1.アルト・レヴィータ
「おかしい!あり得ない!間違っている!なんで、お前なんかが闘聖に、なんで、なんで、なんで、なんでぇぇ!こんなにぃぃぃぃぃ!」
目を血走らせ発狂しながら炎剣・赫灼を男は振り回す。赫い剣が振り回されれるたびに日に当たり、美しく煌めく。
無駄。この美しい剣はこの男には持ち腐れだ。
漠然とそう思った。
赫く煌きしいその剣を持つ男をターゲットに選択。『必中』発動。
腰を落とし下半身の力を爆発させ、地を蹴る。地面のタイルが大きく爆ぜる。
『必中』による引力と跳躍によりあり得ない速さで数十メートル先の男に接近する。この一年で俺が身につけた『必中』の応用、「大跳躍」だ。
男の間合いの一歩前で着地し跳躍の勢いを借り、大地を割らんばかりの勢いで一歩目を踏み込む。
未だ『必中』の引力は衰えない。俺の攻撃は必ず当たる。「必中」だ。
一瞬で自らの間合いに接近した俺にやっと気づいた男は振り回していた剣を慌てて上段で構える。
遅い。
右腕に魔力を集結させ、男の鳩尾を狙いに拳を下から振り上げる。
聖級魔法の使用に必要な魔力量に匹敵する魔力を込めた最速にして最大威力。
憤怒の怒りと共に叩き込む必殺技。喰らえ。
『闘撃拳』
突如眼下に迫る拳を受け、視界がチカチカと暗転し、仰向けに倒れ込む。
直後周囲から笑い声や罵声を浴びせられる。
「ギャハハハハハ!真正面から食らいやがった!」
「おい、泡吹いてるぜw」
嘲笑に爆笑に憫笑、いかにもお嬢様って感じの女やいかつい男、年老いたメガネの爺さんも…まさに十人十色だ。
いや、10人以上いて、10人以上わらっているんだけれど。
俺は今殴り飛ばされた。罰ゲームと称されたリンチを受けて。
俺の名はアルト・レヴィータ。
14歳。王立テラネクス魔術学校2年生。
いわゆる「落ちこぼれ」ヒエラルキーの最底辺だ。
俺の通っている王立テラネクス魔術学校はこの国・ミクラネア王国最大にして最高の学び舎とされている学校だ。
魔術学校だが魔法だけでなく、体術・剣術をも教育し国に貢献する魔術師・騎士・剣士・戦士を生み出す事を目的としているらしい。
入学は13歳からで4年間をカリキュラムとしている。
そして国中の村や町のエリートが集まる最高峰の学校として名を馳せている。
さて、この学校で「落ちこぼれ」と呼ばれる俺が何故最高峰の学校に通っているのか、経緯を説明しよう。
自慢じゃないが、俺は頭がいいし、運動神経も悪くない。魔術は炎・水・土・風・雷の全てを中級まで使えたし剣術や体術もそこそこできた。俺の住んでいた村では秀才・神童だなんてもてはやされてもいた。
テラネクス魔術学校への入学は12歳の誕生日に手紙で知らされる。国中の優秀な子供の中からランダムで手紙が届くのだ。それに俺は選ばれた。俺の両親は既に亡くなっていたが村のみんなは喜び、盛大にお祝いしてくれた。
もっとも、我がレヴィータ一族のみの小さな50人規模の村なので、皆んなが家族みたいなものだった。
そして俺は入学までの1年間、より一層努力し、入学に備えた。村のみんなの、家族の期待に応えられるようにと。12歳であれほどまでに努力していたことは我ながら称賛に値すると思う。
そして春になり、意気揚々とテラネクス魔術学校へと入学した。滑り出しは良かった。自己紹介やコミュニケーションも滞りなくできて、友達も人並みにできた。
成績も悪くなく、学期末のテストでは毎回上位にいた。座学では、だ。
座学・実技のテストが学期末に行われ、その点数で順位が張り出されたり、学年末だったら進級にも影響してくる。座学と実技の点数の割合は4:6で、200点満点。座学のテストは高難易度のペーパーテストで、実技は魔術・剣術・体術の中から一つを選べる。
座学に関して、俺は毎回ほぼ満点を取っていた。我ながら誇らしい。しかし、実技はからっきしだった。村では秀才・神童と呼ばれていたがここはエリート達の集まる最高峰の学び舎。自分の実力は下の下。毎回俺は魔術を選択していたのだが点数は振るわなかった。
だが、実技が不得意というだけで「落ちこぼれ」と呼ばれヒエラルキーの最底辺に存在するなんてことはない。もう一つ大きな、それも致命的な要因があった。村にいた頃はまったく気づきもしなかったこと。
それもそのはず、村ではみんな同じようなものを持っていたから気がつかなかった。
『スキル』が。
