三話目
「ここが、ゼーダ王国……」
私は馬車を降り、門を見上げながらそう呟いた。ゼーダ王国をぐるりと囲む壁。その大きさからは、バーデン王国の宮廷より少し大きいくらいに見える。
すると、アルフレッド様も馬車から降りてきて、私に話しかけてきた。
「我が国へようこそ、と言いたいところだが、正直に言うと見ての通りあまり誇れるような国ではない。ガッカリさせてしまったかな」
「いえ、そんなことはありません。辺境の国、ゼーダのことは耳にしたことはありますし……」
「それに道中、段々と木々も無くなり砂漠地帯に入るようになってからは察することができたかな?」
そう、ゼーダ王国は砂漠の中にポツンと立っていた。そんなゼーダ王国のこと、全く知らなかった訳ではないけど、実際に目にすると面食らってしまったというのが正直なところ。私はそんな内心を隠そうとしながら返事をしたけど、動揺は隠しきれなかったみたい。
「え、ええ」
そんな私をアルフレッド様は気遣ってくれたのか、変わらない素振りで言葉を続けてくれた。
「道中でも話しているが、辺境の地、そしてこれほど痩せた土地であるゼーダはかなり貧しい国だ。だが国民は皆必死に生きてくれている」
「はい、伺っております」
「あのバーデン王国の庭園、僕はあそこを見た時に衝撃が走った。そして、こんな空間が我が宮廷にもあればな、と」
アルフレッド様は何かを思い出すかのように、でも、とても熱く話してくれる。
「ゼーダの宮廷は広く国民に開かれている。とは言っても広い場所では決して無いが……こんな荒れ果てた国に緑溢れる場所があれば、国民の癒しになると思ったんだ」
「はい……」
アルフレッド様のお考えはとても立派だ。でも、だからこそ私で良いのだろうか。と不安が頭を過ぎってしまった。果たして期待に応えられるのだろうか、と。
「こんな土地だ。フローラはとても苦労するだろう。正直無理だとも思う僕もいる。実際に目で見た今だから再度問おう。だがそれでも挑んでくれるかな?」
私はそんなアルフレッド様の問いに、じっと考えてから口を開いた。
「アルフレッド様、私からも一つ尋ねて宜しいでしょうか?」
「なんだい? なんでも言ってごらん?」
優しい表情でそう答えてくれるアルフレッド様。私は意を決してこう尋ねた。
「私はずっとここで働けますか? バーデン王国の時みたいに……」
するとアルフレッド様は、何を言っているんだい? と言いたいかのようにとても驚い様子になった。
「何を言ってるんだ? フローラ。それはこっちのセリフだよ。例え出来なくてもフローラに出ていってなんて言うはずないよ。それどころか僕が心配なのはフローラが出ていってしまうことの方だよ。君は植物たちの声が聞こえるのだろう? フローラ以外に適任なんかいるはず無いじゃないか?」
「変な質問をしてしまい申し訳ございません」
「いや、いいよ。あんな事があったばかりだ。不安になるのも仕方ない。だが神に誓うよ。フローラを追い出すことは絶対に無いとね」
「有難うございます……」
「どうしたんだい? 急に泣いて……」
「いや、とても嬉しくて……」
アルフレッド様の思いはとても有難かった。だから私は自然と涙が出てきてしまった。すぐに私は涙を拭ったが、同時に深く誓った。絶対にアルフレッド様の思いを叶えてみせると。
「じゃあ……」
「はい! アルフレッド様! 改めて宜しくお願いします!」
そして私はバーデン王国から持ってきたカバンをぎゅっと握りしめて言葉を返した。そう、あの庭園に生きていた子たちの種が入っているカバンを。