5、シーナの正体
ルサ「『前回のあらすじ』です」
ルサ「前回は六期生全員でお買い物しました。そこに『悪魔の肉片』が現れるハプニングもありましたが、無事一日が終わりました」
ルサ「ったく、何でウチを忘れて買い物するかなぁ」
ミドリ「ごめんごめん」
ルサ「まあ、いいよ」
ヒデ「思ったんだけど、忘れ去られたのってルサが○○○○……」
ルサ「……ハァ?」ピキ
────喧嘩が始まった。
ミドリ「さ、さて。今回の話は、シーナは実は○○○でした。そう実は○○○だったなんて。さあ始まるよっ!」
~5、シーナの正体~
カーテンの隙間から入る木漏れ日。
朝だ。まだ慣れないその日差しを浴びながらシーナは署へと出勤するのであった。
異災警察の一日。
その日は事務仕事をする日ではなかった。署の中にある部屋の一角。様々な筋トレ用具や見た事のない器具が置いてある。
コラールがやってきた。
そして、シーナに向かって語り始める。
「異災警察は異災能力を使う悪を倒すこと。それに付随してだが、『悪魔の肉片』と呼ばれる異物を倒して処理すること、だ」
悪魔の肉片。その存在は伝言で聞いていただけで実際には見たことがなく上の空の存在であった。しかし、一昨日その存在に出くわした。異災警察の仕事として肉片に対する仕事は実感が湧いてくる。
肉片の説明は異災警察としての説明を受ける。
人間の作り出した技術で自然災害を封印し、封印中には二度と起きないようにした時に現れた七つの源。その源から力を得た存在こそが悪魔であり、その悪魔から抽出されたり削ぎ落とされたりした一部分が悪魔の肉片なのだと。
肉片は普通外の世界に現れることはないらしい。そもそも肉片が出てくることが異常なのだとか。そこで導かれた答えが、誰かが肉片を作り出して町に放しているのだと。そういう推測ができた。
異災能力を使う悪についての話は飛ばされた。
コラールは最後に、と言って話し始める。
「まあ相手が相手だ。対抗するために力と能力の二つを鍛え続けて、犯罪の抑止力、悪魔の肉片への処理能力を持ち続けなければならない。今日はそのために筋肉のトレーニングと能力トレーニングを行う」
各々、器具を利用して筋トレを始めている。
シーナは手始めに部屋を見回った。
バーベルが置かれている。
ミドリはそのバーベルを胸まで持ち上げ、一瞬にして下向きの手から上向きの手へと入れ替えた。後は体と腕を真っ直ぐ伸ばす。高く聳えるバーベルがカッコ良さを引き出たせた。
「す……スゴイ……」
思わず驚嘆が溢れる。
ミドリは真下にバーベルを落とした。床に敷かれたマットが勢いよく落ちるバーベルの威力を吸収するが、吸収されなかった威力が音に変わって部屋内に響き出した。
美しい汗を靡かせながらシーナに問いかける。
「シーちゃん。やってみる?」
ミドリはシーナのことをシーちゃんと呼ぶ。一緒に買い物に行った時に、そう呼ぶことにしたらしい。
試しにバーベルに手をかけた。腰を下ろして、ひんやりとした鉄を握る。次は持ち上げる。
持ち上げようと力を入れた。それでも持ち上がらない。
強く、強く、さらに強く力を入れていく。
それでも持ち上がらない。
諦めて手を放すと、無闇に入れた力が跳ね返ってきた。思わずよろけてしまう。
「やっぱ、無理……かも」
「んー。じゃあちょっと軽くしてみる?」
ミドリはバーベルの重さを減らす。
それでも上がらなかった。減らし続けても上がらない。
バーベル────上がらない。
他のトレーニングにも試してみた。
それでも……
腕────上がらない。
足────上がらない。
体力────続かない。
凄まじいほど力も体力もなかった。まさに、異災警察としては不向きである。
コラールは苦言を呈した。
「レキの目に間違いはないんだけどなぁ。もしかして、異災警察の司令部の方でのスカウトだったのかなー」
