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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

芥川先生リスペクト桃太郎。あるいは『桃から産まれた俺は持ち前の怪力と動物達を従える団子を用いて育ての親と村の仲間達の為に鬼を退治してきます。誤っても、もう遅い!』

作者: ゼフィガルド

 ちょっとした集いで書いた物です。ホラーを目指しましたが、ホラーにはなりませんでした。

 むかし、むかし。川へと洗濯に出かけた老婆の目の前に大きな桃が通りすがった。家へと持ち帰り、その果肉を割いてみれば。中から幼子が現れ、桃太郎と名付けられた。


 老夫婦はこの子供を可愛がり、一月もすれば立派に成長した。身の丈六尺三寸。老夫婦や村人達に代わり振るう鍬は一面を耕し、振りかぶった斧は一息で大木をも切り倒した。その勇壮で優しき有様に人々は『桃太郎。桃太郎』と褒め称えた。

 あくる日の事である。桃太郎は老夫婦の神妙な面持ちに気付いた。何事かと尋ねた時、老婆は口元を隠しながら。恐る恐る話し出した。


「桃太郎。お前には、鬼を退治して欲しいのだ」

「鬼だと。一体、その者達は何をした?」

「奴らはな。我々が持ち得るべき財宝を奪っていったのだ」

「なんと。皆から財宝を奪ったというのか」


 憤怒する桃太郎に。老夫婦は俯きながら、肩を震わせていた。話によれば鬼は恐ろしい風貌をしており、その額には二つの骨がせり上がっているという。表を見れば、そこには村人達が集まり、一様に自分の名前を呼んでいた。


「桃太郎。桃太郎。鬼が島から財宝を持ち帰って来てくれ」

「皆まで言うな。私は鬼達から、皆の財宝を取り戻してこよう」


 義憤に駆られた桃太郎が拳を掲げると、皆は彼を鼓舞するようにして名前を呼んだ。黍を始めとした様々な物が練り込まれた団子と刀を渡された。


「桃太郎。これはお供にする者に渡すのだ。決して、自分で食べてはならない」


 老婆の言いつけをよく守り、彼は決して自分でそれを食べようとはしなかった。道中、腹を空かした野良犬が擦り寄って来たのを見て、気前よく団子を分け与えた。差し出された団子を一つ頬張ると、我を忘れたようにもう一つ。もう一つと吠えたてた。


「ならぬ。この団子はこれからの旅路に必要な物。鬼を退治した後には好きなだけ振舞ってやろう」


 犬はその言葉を信じると、渋々と桃太郎の家来へとなった。同じようにして猿と雉も団子を一つ頬張ると、もう一つ。もう一つと鳴き声を上げたが、やはり鬼退治をするまでは待てと言った。


「良いか。鬼が島についたら、また一つやろう」


 鬼が島は岩山ばかりが聳え立つ場所と聞いており、小舟で海を渡りながらも。犬達は渡された団子を頬張ると、我を忘れた様に天高く吠え上げた。

 島へと辿り着いた時に目に入って来たのは岩山ではなく。ヤシの木が揺らぎ、琴の音が響き、それに合わせて踊る者達がおり、皆は享楽に耽りながら穏やかに暮らしていた。その光景を見た桃太郎はたちまち怒りに駆られた。


「何という事だ。我々から財宝を奪い取った上に享楽に耽るとは。者ども、掛かれ!」


 号令を飛ばすと同時に三匹のお供達は果敢に攻め込んだ。犬は若者の首筋に歯を突き立て、瞬く間に喉笛を食いちぎった。雉はその嘴で目玉を突き破り、脳漿をかき混ぜた。猿は女の乳房や子供の脇腹などの柔らかい部分に牙を突き立て、好きなままに凌辱を繰り返した。

 しかし、桃太郎はそこでおかしなことに気付いた。彼らの風体は自らと違っていたが、話に受けていた凶暴さとは無縁の物だった。鬼達の逃げ惑うばかりの様子を見て、これはならぬと思い。叫びを上げた。