この世界には『スキル』というものが存在する。基本は1人につき1つ付与されるが2つ以上持っているという人も珍しくはない。『スキル』は大抵親のどちらかが遺伝し、大きな違いは発生せず、突然変異したようなスキルが発現するなんてことはあまり起きない。また、自らの成長具合で強力なスキルを会得することもできる。とにかく、大抵は親から遺伝し、なんらかの欠陥があったり、普通より強化されていたりと、対して差はない。稀にプラスαで親にも見られない『スキル』が発現することもあるそうだ。俺の場合、一族の持つ『スキル』の典型的なタイプだった。だから一族だけの村で劣等感を感じたりすることはなかった。しかし、我がレヴィータ一族に遺伝する『スキル』・『必中』は世の中ではザコ『スキル』、ハズレ『スキル』として分類されていた。
これが致命的だった。
テラネクス魔術学校に通っている生徒は皆んな必ずといって良いほど強力なスキルを持っていた。超パワーや大幅な魔法増強などの攻撃系から感知や物体のコピー、魔法のダメージを半減できたりと、どれもめちゃカッコいい。だから俺はザコスキルを持ち実技のできない「落ちこぼれ」と認識されて、イジメの対象となり、せっかくできた友達やいい感じだった女子も逃げるように離れていった。
我がレヴィータ一族のスキル『必中』。聞いた感じだと、全ての攻撃が必ず当たりそうでめっちゃ強そう。ところがどっこい。必中するのは己の発する「言葉」だけ。物体に『必中』は使えないそうだ。「言葉」だけ。気合を込めて発した「言葉」が相手の心に必ずクリーンヒットし刺さる、というもの。
これならザコスキルとして最底辺に分類されるのは無理もない。
この世界では魔術・剣術・体術よりも、魔力量や才能よりも、『スキル』が最も重要視され、人としての価値を見出す。
そんなこんなで王国最高峰の学び舎で最底辺のヒエラルキーという地位を手にした俺は今闘技場でリンチにあっている。相手は最上級ヒエラルキーの一軍4人。だが、ただのイケメンや陽気ってわけでもない。学校最強レベルの実力を持ち、座学以外では遠く及ばない。
俺を真正面から殴りつけているこの銀髪の男、カルウス・バラヘン。筋肉隆々で戦闘時は武器として鉄槌を扱うそうだ。なんでも雷を纏わせた鉄槌で敵を吹き飛ばすんだとか。肉弾戦では負けなしとのこと。
よこから俺を見てケラケラと笑っている金髪のこの女、アイリス・キャンベル。王女様気質のドSで特にずば抜けて強いというわけではないが家が王家の親戚にあたる。つまり、王族だ。権力でヒエラルキーの最長点に君臨している女だ。
アイリスの横から心底つまらなさそうに俺を丸い眼鏡越しに見下ろしているのアイリスと同じく金髪の男はジョネフ・アルメデウス・キャンベル。アイリスの従兄弟でなんでも賢者アルメデウスの息子らしい。魔法は全てを聖級まで使え、学校でもトップクラスの魔術師だ。
そしてジョネフの横に立ち、特徴的な緑の前髪を弄んでいるキザな男はシリウス・ライトメア。代々剣聖、剣神を輩出する剣の名家、ライトメア家の嫡男で、剣術は学校一。3年に上がると同時に剣聖の名を与えられるとかなんとか。キザで女の子に常に囲まれていて嫌悪感が絶えないが、実力は4人の中でもトップだろう。
俺は現学年トップのこの4人組のイジメの標的になっている。
そして今日は
何故リンチにあっているか、彼ら曰く罰ゲームらしい。先日のテストの範囲を当て損ねたことの罰ゲーム。何ともくだらなすぎて、ため息がでそうに、、、いや、出た。こいつらの前でため息を盛大にかましたからこいつらの逆鱗に触れ、罰ゲームという名のリンチを受けている。
なんて器が小さいんだろう。そんなことを言ったらもっと酷い目に遭うので黙っておくことにする。
闘技場の観客席には年上年下問わず生徒が何十人も集まっており、教師も何人か混ざっているが止めてくれる様子はない。いつものことだけど。
あぁーあ。早くこいつらのストレス発散終わんねぇかなぁ。なんて思っていたら予想外の真正面ストレートを食らい、泡を吹いてぶっ倒れてしまった、というわけだ。
その後俺は学校を掃除する用務員のおじさんに呆れ顔でおぶられ、医務室にぶち込まれた。やってくれることは優しいんだけどもうちょっと優しくソフトにしてくれないかなぁ。こっち十数分前までリンチ受けて泡吹いてたんですけど。
そして医務室の眠そうなおばさん先生に手当てされ、寮の自室に戻り、寝る。いつも通りだ。
起きて、朝食の場で罵声を浴びせられ、午前中の座学を楽しみ、食堂でなかなか旨い飯を食い、午後の実技でぶざまを晒し、放課後リンチされ、おぶられ手当てされ、寝る。
そんな毎日。もっとここはキラキラした素晴らしい場所だと思っていたんだけどなぁ。
こんな毎日が続いてほしくもないが、かと言ってこのまま帰るのも村のみんなに悪い気がする。かといってこの日常に変化は起きないんだろうな。そう思い、ベットに潜ってゆっくりと瞼を下ろした。
はじめまして!
葛切いつきと申します!
この度は初めて小説を投稿させていただきました。
拙く未熟な文章ですが楽しんでもらえたら幸いです‥!
励みになりますのでぜひブックマーク等、よろしくおねがいします!