第五章
ミニバンへと強制的に乗せられた僕と明霊のそれぞれの横に、体格の良い男が座った。
「命は保障します。しかし、抵抗するのならば、骨折や裂傷などの大怪我は覚悟して下さい」
その言葉が耳に届くと、すぐに顔に黒い布袋を被されて、車が走り出した。
「お前たちは「魂狩会」の者だろう?」
明霊の問いに、助手席の方から声が返ってきた。
「正解です。あなたが「浮遊魂」の明霊ですね?そして、もう一人が峰久純樹、美霊の長年のパートナーですね?」
その声は、女性のものであった。年齢は、おそらく三、四十代と思われた。声から受ける印象は、硬いものであった。言葉遣いが丁寧な分、内に秘めた自信と冷徹さが感じられる。
僕はその女性の問いに、小さく頷いた。警戒していたはずなのに、魂狩人に僕と明霊の行動が分かっていたのである。
「僕たちは、これからどうなるのですか?」
「うちの施設に連れ帰り、尋問します。そして、こちらの調査結果と合わせて、審査委員があなた方の処分を決定します」
「どのような処分が、下されるのですか?」
「それは分かりません。私たちの管轄外になります」
僕と女性の会話に、明霊が割り込んできた。
「峰久は、記憶を操作された上で、開放されるだろうな。俺は、消される」
明霊も頭に布を被せられているようで、声がくぐもっている。
「記憶を操作する?」
「そうだ。俺たちの同類には、魂狩人に協力している者もいる」
女性が小さく咳払いをした。
「この辺で、おしゃべりは終わりにして下さい」
その声には、強い意思が現れていた。
車の風切り音が、大きくなった。高速道路を走り始めたようである。
ふと疑問が湧いた。
(明霊は、なぜ大人しくしている?殺されるのが分かっているのなら、必死になって抵抗するのではないのか?それとも、消されると言ったのは、冗談なのか?)
明霊は黙ったまま、何も言葉を発さない。
車内には、僕と明霊の他に、四人の気配が感じられるが、二人を拿捕するために、四人は少ないような気がする。先ほどの手際の良さから、かなりの訓練を積んだ者たちであろうが、僕に格闘技の経験があれば、今の状況と違っていても不思議ではない。それとも、かなりの自信があるのだろうか?魂狩人とは、どんな集団なのだろうか?
様々な疑問が湧き上がってくる。
車が止まった。はっきりとは分からないが、車が走り出してから、一時間は経っていないと思われる。
視界を奪われたまま車を下ろされ、頭から布袋を外された。
「ここは?」
僕は眩しさに目を細めながら、周囲を見渡した。
部屋の中には、中央に机、僕が座らされている分も合わせて、椅子が二脚、書類ロッカーが一つ、これだけである。壁が灰色一色というのも、殺風景さを増している。その壁は、壁紙が貼ってあるわけでも、コンクリートの打ちっ放しであるわけでもない。壁には、弾力のあるように見える菱形のものが、びっしりと貼り付けられている。大きくもない部屋であるが、ドアが二箇所に取り付けられていた。
三脚に設置されたビデオカメラが、僕の方に向けられていた。
「私たちの活動拠点の一つです」
もう一脚の椅子に座っているのは、僕と同年代の女性であった。おそらく、車の中で、僕たちの質問に答えてくれた女性であることが声で確定した。
部屋の中には、他に二十歳代の男と三十歳代の男が、女性を背後から護衛するように立っている。
「明霊は、他の部屋ですか?どうしています?」
「別の部屋にいます。暴れていなければ、危害は加えられていません」
つまり、暴れるようなことをすれば、危害を当然のごとく加えるということである。
「そう言えば、あなたの名前を知りません。教えてもらえますか?」
女性は少し目を細めた。
「そうですね。和坂と呼んでください」
「偽名ですか?それとも、旧姓?」
目の前の女性の左手の薬指には、指輪の跡があった。普段は、指輪をしているのだろう。
「想像にお任せします」
僕は頷いた。
「それでは、和坂さん…」
和坂が手を小さく上げた。
