2.校長の呼び出し
レースのカーテンの隙間から差し込む朝日出ます目がさめる。少しずつ体を起こし、日に当たる。脳がジワジワと覚醒していくのを感じながら日向ぼっこをするのが最近のマイブームで、これがなかなかいい。頭の回転が良くなる気がするのだ。
頭に天然の栄養を与えた所で体を起こし、着替え始める。この学校では制服が配布される。男子の制服は他の学校と大差はないのだが、女子の制服は違う。とにかく可愛い。手首や首元についたフリフリや、小さなバラの刺繍の施されたロングスカートや首飾り、とにかく可愛いのだ。
男の制服は黒いズボンに白いシャツ、左胸に徽章が付いている。以上。それだけなんの変哲もない。まぁ、フリフリがついていたら狂気だもんな。
そんなことを考えていると自室のドアが強くノックされる。いや、殴られるといった方がいいのか。
「おい!グズアルトぉ!さっさと起きろや、おーい、まだ寝てんのかよこの寝坊助が。鉄槌でぶち殺すぞ!?」
朝っぱらからとんでもなく物騒な事を喚いている彼はカルウス・バラヘン。昨日俺をリンチしにたゴリマッチョ。
それにしても変だな。いつもは朝食の場で4人揃って俺に暴言を吐きまくるのにいきなり朝から自分の足で来たか…こりゃ、なんかあるな。
「どうしたの?朝から早いね」
ドアを開けると彼がめんどくさそうな顔で立っていた。そしてその後ろには眼鏡をかけ、た赤髪の美女が凛として立っていた。
「アリエル先生…?」
アリエル・ファルムス
座学担当の女性教諭で、風紀に厳しい先生で生徒・教師の、両者から疎まれている。しかし俺は彼女のことが好きだ。あ、勿論恋愛的な感情じゃないよ。彼女の、アリエル先生の授業が好きなんだ。それに俺はいろんな教師からもいびられている。特に実技の男性教諭。あーいうのから俺を守り、俺の質問にまともに答えてくれる、そんな彼女が俺のこの学校唯一の味方と言っても良い。そんな彼女が俺に何のようだろうか。
「校長室へ向かいます。レヴィータ君、着いてきなさい。バラヘン君、案内ありがとう。
レポート提出がまだですが、特別に期限を明日までに伸ばします。」
「あ、あざぁす!!」
なるほど。先生のお使いはレポートのためか。でも、校長室へ呼び出しって、、、初めてだな。何かやらかしたっけ?
廊下を先立って進むアリエル先生を慌てて追いかける。朝早く静まり返った廊下にアリエル先生のハイヒールの音が規則正しいリズムで響く。
なんだか緊張してきた。
「あの、アリエル先生。何故僕が校長室に?」
声をかけた瞬間、空気が凍ったかのような緊張が走り、一定だったハイヒールのリズムが崩れ遅くなりやがて止まる。間違いない、怒気だ。アリエル先生の怒りだ。
ここまでアリエル先生が感情的になったのを見たのは初めてだ。いや、感情的にといっても常人と比べれば些細な変化なのだけれど。
アリエル先生を強く感情的にさせるなんて、まじで俺何したんだろう。
「昨夜、校長室の金庫が盗難に遭いました。そして保管されていたマジックアイテム・魔結盾が盗まれました。」
マジックアイテム・魔結盾はどんな魔法攻撃をも無力化する力を持つと言われる神級に分類される魔道具だ。
「魔結盾!?それに校長室の金庫!?アレは校長の声でしか開かない音声ロックですよね?」
校長室の金庫は特殊な魔法により、特定の人物の声でしか開かないようになっている。さらに金庫自体も最高の強度を誇るテラネクス魔鉱石により作られていて、剣神ら闘神ですらも破壊は不可能と言われている。だから力技でぶっ壊すなんてことはできない。
つまりはー
「何者かがロックを解除した。ということになります。」
「でも、そんなこと………あ」
できるわけがない、そう言いかけてあることに気づく。声で開く鍵、魔法を無効化する盾、『必中』を持ち、実技からっきしの俺。ごちゃごちゃのパズルがカチッとハマった音が聞こえた気がする。結論は一つ。
それはー
「あなたが疑われています。レヴィータ君」
「」
絶句だ。そんなことをした覚えもないし、しようと思ったことなんてない。第一昨夜は寮の自室で寝ていた。リンチにあったお陰でぐっすりと。
「あなたではないことはわかりますよ。あなたはそんなことをする生徒ではない。」
淡々と述べるその冷たく刺々しい声に仄かな温かみを感じた。案外優しい先生なのかもしれない。アリエル先生は。
「先生…!」
「しかし、金庫からあなたの魔力痕が見つかりました。」
「は?」
魔力は全ての人間が異なるものを持っていて、同一することはない。指紋のようなものだ。
だから犯行していない俺の魔力が残っているなんてことはありえない。
「恐らくは「何者」かがあなたを「陥れる」ために、あなたの魔力を「コピー」して反抗に及んだのでしょう。」
なるほど。アリエル先生の言いたいことがわかった。
つまりはスキル『コピー』を持つものが俺を陥れるために犯行に及んだのだろう。
スキル『コピー』は魔力や物質何から何まで認識したものをコピーできるという最強クラスのスキル。賢者になったものが会得できるものだという。
『コピー』を持つものが俺の魔力と校長の声をコピーし、盗みを働いた、ということだ。
俺の魔力痕が現場から見つかり、実技からっきしの俺が欲しがりそうな盾が盗まれ、鍵を開けるためには声を届けられる『必中』の俺が疑われる。
ここまで揃えば俺は確実に犯人として断定されてしまう。
問題は誰がこんなことをしたのか、だ。
見当はついている。スキル『コピー』を持つ賢者の息子、ジョネフだ。あいつは運良く親の『コピー』を受け継いだ。そして俺のこと「事あるごとに攻撃してくる。ジョネフは優等生で教員から疑われるなんてことはほとんどない。
それらを考慮した上の犯行だろう。
「明け方、急遽開かれた職員会議でアルベルト先生の強い後押しにより完全にあなたが犯人だと決定されてしまいました。」
「は、はぁぁ!?」
教師アルベルト。実技の男性教諭で俺のことを何故か目の敵にして散々イビってくるクソ教師だ。
「私と校長先生は反対したのですが、、他の先生方が全員アルベルト先生に着いてしまったので、、」
「そ、それで俺はどうなるんですか。」
「そのことに関してこれから校長と話してもらいます。大丈夫、校長はあなたが犯人ではないと確信してらっしゃいますから。」
頭の中がだんだんと真っ白になってゆく。
やっていない。冤罪だ。それなのに職員会議で俺の犯行だと決定されてしまった。退学なのか?なんて顔して村に帰れば良い?小さな村で働き手として必要な俺を快く送り出してくれた皆んなに顔向けができない。あの世の父さんと母さんはどんな顔をするのだろうか。
そんなことを考えているうちに気がつくと校長室の前だった。
3回ノックし、
「に、2年ア、アルト・レヴィータです。」
と述べる。
「入りなさい。」
重厚で重苦しい声。
王立テラネクス魔術学校校長、ファリオン・ファルムス、その人だった。
はじめまして!
葛切いつきと申します!
この度は初めて小説を投稿させていただきました。
拙く未熟な文章ですが楽しんでもらえたら幸いです‥!
励みになりますのでぜひブックマーク等、よろしくおねがいします!