第漆話「掟、規則、理」(後編)
「...どういうことですか、誰も戦わなかったって」
「正確に言うとね、ドイツのツィアシュトーレンと呼ばれる組織がユーラシア大陸、アフリカ大陸を防衛すると宣言したの」
だが実際に防衛することはなかった。
レヴナントは人口の多いアジアを襲撃、つい最近になって壊滅まで追い込んだ。
ツィアシュトーレンは自国周辺に侵入してくるレヴナントだけを倒していった。
このことについて理由が明かされることはなかった。
「それでね_」
コンコン
「すみません長谷教授、いつもの方が面会をご所望と」
ノックがし男の声がドアの向こう側から聞こえた。
「あら、今日来るだなんて連絡ぐらい入れてもよかったのに」
「お知り合いなんですか?」
「まぁ...そんなところかしら、この話の続きはまたどこかで」
俺は入り口間際で一礼し、B5資料室から出ていった。
そしてその足で寮まで向かおうとした。
_寮の途中にある休憩室に入る時だった。
「三木ってやつ、えこひいきのくせに調子のっててウザいと思わない?美月?」
声がしたと思えば早苗だった。
俺は入ってはまずいと身を潜める。
「早苗ちゃん、仲良くしようよ。三木くんだっていくつもの難関を越えてきた立派な人なんだよ」
どうやら美月が説得しているようだ。
「所詮は選ばれた人間、えこひいきなのには変わりはないから。そんなやつとここに入るまで努力した私が仲良くするだって?」
「早苗ちゃん...」
「明日は早いからもう行くね、ま、えこひいきと仲良くしても私は美月のこと嫌わないから」
早苗はそう言い捨て去っていった。
「どうやったら仲良くできるかな...」
美月は取り残されたままでいた。
「_まあ、人には合う人と合わない人がいるさ」
俺は肩をポンと優しく叩いた
「ひえっ!あぁ...三木くんか...もぉ、いたならあの時顔出してよー」
彼女はあわてふためいた様子だった。
「悪い悪い、でも流石に俺がいたらあいつと関係が悪化しちゃうだろ?」
「ん...そうかな...二人で話せば仲良くできると思うんだけどな...」
うーんんん、美月はどうやらそういうのが苦手なタイプか?
「あ、そうだ、いいこと思い付いちゃった...!」
「ん?なんだ?」
俺は食いぎみに問う。
「んーん?内緒だよー」
ええ...
「ってもう9時半時か...悪いなこんな時間まで、早く寮に行こうぜ」
「そうだね!」
俺は美月と二人で軽い世間話をしながら寮に戻った。
「_また明日ね、バイバイー!」
「じゃあな」
俺は手をふり自室のドアを閉める。
そして明日に備え身仕度をし、歯を磨いたりお風呂に入ったりして寝る準備を終えベッドに入る。
「ふぃー、今日は色々あったな...なんだか1日がここまで長いと感じたのは生まれて初めてかもな」
結局、この世界はいいものなのか。
ゲームの世界?と言えばいいのか、この世界は思っていたものとはずいぶんかけ離れていたものだった。
これからどうなるのだろうか。
「やっぱり、もとの世界が良かった...かもな...」
俺はそう呟くと深い眠りにつくのだった。
「_ヒロー!起きなさい、今日は入学式でしょー」
一階から母の声がする。
ふと時計が目に映る。
「7時か...ってやばい!朝のホームルームに遅刻するッ!」
俺は慌てて布団から出て訓練服に着替え...る?
「ここってまさか...」
起きたと思えばそこは自分の家の部屋だった。
...戻ってきたのか?もとの世界に?
いや、夢...だったのか?
俺はスーツに着替え、一階に降りる。
卓上にはいつも通りの朝ごはんがあった。
父の反対側に座り、朝食に手をつける。
食べ終わった時、いつもは寡黙な父が話しかけてきた。
「ヒロ、その手はどうしたんだ?」
俺は手を広げて確認する。
そこにはマメができていた。
「夢...じゃなかったのか...?」
「ん?なんか言ったか?」
「ああ、いや、なんでもない。多分このマメ、昨日のゲームでグリップを持つのに力を入れすぎたかも」
「そうか」
_そして時刻は8時半となり、父の車で大学へと向かうのであった。