「質問は、私がします。あなたは、それに答えて下さい」
和坂の声には、反論を許さない響きがある。
「…分かりました」
和坂はゆっくりと頷いた。
「峰久さんは、同居人が浮遊魂であることを知っていましたか?」
「「浮遊魂」という言葉は最近知りましたが、そのような存在であることは知っていました」
「彼女、つまり美霊が人の体を乗っ取って、自分の自由にするということをですか?」
「そうです。しかし、彼女は心や体を病んだ人の体を借りて、その代わりに病を治していたのです。無理に乗っ取ったのではありません」
「村瀬瑠璃さんも、同意を得ていたのですか?」
和坂の声には、皮肉めいた響きはなかった。事実を述べているだけという、印象を与えていた。
「あれは、バイク事故に巻き込まれて、緊急避難的に村瀬さんの体に入ったのです」
「同意はなかったのですね?」
僕は仕方なく頷いた。
「彼女も、入ろうと思っていたわけでは…」
和坂は僕の言葉を遮った。
「あなたは、明霊以外の美霊の仲間を知っていますか?」
「知りません。明霊と知り合ったのも、三ヶ月ほど前です。それまでは、彼女のような存在は、彼女しかいないと思っていました」
「それが不自然だと思わなかったのですか?」
「彼女は、自分に仲間がいたことを知らなかったと、言っていました」
「それが嘘ではないと、どうして思ったのですか?」
「彼女とは、二十年以上も一緒にいますが、今までに一度も、仲間の話が出てきたことはありません」
和坂は僕の顔を凝視した。
「峰久さんは、美霊のことを何だと思っているのですか?彼女は浮遊魂なのですよ」
「僕は、彼女が人間であると思っています。少し変わっていますが…」
「美霊は人ではありません。それどころか、人にとって危険な存在です」
和坂の言葉に感情の波が微かに投影された。
「どのように危険なのですか?」
「浮遊魂は人の意思を乗っ取ることができることは知っていますね。浮遊魂によっては、乗っ取った人の精神を破壊して、肉体を長年利用し、体が痛んだら乗り換えることを繰り返している者もいます」
「つまり、精神的な殺人を行っていると…?」
和坂は小さく頷いた。
「そうです。浮遊魂は危険な存在です」
和坂の声に、完全な冷静さが戻った。
「それならば、なぜ浮遊魂をすぐに殺さないのですか?」
「理由は簡単です。人類にとって、必要だからです」
「必要?」
僕は和坂の目を見た。
「不思議だと思いませんか?チンパンジーと人類は、同じ祖先から五百万年ほど前に分化したと言われています。しかも、遺伝子の九十九パーセント近くが共通しているという研究もあります。それなのに、全く違う生物にしか見えない。例えば体毛、人は胸の辺りに毛が生える傾向がありますが、チンパンジーは、胸よりも背中の方に毛が多くあります。そして皮下脂肪、チンパンジーは皮下脂肪はほとんどありませんが、人間は生まれた時から、ある程度の皮下脂肪を蓄えています」
「浮遊魂が人類の進化に関係していると?」
明霊が言っていたことは、本当だったのである。
「そうです。偶然しては、できすぎています。何かの力が関与しなければ、こんな違いは生じないと思いませんか?少なくとも、一部の研究者は人類の進化に浮遊魂が大きく関係していると考えています。だから、浮遊魂を駆除してしまうことは、できないのです」
和坂はそこまで言って、時計を見た。そして、和坂と他の二人の男は部屋を出た。
入れ替わりに、別の男が入ってきて、扉の前に無言で立った。見張りのようである。僕と視線を合わせようともしない。何も話すなと言われているのであろう。
僕は、彼女が村瀬瑠璃の中で生き延びられる残りの時間を考えた。
峰久純樹が入れられている部屋とそっくりな部屋に、明霊も入れられていた。
この部屋に入ってから、すでに一時間ほどが過ぎている。
明霊は自分の考えが甘かったと、後悔を感じ始めていた。
(前に会った魂狩人たちとは、違う奴らなのか?それとも、何か新しい技術でも開発されたのか?)
