第捌話「ただいま、さようなら」(中編1)
「琴...!?」
「覚えてたんだ...!嬉しい!」
そう言いながら彼女は思いっきり抱きついてきた。
「な...やめっ」
俺は赤面しながらも無理やり引き離す。
てかなんで琴がここに...?
「どういうことだ?琴も異世界転移したのか...?」
「うん?」
反応から見るにそのような節はないといったかんじだ。
となると東雲教官の件もあって、あの世界とこの世界がなんらかの形でリンクしているってことになるのか?
「おばさん、ヒロくんが考え込んでるよ?なんか変なワード言ってるし...」
「名前だけ覚えていて、過去のことは覚えていていないのかしら?ヒロと琴ちゃんとは幼稚園以来会ってないことだし」
「そ、そうなのか?」
俺の記憶には琴についての情報はない。
忘れているだけなのか...?
「え、じゃあ、あのことも覚えて...ないのかな...」
琴はなにやら心配そうな顔をする。
「うーんんん...悪い、覚えてないかも...」
頑張って思い出そうとは努力したが何1つとして思い出せなかった。
「...ヒロのばか」
ボソリと呟く。
「まあ分かった、分かった、しばらくしたら思い出すかもだからそう起こるなって」
その保証はできないがこうやって言うしかない。
「約束ね!指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指きった!!」
いきなり指を掴んできたと思ったら指切りをしてきた。
子供かよ...
「_てかなんで琴が俺の家にいるんだ?」
ずっと疑問に思っていたことを話す。
「入学式の帰りでお掃除してるおばさんと会ったの!」
「それで家に招き入れて、聞けばヒロと同じ大学だったもんでびっくりだわ」
え、同じ大学だったのか!?
そういや入学式寝てたから周り見てなかったな...
「ということでこれからもよろしくね、ヒロくん!」
そういって彼女は手を突きだす
「あ、あぁ...よろしくな」
と言って俺は握手に応えた。
「あらやだ、私にも孫ができるのね」
「母さん...なんかいった?」
「いえ、別に~」
「ヒロくん、ヒロくん、そういえばおばさんから聞いたんだけど、ぶいあーるゲーム?にハマってたんだよね」
「そうだけど...それがどうしたんだ?」
「私もやってみたいんだけど大丈夫かな?」
そんなこんなで2階の自室へと琴を入らせた。
何気に女子を招き入れるのは初めてだったりする。
「すんすんすん...なんだかヒロってかんじの匂いがするね!」
「いやどんな匂いだよ...」
俺は苦笑いをしながらも琴にVRゲームの装置を着ける。
「これでよし、あとは俺がパソコンと同期させて指示を送るから」
「ラジャッ!」
_数分後
「ぬわああああああああ!!!助けてええええええ!!!」
「ばか!逃げてると追いつかれるぞ!!」
ピーン ピーン ピーン
「ん?何この音?」
「燃料切れだ、さよなら、琴....」
チュドーン
GAME OVER
パソコンの画面が青い文字で点滅する。
俺は手で顔を覆い隠しため息をついた。
「もぉ、難しいよこのゲーム!!」
琴は装置を外し俺のベッドに大の字になって寝っ転がる。
「悪かった、でも最初のつかみは良かったぜ、あとは心の問題か...」
「ん〜〜〜!!!」
琴はうなりながらじたばたする。
「まったく、こんなに散らかしちゃって...」
俺が床に散らばった装置を拾い集めようとしたときだった。
誤ってベッドの近くにあった低いテーブルに足をかけてしまい、転倒してしまう。
「っ...」
どうやらそのまま琴がいたベッドにダイブしてしまった。
「すまん、大丈夫か...?」
「う、うん...ヒロくんの方こそ大丈夫...?」
「あ、あぁ...」
俺は琴を押し倒した状態になっていた。
互いの吐息が重なり合う。
ゲームを始めてかなり時間が経ったのか、部屋の中は暗くなっており琴の顔はよく見えなかった。
「今、離れるからな」
「え...う、うん...」
俺は立ち上がった。
そして電気のスイッチを押し部屋の明かりをつける。
「もう、こんな時間か...」
時刻は午後6時を過ぎていた。
「流石に帰らないとまずいんじゃないか?暗くなってるから途中まで送っていくよ」
「うん、そうするね、ありがと」
俺は琴を送るということを親に伝え、二人きりで月がぼんやりと出ている夜を歩くのだった。




