第捌話「ただいま、さようなら」(前編)
大学に着き、10時になったことで式が開かれる。
式中、春休みで体内時計が狂っていた俺は徐々にに頭が下がっていった。
そして式は終わりサークル、部活動紹介に入った。
その途中の出来事だ。
「貴様らぁ!何をボケッとしているッ!」
いきなりマイクで叫ばれた声は俺の目を覚まさせる。
この声...まさか...
「はじめまして諸君、VRゲームサークルのサークル長、東雲凛花だ」
その長い髪、男勝りの高身長、全てを圧倒するかの演説、まさに東雲教官だった。
「_以上だ、続きはサークル体験活動にて、敬礼ッ!」
東雲が敬礼したと同時に、俺は思わず座っている状態で敬礼してしまう。
「ほう...そこの者、見事な敬礼だな!期待しているぞ!」
東雲は俺のことを見つめそう言い残し、去っていった。
それからサークル、部活動紹介も全て終わり帰ることができる時間になったのだが、俺は真っ直ぐVRゲームサークルへと足を運ぶ。
ドアには見学自由と書いており、ガラッとドアを開ける。
そこには10人の上級生のメンバーが和気あいあいと話していた。
「あ、君もしかして、あの時の少年くんじゃない?」
「おお、なんか見たことがあれば昨日ゲームで助けたボウズじゃないか!」
どうやらこの人たちはあの時、自分の援護に来てくれた人たちのようだ。
「ふむ、入学式で人目見て気になったがやはり新米兵の少年だったか、VRゲームサークルへようこそ」
俺はそこでVRゲームサークルの説明を聞いた。
その内容はあまりにも驚くべきものだった。
元々ゲームサークルという名目のサークルで、とても小さい部屋で活動していたそうだ。
しかし、東雲教官がサークル長になったとき莫大な資金をかけて空き地丸々改造し、大きなVRゲーム専用ルームを儲けたという話だ。
「ここがVRゲーム専用ルームだ」
部屋の外に出て道を歩き大きなコテージにたどり着く。
中に入るとあの世界で見たシミュレーションルームがそこにあった。
「ひ、広いですね...」
「ここには50人が同時にプレイできるようになっている、今はメンテナンスが入ってるから今日のサークル活動はないから、また明日だな」
「分かりました、ではまた明日お伺いします」
「了解した...敬礼!」
いきなりの敬礼の命令に俺は1秒も遅れずに敬礼を返す。
「ふむ...流石だな、反射神経もいい...まさか少年、前世は軍人だな?」
「あはは、そうかもしれませんね...」
_俺はサークルメンバーに別れを告げ、待っていた父の車に乗り込んだ。
「ずいぶん遅かったが、なんか見てきたのか?」
車を走らせている中、父が質問してきた。
「VRゲームサークル見てきたよ、なんでも東雲凛花さんって人が凄くてさ_」
「東雲財閥の令嬢か、それまたど偉い人がいるもんだな」
あの人財閥だったんだ...
なるほど、だからあれほどのお金をつぎ込めたのか。
「で、VRゲームサークルっていうのに入るつもりなのか?」
続けざまに訊いてくる。
「そうかな、俺、ゲーム好きだし」
「そうか、父さんはな、昔は_」
_それから他愛もない会話を続け帰宅した。
玄関に入りふと見ると見慣れない誰かの靴があった。
女性の靴だろうか。
靴の装飾的に母さんのものではない。
「ただいま、誰か来てるのか?」
俺はそう言いながら靴を脱ぎ、リビングに入った。
「それでねー...あら、うちの息子が来たわ」
母が誰かと話している。
そこにいたのは_
「ヒロくん、久しぶり!元気にしてた?」
犬耳のように突きだした髪、やけに低い身長。
どうしてこいつがここにいるのか俺には分からなかった。
「琴...!?」