第4話 オンラインゲーム”鬼紀伝”
歯を噛みしめながらモニターを見つめる咲夜の言葉に、瑞樹が喉を鳴らした。
「間違いない。鬼紀伝です、隊長…」
「鬼紀伝…?あの10年くらい前に終わったオンラインゲーム鬼紀伝か!」
静かに咲夜の口から出てきたのは、今から8年前に終了を迎えたオンラインゲーム“鬼紀伝オンライン”だった。
当時ハードプレイヤーだった咲夜の脳裏には、まるで昨日のことかのように画面が想起される。それは咲夜にとっては厳しくも充実した日常でもあった。
「隊長、鬼紀伝って…」
「プレイヤーが鬼側と討伐隊側に分かれて行うPvPゲームだ。プレイヤーが直接システムへの付加や改造を行うことで能力や武器を自由にカスタマイズすることができる自由度の高いオープンワールド型オンライン。前衛に出るのもサポートに回るのも鬼としてプレイヤーの邪魔をするのも過ごし方は自由だが,死んだらゲームオーバーで二度とアカウントを手に入れることはできない」
「でもそれは、ゲームの話でしょう…?」
死んだらゲームオーバー。
当時のゲームの中では異彩を放っていたそのルールのおかげで、プレイヤー同士の密着度は高まり、異様な盛り上がりを見せていたオンラインゲーム。
システムに直接手を加えることも考慮したゲームシステムによって様々な能力を持ったプレイヤーが生み出され、戦いが激化した。
しかしそれはあくまでも、8年前のゲームの中の話に過ぎなかった。
「ああ。それに、そのゲームは鬼側の最後のボスが倒されて終わっているはずだ。確か、バベルというプレイヤーをリーダーとしたチームに…」
「そうです。鬼側最強プレイヤーにして討伐隊の最後の敵だったラセツ。そいつは、青い鬼の姿をしとった。まるで、今河本さんと戦っとるやつみたいにな…」
次々と青い鬼から繰り出される青い炎のような衝撃波。瞬間移動をしているように見える程の素早い体躯。
電脳世界での出来事にしか過ぎないそれは、電脳世界と現実世界の交錯が増した今では確実に現実の生活に、そして人々の命に影響を及ぼしていた。
「もしこいつが本当にラセツなら、そのゲームを現実世界で実現させようと…?」
「ちょ!待ってくださいよ!実現って!」
「死んだら終わりのオンラインゲーム。それはアカウントが消されることだけに過ぎなかったが…」
「そんなの実現させたら、死んだら終わりの意味が…」
「そのまま、ジ・エンドってことだな」
最悪の未来に、咲夜は強く拳を握りしめる。
鬼紀伝は死んだらアカウントが削除されて終わりのシステムを取っていた。咲夜にはどうやっているのか分からなかったが、別のアカウントでも同一人物からのアクセスが禁止され、まるで現実で死んだかのように仲間であったプレイヤーと連絡が途絶えたこともあった。
そのようなシステムがあったからこそ、緊張感と連帯感が生まれていたゲームであったが、それをそのままリアルに適応されることは誰一人として望んでいなかったはずだった。
「とりあえず、ラセツを止めないと…!」
「あの時、俺たちが倒したはずだったのに…。なんで今になって…」
「俺たち…?お前まさか…」
孝也が驚いた表情で咲夜を見るが、彼はそんな視線を無視して不適に笑った。
「隊長。ここは俺が引き受ける。つっても、俺だけの力じゃあ、退けるくらいしかできんけどな!」
咲夜がキーピングネットの画面の上で手をスライドさせる。すると画面がいくつも浮かび上がり、咲夜がコマンドを入力するごとに消えていく。
「鳥谷咲夜。プレイヤー名:ナイト。デゥアルラブ」
咲夜の音声を認識した画面に、六角形の図形と“鬼紀伝”の文字。
『関係構築オン。認識。ナイト。オンライン』
「能力構築。248592、592485。red。sord」
『認識しました。システムを構築します』
六角形に咲夜の入力した能力値が反映される。
「何者か知らんが、好きにさせておくわけにはいかん…!」
『赤き騎士ナイト。鬼紀伝システムオン』
咲夜たちの目の前に電脳世界で構築されたフィールドが映し出され、咲夜の手の中に赤い大剣が出現した。