悩める小説家と悪魔
奇妙な世界へ…
俺は小泉僚。小説家で、コイズミと言うペンネームで活動している。
いきなりだが、俺には悩みがある。それはネタが無い事だ。話を書く者でも、いつもネタが思いつくわけでは無い。
最初の頃はネタも多く、いろんな話を書いた。
しかし、現実は甘くなかった。俺の作品を批判するものが沢山いるのだ。その中に、『何番煎じ』と、言う者もいた。しかし、俺はそれをスルーできず、ネタを考え続けた。そして、最終的には、古本屋で何かヒントが無いか探す様になってしまった。
俺はいつもこう思う。(なにか、文学の天才が居たら、その力を教えてほしい…)と、夢をみていた。
ある日の事、俺は古本屋に行き、何か良いヒントはないかと探していた。なんとなく店内を見回すと、何か興味深い物を見つけた。タイトルは『悪魔の呼び出し方』。作者名も書いてなく、表紙もボロボロで少し不気味だ。バカバカしいと思いつつも、俺はネタ作りに最適と思い、それをレジに持っていこうとした。すると、後ろから本棚を掃除していた店長から声をかけられた。
「お客さん、アンタが持ってるその本、『悪魔の呼び出し方』、だろ」
「そ、そうですけど何か?」
「それ、無料だから」
「えっ!?」
俺は驚いた。この本が無料?俺はその事を聞いた。
「それね、一昨日、家の屋根裏の掃除してたら見つけたんだよ。不気味だと思ってるけどね、好奇心で出してるだけだから。ハハ」
そう言う店長だが、俺はこの本に何か特別な力があるんじゃないかと思い、それを家に持ち帰った。
俺は早速本を開いた。内容は色んな悪魔の姿やそれの呼び出し方が書かれているだけだった。ページを適当にめくっていくと、何か興味深い物があった。それは『文学の悪魔』だった。俺はそれに喜び、すぐに呼び出し方を見た。呼び出し方は
『①くしゃくしゃに丸めた紙(多ければ多いほど力が増す)とインク一滴を魔法陣が書いてある画用紙に置く②それらの前で、正座をしながら(いでよ、文学の悪魔)と唱え続ける※この時、耳鳴りがしたら成功。また、耳鳴りに耐えられずに足を崩してしまうと、失敗。五感の中の一つがなくなる。そして、呼び出した者がこの悪魔によって成功した場合、悪魔は消え、二度と呼べない』
と、書かれてて、まさに小説家向けのようなものだ。
俺は早速、くしゃくしゃに丸めた紙と一滴のインクを揃え、画用紙にはそれらしい魔法陣を描き、それに材料を乗せた。乗せたあとは正座し、呪文を唱えた。
数秒後、急に耳鳴りがなったが、俺は足を崩す事なく唱え続けた。すると、目の前では紙とインクが消え、少しの木枯らしがしていた。
(オイオイ、どうなるんだ?)
そう思いつつ、内心、少しワクワクしていた。木枯らしが無くなり、急に静かになったかと思うと、魔法陣の上に縦長の光があった。
そして、その光がなくなると、そこには賢者の姿をした老人がいた。髭はボーボーで、小さな丸眼鏡を掛けていて、何か、大人しそうだった。俺はソイツに話しかけた。
「オイ、アンタ、悪魔…なのか?」
「フム、私は、正真正銘の文学の悪魔だ」
そう言うと、悪魔は証拠を見せるかのように、自分の被っていた帽子を上げると、そこには、二つの曲がった角があった。
俺は悪魔である事がわかると、凄く興奮した。しかし、いざネタ作りにかかろうとすると、思いつかないのだ。
「アンタ、今、ネタを考えてるだろ?」
急に話しかけてきた悪魔に驚きながらも、俺は質問にイエスと答えた。しかし、答えは意外な物だった。
「先に言っておこう。この私を呼び出したものはネタを考えれないのだ」
衝撃的だ。まさか、ネタを考えれないなんて、思いもしなかった。
「ふざけんじゃねえぞ!俺は暇潰しでアンタを呼んだんじゃない。ネタの為に呼び出したんだぞ!」
「まぁまぁ落ち着け、私は、文学の悪魔だ。私は、ネタを沢山持っておる。それをアンタに伝授するのじゃ」
「えっ…えっ!」
俺はまたしても驚いた。まさかネタを伝授してくれるのだ。この上ない喜びだ。
「じゃ、じゃぁ、早く教えてくれ!」
