「この世界」(後編)
「まだ死ぬなよ少年ッ!」
マルチ回線が繋がり一人の女性の声が聞こえた。
一体何が起こっているんだ...?
ふと上空を見上げるとそこには驚きの光景が待っていた。
「幻月の......連続編隊......!?」
そこには幻月の2編隊、計10機の姿があった。
くの字ように空を旋回する。
「まだくたばるなよ!ボウズ!」
「ちょっとまっててね、すぐ終わらせるから」
たくさんの声援に囲まれ俺は安堵する。
「A部隊は狙撃を行う。B部隊は散って10m級のヘイトを稼げッ!」
「「「了解!!」」」
あの女性がリーダーなのか。
それにしても凄い統率力だ。まるで本物の司令官を目の前にしているように感じる。
A部隊はマンションやビルの屋上などに降り立ちロケットランチャーやスナイパーライフルで応戦し、コアのある部分、背骨や胸骨を狙う。
一方B部隊は低空飛行をし攻撃を次々にかわしていく。
そして一つの回線が入る。
「こちらA3、10m級背骨部分融解確認しました、直ちにA1の砲撃用意お願いします」
俺はあまりにも速すぎるその戦闘に釘付けになっていた。
_0:08
_0:07
「言われなくてももう準備はしてやらぁ!!!」
上空にいた一機の幻月は既にトリガーを引いていた。
その姿はまるで空に浮かぶ月のようだった。
砲弾が見事コアへと直撃し内部から大爆発を巻き起こす。
それと同時にあたりに黒い肉片と血が無残にもビルの壁や道路に飛び散る。
0:01
カウントが止まる。
「任務完了、直ちにアーマードを回収します」
勝ったのだ。
俺は、いや俺たちは。
「諸君、よく頑張った。そして少年、よくぞ耐えてくれた。この戦いは人類の勝利だ。皆の者、存分に勝利を味わってくれ!」
さっきと同じ女性がそうみんなに伝える。
それを聞いた仲間達は歓喜の声を一斉に上げた。
__その後俺はロビー画面に戻った。
「君って確か、さっきの......」
黒髪のロングで175cmはあるだろうか高身長の女性が一人、俺の元へと声をかけながら駆け寄ってくる。
「あっはい、そうです。先程は助かりました。ありがとうございます。さっきのチームワークの取れた戦い本当にすごかったです」
俺は彼女に向かって一礼する。
「いいよ、いいよ。困っている人を助けるのが人類ってものでしょう。あ、言ってなかったけど私達は同じ大学のサークル仲間なんだ」
「それは......楽しそうですね。あの、一つ聞きたいことがあるんですが」
「ん? 何かね少年」
「鯖落ちして俺はしばらくオフラインで戦っていたんですが、どうして参加できたんですか?」
「あぁ実はね__」
聞く話、鯖落ちした5、6分後にサーバーが復旧したそうだ。
たまたまソロで俺の部屋が立てられたままだったので、救援しにサークルメンバーで凸ったという話だ。
そしてなんとそのサークルメンバーはみな死ななずにチュートリアルをたった1時間弱でクリアしたらしい。
「こういうゲームで大事なのはちゃんと役割を決めて作戦を立てて司令官の指示に従うことだよ。皆が皆同じ立場で頑張ろうっていう甘い戦法じゃ味方がやられたとき誰がカバーに入るか迷っちゃうからね。それとね__」
彼女は意気揚々と自慢気に語り続ける。
「__とまあこんなところだね、じゃ私はもう落ちるから、じゃねー」
「な、なるほど......勉強になります、その節はお世話になりました、さよう__」
俺が言い切る前にログアウトしてしまったようだ。
さて......疲れたしそろそろ終わるか。明日は入学式だし。
VR機器を外し時計に目をやると既に時計の針は12時を指していた。
「うおっと、もうこんな時間か。早く寝ないと」
俺はささっとパジャマに着替え布団を被り寝床につく。
あぁ......この世界がゲームの世界だったらなぁ。
こういった妄想を広げるのが俺の寝る前のルーティンだ。
だがそんな時間も儚く、俺は疲れのせいか深い眠りに落ちたのだった。