明霊は過去に、何度も魂狩人の追跡から逃れてきた経験があった。
(あの時は、うまくいったが…)
明霊は記憶の中に、入り込んだ。
十七年前、明霊は有名な若手俳優、七塚連平の体を使っていた。
無性に、虚無感に襲われる日々だった。仲間の元を飛び出して、七十年以上が過ぎ、目的もなく一人で生きていたことが原因であったのかと思う。
俳優にでもなれば、刺激的な日々が過ごせると考えた。
確かに、刺激的ではあった。俳優としての仕事も、テレビのバラエティー番組への出演も、プライベートでの交友関係も。
しかし、リスクは大きかった。そして、そのリスクは間もなく現実のものとなった。
ある日、雑誌の取材と言われて入った部屋には、三人のスーツ姿の男がいた。
三人は、明霊の周りを取り囲み、何か呪文のような言葉を唱和し始めた。三人の声が、次第に同調してきて、完全に一致した時、明霊は体中から力が抜けるような感覚を味わった。
「やはり、浮遊魂だな」
三人の中で、最年長と思われる四十歳代の男が呟いた。
「宿主の精神は、感じられませんね」
二番目に年長の三十歳代前半の男が、呟いた。
「本部に帰って、調べますか?」
二十歳代の男の言葉に、最年長の男が頷いた。
明霊は、銀色のワンボックスカーの後部座席まで、半分担がれるようにして、連れて行かれた。
ワンボックスカーが走り出し、途中で高速道路のパーキングエリアに入った。三人の魂狩人の最年長の男が、トイレに向った。
「俺は、どこに連れて行かれるんだ?」
明霊の声が車内に響いた。
「意識が戻っていたのか?」
二十歳代の男が、隣に座っている明霊にかけられた手錠を目で確認した。
「本部に連れて行かれて、この体の持ち主、七塚連平の意識を調べるのか?」
「そうだ。しかし、七塚連平の精神が破壊されていなければ、何も心配することはない。お前の仲間のところへ、送ってやるよ」
明霊は口の端に、微笑を浮かべた。
「七塚連平の精神が、完全に破壊されていたら?」
二人の魂狩人は、無言だった。
明霊たちの乗っている車が、急にエンジンを吹かした。そして、次の瞬間、タイヤの軋み音と共に、通路を挟んで駐車していた前の車に突進した。
破壊音と衝撃が、車内に充満した。
運転していた三十歳代の魂狩人は、ハンドルに顔を乗せたまま、動かない。
明霊は、隣の男の首筋を肘で強打して、昏倒させると、ポケットを探って手錠の鍵を取り出した。
「魂狩人だからといって、油断するとこうなる」
明霊は、外した手錠を車内に放り出して、車のドアを開けた。
そこへ、もう一人の魂狩人が駆けつけてきた。
「逃げても無駄だ。大人しく我々に同行するんだ」
明霊は、薄い笑いを浮かべた。
「一人で大丈夫か?魂狩人は、三人以上ならば俺たちに対して、強い力があるが、一人なら俺が上だ」
明霊は目の前の男の意識に働きかけようと、集中した。
その隙に四十歳代の魂狩人は、一気に近づいてきた。
「魂狩人としての力を使わなくても、お前一人を捕えることはできる」
魂狩人は明霊に対して、パンチを放った。その勢いを殺さずに、蹴りを放つ。
明霊は完全に不意を突かれて、まともに攻撃を食らい、地面に転がった。
魂狩人は、そこで止まらなかった。さらに距離を詰めて、蹴りを明霊の横腹に入れた。
明霊は、痛みに混乱しながらも立ち上がった。今までの経験の中で、興味本位で格闘技を学んだこともある。しかも、今の体は十分に鍛え上げられているものである。
魂狩人の攻撃は止まらない。
明霊は反撃を試みたが、体に残ったダメージが大きく、動きが鈍かった。どうにか、致命的なダメージは避けていたが、劣勢は明白である。
「誰か助けて!七塚連平が襲われているわ!」
若い女性の声が響き渡った。
(そうだ。今の俺は有名人だ)
明霊は、魂狩人から必死で離れると、腹の底から声を絞り出した。
「こいつらは、誘拐犯なんだ。助けてくれ!」
