第玖話「第二の目覚め」(前編)
_4月24日
「...ここは...そうか、転移したのか...」
俺は目覚める。
時刻は6時だ。
そしてこの世界はこの世界じゃない。
訓練服に着替え朝食をとりに食堂へと向かった。
食堂には既にみんなが揃っていた。
「おはよう、今日は流石に早いんだね」
透が話しかけてきた。
「もちろん、2日連続で教官に叱られるのは嫌だからな」
「三木さん、なんだか疲れてる顔してない?昨日あんまり眠れなかったの?」
そういやここの琴は三木さんって呼ぶんだったな。
「あはは、まあ、そんなかんじかな」
「なんや三木もか、俺も一緒や、やっぱアーマード操縦するの疲れるよなぁ」
_俺たちは何気ない会話をして食事の時間を過ごした。
そして朝のホームルームも終え、講義とアーマードのシミュレーションを交えて今日の訓練が全て終わる。
終わると同時に東雲教官に呼ばれて、また茶色い封筒を渡される。
俺はそれを持ってB5資料室に向かう。
「あら、なんだか疲れているように見えるけどそんなに訓練が厳しかったの?」
「あぁ...いえ、ただ昨日の夜、実は転移したんですよ」
「ほう...詳しく聞かせてちょうだい」
俺は現世界のことを話した。
小夜を除いてこの世界と同じ人が出てきたこと、そして
「_あっちの方での長谷教授もあなたと一緒で異世界のことについて研究してました」
「まあ...なんて奇遇なことね!いや必然と言っていいのかしら」
長谷教授は今まで見たこともないように明るくなる。
「どうやらあの世界に行きたいって強く思うと行けるみたいです、元の世界に戻ったときもこの世界で同じことを思ったのでこの説は本当だと思います」
「なるほどね...やろうと思えばあっちの世界の私とも意思疎通可能ということね...これはいいわ」
そう言うと長谷教授はノートパソコンを取り出しカタカタと忙しく手を動かす。
「_はい、これで完了っと」
長谷教授がエンターキーを勢いよく押すと1枚の書類がプリンターから出てくる。
そしてそれを手渡す。
そこにはよく分からない計算式と1行の文が添えられてあった。
あなたの知恵が必要、もうひとりの私頑張りましょう。
「...何の助けを求めるんですか?相手はレヴナントやアーマードがない世界の人間ですよ?」
「できるかぎりのことをするだけ。まぁ、あなたには後で知ってもらうことになるけど。とりあえずこの書類の内容を次に転移する前に覚えて、もうひとりの私に伝えてちょうだい」
「ええ!?この計算式とか全部ですか!?」
「期待してるわね、世界を紡ぐ鍵ちゃん」
「は、はぁ...」
_とは言ったものの完璧に覚えるのは無理がある。
おまけにあともう少しで筆記テストがあるし....
さて、どうしたものか...
「どうかしたのか?三ツ木」
「今宵さん...?」
どうやら偶然会ってしまったらしい。
「今日はずっとそんな調子だ、何かあったのか?相談でものるぞ」
「あ、あぁ...別に大したことじゃない」
転移のことについて色々あったが、長谷教授の件もあってそれを話すことは禁じられている。
「そ、そうか...それは悪かった」
「いや、こっちこそ...そっちはどうだ?何かあったら俺も相談にのるよ」
「いいのか...?」
「俺たち仲間だろ?お互い様ってもんだ」
「そうか、だが今のところは特にない、来たるべき時が来たらその言葉に甘えさせてもらうぞ」
「分かった」
俺は今宵にまた明日と告げ、自分の寝床についた。
とりあえず今日は転移しなくて大丈夫だよな...
現状、デメリットがあるか分からない。
もしかして回数式なのかもしれない。
だとするとむやみやたらに転移するのは悪手だろう。
転移は必要な時だけにすることにしよう。