「一旦落ち着け。落ち着かないと、冷静に話を書くことができんぞ。ところで、アンタは長編を書くのか?それとも短編か?」
「え、えぇ。長編です。とはいえ、最近は書いてませんがね」
「じゃあ、アンタは短編のオムニバス物を書け」
「えぇ!?」
俺は三度驚いた。俺にそれを書けと言うのだ。
「オイオイ、俺が、そんなもの書けるのか?」
「なぁに、私は文学の悪魔。私に任せろ。じゃあ一つ目だ。そうだな、表はモデル。裏では殺人鬼の女の話を書け」
俺はその言葉に頷くかのように、原稿用紙に思った事と悪魔の言ったネタを書いた。
数分後、俺はそれを書き切り、悪魔に見せた。
「いや、私には見せなくていい」
「えっ」
「別に私に見せても、アンタになんの得もないじゃ無いか。アンタはただ小説を書くだけだ。じゃあ次行くぞ」
こうして、俺は一週間、家に籠もり、小説を書いた。
それから一週間後、悪魔からこんな事を言われた。
「よし、これを英雄社の短編賞に投稿するのだ」
「えっ!?」
俺は驚愕し、目を見開いた。英雄社と言うと、あの超有名な出版社ではないか。
「は、はぁ…」
「わかったならさっさとやるのだ!」
俺はそう言われ、それを投稿した。そして、悪魔は自身の仕事を終えたかの様に消えた。
数日後、結果を待っていると、チャイムがなり、俺はドアへと向かった。
「すいません、どなたでしょうか?」
「どうも、英雄社の北原司と申します。えっと、小泉様でよろしいでしょうか?」
「は、はい。何ですか?」
「おめでとうございます。あなたの作品が最優秀賞を獲得しました」
「えっ!」
俺は驚いた。なんと、最優秀賞を取ったのだ。これが悪魔の力なのだろうか。
こうして、俺はまたコイズミとして返り咲いた。
しかし、それはすぐに終わった。なぜならまたネタが無くなったのだ。俺は今まで悪魔に言われた事しか書かなかった為、ネタがあまり思いつかないのだ。仮にぽっと出のネタを書いて出版社に出しても、ボツにされるのみ。俺は困り果て、まさに発狂寸前だった。悪魔も呼び出せないので、どうしようもない。
そんなどうしようもないある日、悪魔に取り憑かれたかのように、俺は思いついた。自分の人生をネタにすればいいのだ。しかも死ぬまで。俺は早速、原稿用紙にネタを書いた。
数日後、試行錯誤ありながらも、やっと全てを書き終えた。そして、俺はそれを英雄社に投稿した。
(これが、最後の作品だ。あぁ、まるで俺は自分の人生を全て書いた。しかも、死ぬ所まで。あぁ、悪魔みたいだなぁ)
俺はそう思いながら自分の胸元に包丁を突きつけた。
とある街角、二人の主婦が井戸端会議をしていた。片方はメガネのポニーテールをした川野と言う主婦で、もう片方は少し太っているおばちゃん風の佐々木という主婦だ。
「そういえば、川野さん、この本買った?」
佐々木は、自身のバッグから『狂う人生 作コイズミ』と書かれた本を出した。
「あぁ、それ知ってますよ。えっと…コイズミっていう少し有名の小説家の作品でしたよね。まだ買ってませんが、確か、累計発行部数、十億部行ったとかなんとか……」
「そうでしょ、そうでしょ。川野さんも買ってみたら?」
「えぇ、そうします」
「でもね、少し、不可解な事があるの」
「それって…?」
佐々木は、最後のページを開き、とある一文を指差した。
そこには、『小泉は自分の手に持った包丁で胸元を刺した。』と、書かれていた。
「ここがおかしいのよ」
「え?どういう事ですか?」
「この本が発売された後、コイズミ本人が死亡しているって事が分かったの」
「へぇ…まさに自分の死を予言していたってことになりますね」
「そうなのよ、全く不気味よねぇ…もしもね、願いを叶えてくれる悪魔がいたら、この人、蘇らせたいわよ」
「へぇ…でも、何で悪魔なんですか?」
「いつもこう思うの、この人だったら、私の魂に変えても、生き返させてやりたいってね」
「まぁ、悪魔なんて居る訳ありませんよ」
「そうよねぇ、オホホホ」
表紙の男は少し悲しげな顔をしていた。
読んでいただきありがとうございました…