4.停学
制服のズボン・シャツ・上着を丁寧に畳み、鞄に入れていく。
私服のジーンズとシャツ、ローブもしっかりと入れていく。
これとかは友達と休みの日に何処かへ行くときに着ていこうと思って用意した者だけど、使わなかったな…
「落ちこぼれ」としていじめられ始めた瞬間に友達は皆俺の元をさっていってしまった。
まぁ、仕方ない。俺だって友達が学校トップの4人組に虐められ始めなんてしたら逃げてしまうだろう。
みんな申し訳なさそうに謝っていた。だから別に恨んでもいなければ、責めるつもりもない。
さて、何故俺が荷造りをしているのか。
時は1時間程前に遡る。俺は校長先生、ファリオン・ファルムスにニヶ月の停学処分を申し渡された。
校長室の神級魔道具を窃盗したともなれば本来は退学だろう。いや、冤罪なんだけどね。 しかしマザコンならぬファザコンならぬ、「孫コン」のファリオン校長に気に入られ、2ヶ月間の停学処分で済んだ
停学期間は街で過ごそうとも、冒険者になろうとも、何をしても自由だ。
俺は村へ帰ろうと思っている。
村を出てから手紙も出していない。今頃みんなは何をして過ごしているのだろうか。あの平和な村のことだ。みんな何事もなくポカポカと暮らしているのだろう。
久しぶりに帰って顔を出そう。
「さてと、こんなもんですかね」
1時間強かけ、ようやく荷造りが終わった。元々、私物を多く置いていたわけではないが、私物を片付けた後の寮の自室はなんだか物寂しく感じた。
出発までまだ時間がある。そうだ、掃除をしよう。
部屋を出る前にカーテンを開け、床を掃き、雑巾で水拭きする。
掃除をしたのは久々だ。この学校では掃除をすることはない。用務員さんが夜にやってくれるのだ。
俺は掃除も好きだ。手が汚れるのは好きじゃないが掃除が終わった後の心まですっきりとするあの感覚、なかなかクセになる。
うん。我ながら頑張ったんじゃないだろうか。床もピッカピカ。
また帰って来るだろうが世話になった部屋への礼儀は尽くしただろう。
今は初夏。緑が生い茂り日差しが強く、汗ばむ事が増えてくる季節。
つまり入学から丁度一年半。次戻ってくる頃には学期末休みを挟んで2学期が始まっていることだろう。
村に帰ってから俺がすることは既に決めている。
まず実技のため、魔術を死ぬ気で鍛える。二ヶ月の間、毎日だ。最低でも全ての魔術を上級にはしたい。出来れば超級を目指す。いや、目標は常に高く、と誰か偉い人が言ってたな。超級だ。超級魔法習得を目指そう。
勿論だが勉学も怠るつもりはない。
帰ってきた時にもう「落ちこぼれ」ではないと見返せるように。
思えば丁度良い機会かもしれない。うん、そう思おう。ポジティブシンキングだ。これも誰か偉い人が言っていた。
荷物でいっぱいに膨らんだ鞄を右肩にかけ、校門へと向かう。
校門では孫コンの校長が待ってくれているらしい。贅沢な送り出しだ。
…アリエル先生に感謝しなければ。
俺の部屋は棟の3階にあるため石で作られた長い螺旋階段を降り、校舎の出口へ向かう。
校舎の出口、乗降口は木造でとても大きくそひてかなり古い。しかしボロいとかいうわけではなく、立派に佇んでいる。
入学したての時もこの昇降口に驚かされた。
なんだか、感慨深いもんだな。そんなことを思い返しながら校舎を出ようとしたときだった。
「あっれれぇぇ?なぁにしてるの?アルトくぅん。」
「聞きましたよ。何でも校長先生の金庫で窃盗を働いたとか。退学ですか、あなたの顔を見られなくなって嬉しい限りですよ。」
アイリスとジョネフだ。
まだ朝早いため午前中の座学は始まらない。まだ自室で寝て生徒だっている。いつもこいつらは座学なんてクソ喰らえみたいなこと言いながらほとんどロクに出席しない。
アリエル先生に失礼な奴らだ。
そしてそんなまだ朝寝てるような奴らが何故こんなところにいるのか。おおよその推測は付いている。
今回の窃盗事件、こいつらの犯行だろう。俺を陥れるための。魔術が学校一のジョネフならば犯行がバレることはなかなか無い。万が一にバレたとしても、王族としてのステータスと賢者の名をフル活用すれば、何とでもなる。
つまり、自分たちには何のリスクもなく俺を陥れることができたということだ。
そして目論見通りに学校を去る俺を見に来たということだろう。
どうするか。このまま無視するか。いや、今回という今回は俺も腹に据えかねる。
かといって怒鳴ってもこいつらには負け犬の遠吠えにしか映らないだろう。
なら、ここは…
「いいや、2ヶ月の停学で済んだよ。」
「へぇ、それは運が良かったですねぇ」
「チッ」
こいつ、舌打ちしたぞ。本当に王族のお嬢様かよ。
「アイリス、ジョネフ。2ヶ月後を楽しみにしていてくれ。
俺が帰ってきた時はお前らを……叩きのめしてやる…!」
強がり。
こいつらにはそう取れただろう。
だがこれは俺の本音。鋼なる決意だ。
次は、ないぞ、と。
しばらくの間口をポカンと開けていた2人が一瞬で笑い出す。
「ふっアハハ!アハハハハ!超ウケるんでけどぉ!」
「強がりをwまぁ、せいぜい頑張ってくださいねぇw」
決めた。帰ってきたらまずこいつらをぶっ飛ばしてやる。
俺はそう固く決意し、鼻につく2人の笑い声を背に校舎を後にした。
校舎を出て、北に位置する門へ向かう。途中で闘技場をの横を通った。石造りの巨大な建物でドーム状になっている。南北東西にそれぞれ出入り口がある。
実技の授業は基本この闘技場で行われる。
俺にとっては4人組と糞教師にリンチにされた嫌な思い出しかない。
見ていても気分が悪くなるだけだったので早々に闘技場から立ち去った。
黒光する高さは五メートルはあろう鉄柵で構成された巨大な門。
王立テラネクス魔術学校が誇る黒魔門だ。
なんでもこの鉄柵全てがテラネクス魔鉱石の亜種、黒魔鉱石で作られており、大魔術性能が素晴らしいんだとか。
そんな黒魔門の横に立っている白髪の老人、校長ファリオン。
孫コンのお爺ちゃんの姿を完全に消し、校長モードで重厚な威厳を振りまいている。
「校長先生。見送りありがとうございます。」
「…良いのだ。こちらこそ、悪いな。できるだけ早く呼び戻すぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
ファリオンに深く頭を下げ、黒魔門から出た。
アルト・レヴィータ。
校長室の金庫から神級魔道具・魔結盾の窃盗容疑により停学処分。
尚、冤罪。
序章 完
はじめまして!
葛切いつきと申します!
この度は初めて小説を投稿させていただきました。
拙く未熟な文章ですが楽しんでもらえたら幸いです‥!
励みになりますのでぜひブックマーク等、よろしくおねがいします!