「お前達。止めろ。止めるんだ」


 しかし、団子を食べたお供達の目は血走っており、止まる事は無かった。犬が若者の一人に嚙みつき、共に崖の下へと落ちた。雉は目玉を突き破ろうとした子供の下敷きとなって潰れた。猿は食いちぎった乳房を喉に詰まらせて倒れた。

 悲鳴が響き渡る中。大慌てで駈け込んで来た首長と思しき者は、桃太郎の前へと跪いて許しを請うた。


「ああ。どうして、この様な事をするのですか。私達が何をしたというのですか」

「お前達があの島にいる村人達から財宝を奪ったのだ。俺はそれを取り戻しに来た」

「何をおっしゃいますか。これは私達が足繁く山に通い詰め、集めた財宝でございます」


 そこで、桃太郎ははたと思い出した。老婆達は持ち得るべき財宝とは言っていたが、自分達の物だとは一言も言っていなかった。あの時、口元を隠して肩を震わしていたのは何故だったのか。

 また、団子を口にするなと言っていた。それを食べたお供達は皆、我を忘れた様に暴れ狂って死んだ。


「嘘だ。お前達は村人達を苦しめ財宝を奪った悪漢である鬼達だ」

「私達は何もしておりません。どうか、財宝は差し上げますから。お赦し下さい」


 ブルブルと震える若者達は金銀財宝の数々を桃太郎の船へと運び入れた。

 鬼退治を終えた桃太郎が財宝を持ち帰ると、村人達はワッと喜びながら、彼を迎え入れた。


「桃太郎。桃太郎。素晴らしき武士だ。桃太郎」


 老夫婦や村人達は桃太郎が持ち帰って来た金銀財宝に群がった。財宝のまばゆい光に群がる者達は、口角と共に額の一部も吊り上がり。それはさながら突き出た角の様でもあった。堪らず、桃太郎は声を上げた。


「待て。その財宝は本当にお前達の物か」

「そうだ。私達が得るべきハズだった財宝だ」

「だが。鬼達はこの財宝は自分達が集めた物だと言っていた」

「何を言うか。奴らは鬼で、お前は桃太郎だ。桃太郎の方が正しいに決まっておる」


 吐き捨てる様に言った老婆達は、その後。桃太郎に目もくれずに財宝を漁り出した。思えば、彼らは日々の行いも自分に任せるばかりで、その度に桃太郎と言って自分を奮い立たせていた。

 桃太郎と呼ばれていた自分は善悪の区別もつかぬ無知蒙昧であるにも関わらず囃し立て、牛馬の様に扱き使い、挙句。畜生の如き行いをするように仕向けた。皆の為にと立ち上がった義侠心を弄ぶ、彼らこそ赦せぬ者達だと考えた。


「この畜生共が。お前達こそが本当の鬼だ」


 桃太郎は鬼ヶ島でも抜かなかった刀を引き抜いた。振るった一撃は村人達の体を叩き切り、近くにあった金銀財宝をも砕いた。


「桃太郎。ああ、桃太郎が乱心だ」


 村人達は鍬や鎌などを持ち出して、桃太郎へと突き立てた。しかし、その頑強な体を貫くことは敵わず、骨を削ることが限界だった。

 振るう刀は血脂に塗れ、それに砕けた金銀財宝が張り付いては肥大を繰り返していた。削れた骨はたちまち元に戻り、顔中の皮膚を突き破りながら、至る場所に突き立っていた。


「そうら。鬼退治だ。俺は桃太郎だ」


 絢爛豪華な金棒を振るう度に脳漿と血潮がまき散らされ、何時しかそこには財宝も村人達も老夫婦も居なくなっていた。


「桃太郎。サァ、最後の鬼退治だ」


 手にしていた金棒の金銀財宝を払い、刃を自らの喉元へと突き立てようとしたが能わず。如何なる手法を持っても、桃太郎は最後の鬼を討てずにいた。

 やがて、村に寄り付く者も居らぬようになり。村のあった島は長年、風と雨に晒され続け。いつしか誰も寄り付かぬ場所へと変わり果てた。人々はその島を、鬼が済む『鬼ヶ島』と呼んだ。

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