人が集まってきた。パーキングエリアには、それほど多くの車が止まっていたわけではないが、十人近くの人が明霊と魂狩人を囲んだ。
魂狩人は、動きを止めて周囲を見渡した。
「私は政府関係の者です。この男を連行するところなのです」
そこまで魂狩人が言った時、明霊は走り出した。
魂狩人は追いかけようとしたが、集まっていた者たちに、行く手を阻まれた。
「それなら、証拠を見せろ。警察手帳とか、そんな類のものがあるだろう?」
顎の張った若い男が、魂狩人に言葉を投げつけた。
魂狩人は前に立った男を、無言で突き飛ばして、明霊を追いかけた。しかし、突き飛ばされた男の友人らしき別の男が、魂狩人に向って持っていた缶コーヒーを投げつけた。缶コーヒーは未開封のものだったらしく、魂狩人の背中で鈍い音を立てた。
「くそっ!」
魂狩人は毒づいて立ち止まり、後ろを振り返って、さらに攻撃が加えられる気配がないのを確認してから、再び走り出した。
明霊はすでにサービスエリアの外に出ていた。従業員用の通用路を駆け下り、県道に出て、停留所に止まっていたバスに飛び乗った。
バスの車内には、乗客がまばらであった。明霊は後ろの方の座席に座ると、大きく息を吐いた。
「もう有名人は止めておいた方が賢明だな」
そう小声で呟いた明霊の顔には、不敵な微笑が浮かんでいた。
ドアが開く音が室内に響いて、明霊は十七年前から現在に、意識を引き戻された。
(あの時より、魂狩人の力が各段に進化している。この十七年の間に、何が魂狩人に起こった?)
明霊はゆっくりと視線を上げた。
「やっと、俺の相手をしてくれるのかい?」
和坂は無表情で、明霊の机越しの前にある椅子に座った。
「私にも、あなたの力は通じません。時間の無駄を省くために、先に言っておきます」
この部屋に、最初に入れられた時、明霊は同行していた若い魂狩人に意識を集中させた。
(全力で走って、壁に激突しろ!)
若い魂狩人は、明霊を見た。
その目には、しっかりとした意識の色が消えている…はずであった。しかし、眼前の魂狩人には、何も変わった様子はない。
「お前は、体を乗っ取らなくても、人の意識を一時的に、操作できる力を持っているそうだな。しかし、俺にはその力は通用しない。今の魂狩人は、お前の力に対応することができる」
そう言って、若い魂狩人は、この部屋を出て行った。
明霊は自分の力を過信していたことに、気付いた。
そして、再び部屋のドアが開き、入ってきたのは和坂であった。
明霊は和坂の精神を支配しようと、意識を集中した。
和坂は微かに眉間に皺を寄せただけで、明霊の前に座った。
「他の者から、あなた方の精神支配は私たちには効き目がないと、忠告を受けませんでしたか?それに、その「鼻をほじれ」という、精神支配の命令には品がありませんね」
明霊は、淡々と話す和坂の顔を凝視していた。
「俺の言葉が伝わっていたということは、俺の精神支配を完全に遮断したということでは、ないんだな?それなら、どうやって命令に逆らえた?」
和坂は質問を無視し、明霊との間にある机の上に一冊のファイルを置き、開いた。
「あなたは…二百六十九年前から記録がありますね。浮遊魂の中でも、長命の方ですね。九十年ほど前に集落を出て以降、二回我々と接触したけれど、追跡を振り切っています」
顔を上げた和坂に、俺は視線を合わせた。
「俺を処分する前に、何が聞きたい?本来ならば、すぐに処分するのだろう?」
和坂は明霊の顔を凝視した。
「あなたは、この状況になっても、我々を出し抜けると思っている。死ぬことになるとは、思っていない…なぜ?」
明霊は目を細めた。
「どういうことだ?俺が、楽天家の馬鹿だと言いたいのか?」
和坂は明霊を凝視したままである。
「あなたは、本当に浮遊魂なの?」
「お前たちの力で、確かめただろう?」
「確かに、あなたは浮遊魂です。しかし、私が知っている浮遊魂たちとは、かなり違うわね」
