最終話「ただいま」
「ん......今日は日曜日だった......か......」
どうやら昨日はVR機器をつけたまま眠ってしまったそうだ。
機器を外して起き上がる。
何事も無かったように朝食をとり、また自室へと戻った。
そしてあぐらを書いて座る。
「確か琴に呼び出されて......えっと......何したんだっけ。てかあの世界で寝た記憶はないのになんで転移したんだ?」
その日の夜、転移するためにあの世界のことを想って眠りについた。
だが翌朝、そこはいつもの部屋のベッドの上だった。
悩んでいる暇もなく大学へと向かう。
講義が全て終わってからB5資料室へと向かうが、そこには誰もいなかった。
次の日も、その次の日も、その次の次の日も。
一週間経っても長谷教授はいなかった。
それと同じく転移もできなかった。
一ヶ月経っても同じ結果だった。
いつしかあの世界のことなど意識しなくなり、六月に入る頃には一夜の夢の如く既に忘れていた。
そんなある日、俺と美月が一緒に帰っている時のことだった。
坂道にある手すりに腕を乗せている彼女の姿を見て、俺は何か思い出す。
いわゆるデジャブ(以前にも同じような経験をしたこと)というものだ。
「____なぁ、美月。海に行かないか?」
俺の言った言葉に美月は驚きながらこちらを向く。
「え、ちょうど私も行きたいなって考えてたよ。でも流石にこの時期は早くないかな......?」
確かに早すぎるな......というよりなんでそんなことを俺は言い出したのだろうか。
「ま、暑すぎない海もそれはそれでいいかもね。次の休みに行こうよ!」
「お、おう」
***
「__三木ー、遅いよー。早くしてーー!」
「ごめんごめん、ちょっとつまづいちゃってさ」
俺と美月は高知県にある某ビーチに来ていた。
俺たちの住んでいるところには海がないから美月は大はしゃぎだった。
近場でも良かったが、俺は何を思ったのかここじゃないとダメだと言い張ってしまった。
まあ、結局、海が綺麗なのには変わりはないから良しとしよう。
「俺、海の家でなんか買ってくるよ。美月はナンパに気をつけろよ。あ、そこまでナンパされるような容姿じゃないか。あははは__」
ボコン
俺は真正面からチョップを食らう。
「......はい、分かりました。ミツキサンハ、トテモウツクシイカタデス」
「それでよし! さ、行った行った!」
俺は海の家で食べ物と飲み物を頼んだ。
その時どこからともなく何かが聞こえる。
飛び交うアナウンス、けたたたましいサイレン、耳を切り裂く様な激しい銃撃音の数々。
俺は後ろを振り返った。
そこには海から侵攻してくる黒い化け物たちの姿があった。
ビーチ全体を覆い尽くし、逃げ惑う人に襲いかっていく。
「__あのーすみません。お支払いの方をお願いしますー」
俺はハッとし前を向いて、財布からお金を取りだし買ったものを受け取った。
再びビーチの方を振り返るが、そこは何の変哲もないただのビーチだった。
「さっきのは何だったんだろう......」
ゲームのやりすぎだろうか、変なものが見えてしまったのかもしれない。
「三木ー、こっちこっちー」
遠くから手を振っている美月の姿が見える。
俺は急いで向かった。
***
「__すまん、美月。俺、寝ていいか?」
帰りの電車にて美月にそう問いかける。
「うん、いいよ。あ、でも私も寝ちゃうかも」
「まぁ、まだ着くまで時間はかかるし少しならいいかもな。じゃ、おやすみ」
「おやすみー」
俺はぐっすり眠ってしまった。
「......もう、三木ったら昔から鈍感なのね。ここまで来たのに私の気持ちすらずっと分からないままか......」
美月は寝ている三木の肩に寄りかかる。
「このままずっと一緒がいいね。三木.....」
夕焼けの電車に揺られ二人は共に寄り添う。
昼と夜の間、終点のない電車は永久の旅を続ける。
全ては再び始まろうとする。
だがその時はまだ来ない。
オルゲンロートリッター、それはまだ目覚めてはいなかった。
____To be continue




