第壱話「この世界」(前編)
__2010年4月21日
下の階から、自分の名前を呼ぶ母親の声が聞こえる。
匂いからすると......カレーかな。
プレイしているロボットのゲームを中断して階段を降りていく。
俺は三木 祥。
今年で19になる。明日から大学生だ。
「ごちそうさま」
俺はカレーを食べ終えたあと、食器を片付けまっすぐに2階にある自分の部屋まで駆け上がる。
そして再開ボタンを押してゲームの世界に戻る。
否定から入るが俺はゲーム中毒というわけではない。
今やっているのはちょうど今日発売された新作ゲームだ。
地球外知的生命体、通称「レヴナント」から対レヴナント決戦用装着式装甲機動兵器、通称「アーマード」を装着して人類を守り抜く、
というオンライン対応のオープンワールド一人称視点アクション&ノベルゲームという異例の作品だ。
そして何がすごいかというとVRに対応していて、よりリアルに遊ぶことができる。
ただそれに伴う問題もあって......
「右腕がッ!?」
装甲を纏った右腕が宙に吹き飛んだ。
敵によって腕が斬られたとき、そのまま見えなくなるのでリアルでなくなったのだと錯覚してしまう。
そして出血ゲージが出始める。
この出血ゲージは時間経過で減っていき、0になると機能停止と陥る。
リアルさを追求しすぎている。せめてHP制にしてほしいところだ。
てかこれでチュートリアルだぞ!?
かれこれ3時間はやっている。今は第一次レヴナント市街戦3日目だ。
この戦いでチュートリアルを終わらせることができる。
飽きると言うよりそのリアルさから伝わる緊張感と臨場感、敵を撃破したときの達成感、その3つが混じり、まるで無限に遊べてしまうかというほどの楽しさだった。
「_右腕が負傷したッ! 後退して治療を行うッ!」
すぐさま仲間に伝達する。
「「「了解!」」」
この仲間たちはNPCではなくリアルタイムで戦っている本物の人間だ。
最初は合計50人いたが今では16人まで減ってしまった。
俺たちはよく生き残ったほうだと言える。
中間拠点まで下がり自己メンテナンスを行う。
出血ゲージは消滅したが相変わらず右腕はないままだ。
だが前線で戦っている味方がいる。
早く急がないと。
「ヒロ、ただいま復帰しましたッ!」
9mm短機関銃を片手に黒い機体が戦線に復帰する。
.........
しかし、応答は1つもなかった。
それどころか敵の反応すらもない。
どういうことだ...?
今までこういうことは1つも起こらなかったのに。
「応答お願いしますッ! こちらヒロ、戦線に復帰しましたッ!」
おかしい、わずか三分の間でこんなにも沈黙になるものなのか。
それならオペレーターに通信をつなぐしかない。
「いかがなさいましたか」
メッセージウィンドが現れる。
「味方も敵もいないんだ、不具合なのか教えてくれ」
「ツー......ツー......ツー......サーバーダウンによりWIFIの接続が途切れました」
いわゆる鯖落ちってやつか。
「まあ新作ゲームによくあることだからしょうがないよな...」
俺はため息をついた。
そのときだ。
「オフラインモードに切り替えします」
新たに現れたメッセージウィンドにはそう書いてあった。
__オフラインモード
それは普通マルチプレイをしないといけない難易度をソロでクリアする、いわゆる玄人向けのモードだ。
やめることもできるがチュートリアルを終わらせないと話が進まない。
俺は唾を飲みこんだ。
敵の反応がないか市街を歩き回る。
ピーッ
レーダーに一体の反応が映る。
振り返ると後ろには全身が黒色で人型の二m程の化け物_レヴナントがいた。
「この......化け物めッ!!」
すかさず照準を合わせトリガーを引き、弱点である胸部分のコアに一点集中して射撃を行う。
しかし、それに怯まずレヴナントは刃状の腕を伸ばし襲いかかる。
「それぐらい......! 読めてるんだよッッ!」
その瞬間、短機関銃がナイフに変形し、レヴナントの腕を斬り落とす。
生肉が腐り変色したような腕が音をたてて地面へと落下した。
可変型9mm短機関銃剣_通称『ガンナイフ』
今俺が装着している前期一型試作機体「幻月」のサブウェポンの一つだ。
もちろん短距離短機関銃としても使えるが、弾が切れたり接近戦へと持ち込まれたりしたときにも対応できる。
なお現実では製造不可能な空想上の武装である。
俺はそのままブースターを起動しコアめがけて一直線に向かう。
そしてコアにガンナイフを刺し込んだ。
そのまま思いっきりねじ込む。
同時にドス黒い血が一斉に飛び掛かった。
ガンナイフを引き抜き再び短機関銃へと変形し、9mm弾をひたすらコアへと撃ち込み続けた。
「やったか......?」
レヴナントは機能停止し地べたへと倒れ込んだ。
一日目、二日目と比べると本当に動きが良くなったものだ。
ピーッ
勝利の余韻に浸っていると、また新たにレーダーに反応が映る。