明霊は和坂に興味深そうな視線を向ける。
「どう違う?」
「そういうところね。今までに、私の会った浮遊魂は…隔離集落に住んでいる者は、何かに興味を持つということが、なかったわ。それに、自分の命に対する執着もなかったわ。乗り移っている肉体が病気によって余命僅かで、次の肉体は用意できないと言っても、少し目を見開く程度で、淡々と受け入れたものよ。つまり、自分の「死」さえも興味の対象ではなかったのよ」
明霊は口の端に、冷ややかな笑みを乗せた。
「あいつらは、心のどこかで死を望んでいる。そして、あいつらをそのようにしたのは、お前たち魂狩人だ」
「あなたは、それが嫌で、あの集落から飛び出したのね」
「あの集落にいれば、安全だ。しかし、お前たち魂狩人に管理された状態には、我慢ならない」
和坂は「少し、待っていて」と言って、部屋を出て行った。椅子から立ち上がる時に、部屋の天井にある監視カメラに小さく頷いて。
明霊は殺風景な室内に視線を漂わせながら、脱出する手段を考えていた。
(あの方法が残っているが、代償も大きいな。できれば、使いたくないが…)
時計も、外の景色もないため、時間の経過は、はっきりとはしないが、一時間ほどが過ぎた頃、和坂がドアを開けて戻ってきた。
「上の者と、話してきたわ」
「魂狩人の長老たちか?それとも、政府の奴らか?」
和坂は指で、二度机を叩いた。
「両方よ。上の者は、あなたを解放することに、同意したわ。隔離集落内の浮遊魂とは違う浮遊魂の存在は、人類の未来にとって有益となる可能性があると結論付けられたのよ。もちろん、条件はあるわ」
明霊は、和坂の顔を探るような目で見た。
「条件?」
「そう、二つあるわ。一つは、定期的に我々に自分の居場所を報告すること。もう一つは、あなたと一緒にあの集落を出た浮遊魂の居場所を教えること。特に、「天霊」、つまり、あなたたちのリーダーの居場所をね」
明霊は、頭をかいた。
「一つ目は、可能だ。しかし、二つ目は不可能だ」
「自分の命を犠牲にしてでも「天霊」を守ると言うの?」
明霊は鼻で笑った。
「それは、俺の価値観ではないな。単に、俺は天霊の居場所を知らないだけだ」
和坂は、首を振った。
「それは、信じられないわね。あなた一人の力で、美霊を見つけたというの?不可能に近いわ。美霊は十年以上前に我々が捕捉してから、外部には浮遊魂だということを知られないように、暮らしてきていたのよ」
「あんたたちの仲間から、情報を得ていたのかも、知れないだろう?」
和坂は、また首を振った。
「そうとも思えないわね。あなたが美霊と峰久さんのところに無防備に行ったのは、我々に美霊が監視されていたことを、知らなかったからでしょう?我々から情報を得ていたなら、そんな危険なことはしなかったはずよ」
明霊は小さく手を上げ、手を叩いた。
「さすがだ。確かに、あんたたちの仲間から情報を得ていたわけではない。美霊の居所は、仲間からの情報を元に探し当てた」
和坂は僅かに顔を前に動かした。
「天霊は、どこにいるの?」
「それは、本当に知らない。でも、連絡役は知っている。俺のような、無分別に行動して魂狩人に捕まるような奴に、天霊の居場所は教えてもらえないのさ」
「そう…それで手を打ちましょう」
明霊は、一人の男の名前と経営している店の名前を告げた。
「今は、この男の体に入っているはずだ」
「確認が取れたら、あなたを解放するわ」
椅子から立ち上がろうとした和坂に、明霊が言う。
「美霊は、どうなる?」
「村瀬瑠璃から分離して、隔離集落に連れて行くわ」
「分離できるのか?」
「多分ね」
「できなければ、美霊は見殺しか?」
和坂は、その質問には答えずに椅子から立ち上がった。
「今日は、ゆっくりと休みなさい。疲れたでしょう?」
和坂は微笑を浮かべながら、ドアを閉めた。
一人残された室内で、明霊は目を閉じ、腕を組んだ。