第漆話「掟、規則、理」(中編1)
俺はあれから何事もなく飯を食べ終え、自室に戻っていた。
時刻は8時。
まだ寝るには早い時間だ。
シミュレーションルームに行って他の武装の練習でもいきたいところだが、疲れのせいなのか体が思うように動かなかった。
コンコン
ふいにノックの音が聞こえる。
こんな時間に誰だろうか。
俺は「はい」と一言言い、ドアを開ける。
そこには透が立っていた。
「やあ、ヒロくん、ちょっと話がしたくてさ」
「あぁ、いいぜ、入りな」
俺は透を招き入れた。
そして椅子に座らせ、俺はベッドに腰をつく。
「...話ってなんだ?」
「別に大した話っていうわけじゃないんだけどさ...」
彼は深刻そうな顔になる。
「お、おう...」
つられて俺自身も厳しい表情になる。
「どうすれば僕は強くなれるでしょうか」
どうすれば強くなれる...か。
俺にはまるで透がゲームの攻略本を手に取ろうとしているように思える。
はたしてそれでいいのか。
その前に「俺」という攻略本が正しいのか。
そもそも「俺」は攻略本なのか。
琴にはどう戦えばいいのかという具体的なものだったので教えられたが、アバウトな話題になると難しい。
「うーん...本末転倒の話になるけど、1つの答えを求めないこと、かな」
「1つの答えを求めない...?」
透は目を見開く。
「アーマードの戦術、レヴナントの動きのパターンに答えがないと同じように、最初から強くなる方法なんてものに答えはないんだ_」
それもそのはず。
シミュレーションで色んな戦闘を見たり行ったりしたが、どの戦いも全て異なっていた。
例で挙げると小夜と俺の戦術は違えど双方、総合評価はSになったということだ。
つまり強くなるということは1つしか方法があるわけじゃない。
その趣旨を透に伝える。
「なるほど...凄いね...ヒロくんは、僕なんて本しか読まないから全然分からなかったよ」
「まあ、とりあえずたくさんシミュレーションを繰り返してそこで自分の答えを見つけるしかないってかんじだ」
「分かった、じゃあ明日からシミュレーション頑張るよ、今日は本当にありがとう」
「おう!」
透はじゃあねと手を振りドアまで歩く。
ドアに手をかけた時、何か思い出したように振り返る。
「そういや食堂に茶色い封筒があったけど、あれってヒロくんのじゃないの?」
茶色い封筒...あ、今日東雲教官に渡されたやつだ。
食堂であった出来事のせいですっかり忘れてた。
「それは俺のだ、ありがとう、行ってくる」
俺は駆け足で寮から出ていった。
***
「はぁ...はぁ...食堂はまだ開いてたか」
食堂は9時で閉まるようだ。
現在時刻は8時半。
俺は自分の座っていたところまでコツコツと歩く。
誰もいないせいだろうか、足音が食堂内を反響する。
「よし、あったな、あとはこれを長谷教授に渡せば...」
椅子に置き忘れていた封筒を抱える。
そして支部の方へ向かった。
受付で封筒を見せ長谷教授に用があるということを伝えて、中に入っていく。
「B5資料室...B5資料室...」
支部内は部屋がこれでもかってぐらいの数だった。
夜なのにも関わらず隊員や整備士などが忙しそうに走りまわってた。
みんな1人1人それぞれの役割を全うしているんだなと思った矢先、
「あ、あった...!」
B5資料室のネームプレートを見つける。
俺は急いでドアを開く。
「あら、遅かったのね」
椅子には長谷教授がくつろいでいた。
「す、すみません...忘れかけてました」
「レディーの約束はしっかり守らないと、ま、早くそれ渡して頂戴な」
俺は言われたとおり茶色の封筒を渡す。
「ありがとね」
と言って机に積み重なられた本の上に雑に置く。
「え、中身はお読みになさらないんですか?」
「中身はただのフェイクよ、こうでもしないと貴方と話せないわ」
なるほど、そういうことだったのか。
確かに手ぶらだと受付のところで引っ掛かる。
「じゃあつまり、何か話すことがあるってことですね」
「勘がいいわね、じゃあそっちの椅子に座って」
「は、はい」
俺は近くにあった黒い椅子に座った。
「話してあげるわ、この世界のことを_」