと向かった。