異災警察に設けられた司令部は一緒に戦うことはしない。主な仕事は異災警察が最善の行動や戦いができるように作戦を立てて指令すること、サポートすること、戦うこと以外でできることを行うこと、などがある。
司令部には何も力や体力などは求められていない。
頑張ってもできない自分が情けない。
ひとまの休憩が入った。
話しながらご飯を食べていく。
そうしていたら時間に間に合わず慌てふためいた。残飯に申し訳なく思いながらもその場を後にした。
次は能力を鍛える訓練だった。
それぞれが個別のトレーニングをする。
一人残された所にコラールが近寄った。
「シーナには能力研究を行って貰う。能力を効率的に使うには、①能力について知ることと②自身の能力を知ることが必要となる」
コラールは能力について説明し始めた。
「一つ一つ丁寧に説明していくから、よく聞いておけよ」
①能力について知ること
異災能力を持つ者は死に至る程の災害を受け、その災害に関した能力を持ち始めた。
その災害、及び能力を主に七つに分けた。いわゆる、種類とか属性とか呼ばれるものだ。
その種類を、「受けたであろう災害」を例にして一つ一つ説明されていく。
【地】地震や落石、倒壊など地面系や打撲系は地の種類に属する。
【炎】溶岩や火事など炎に関する系統は炎の種類に属する。
【水】津波や水害系などは水の種類に属する。
【風】台風など風害系は風の種類に属する。
【雷】落雷を初め感電に関する系統は雷の種類に属する。
【氷】凍死など冷害に関する系統は氷の種類に属する。
【毒】放射線物質や汚染水など感染系や毒系は毒の種類に属する。
基本的に異災能力はこの七つに振り分けられる。
ただし、例外も存在するので注意が必要だ。例えば、悪魔の肉片は上のどれにも当てはまらないようだ。そもそも能力者なのか、と疑問にすら感じる。
「さて、ここで問題だ。異災能力の種類を見分けるために。主な方法は何だ?」
「えーっと、攻撃する時にそれっぽい能力を繰り出すことで見分けるでしょうか?」
「それもそうだが、外見から判断する方法だ」
考えても浮かばない。
分からないと首を振る。
「答えは髪の色だ。ただし、染めてる者もいるから軽く参考にする程度で覚えていてくれ」
「分かりました」
コラールは特殊な人形を目の前に持ち出した。
木偶の坊が不気味にも二本足で立っている。
「次はお前自身の能力を確かめる」
②自身の能力について知ること
自分の能力は自身が一番よく知ってる。
種類は【雷】で能力は〘電気〙だ。
ボクの体は動けば動くほどコンデンサのように電気をためていく。その電気を放つことで攻撃する。他にもあるが基本的にはそんな感じである。
「能力をこの人形に向かって撃ってくれ」
そう言われて、攻撃を構える。
伸ばされた人差し指と小指。そこに電流が流れていく。その手はスタンガンと全く同じ。
スタンガンが人形を襲った。
派手な技ではない。この攻撃で人を意図的に殺すことはできず、せいぜい気絶させることぐらいしかできない。
そして、傍から見ればすごく地味。
コラールもすごく困った表情で見ていた。何かいいたそうにしているのに、何も思い浮かばずに唖然としている。
気まずい。
とても気まずい。
派手なことはできない。期待に答えられる自信はない。
どうしてこんなボクが異災警察にスカウトされたのだろう。目線のピントを下方向へと向けた。
「やっぱシーナちゃんは可愛いね~」
甘い声が聞こえる。
いつの間にかオパルが真後ろにいた。
オパルは両腕を広げてシーナを抱きしめようとしてきた。手はもうすぐそこに。
そこで本能が発動する。
無意識の内に能力を発動。電気を流すとは違う技。正面か背後のどちらかで電気を集め、体に衝突する時にその勢いを利用して弾き飛ばされる。
単純に飛ばされるだけで攻撃には転じれないが、飛ばされる分も動いたようにコンデンサに電気がためられていく。利点とすればそれだけ。
ただ、この瞬間単なる回避には有用だった。
背中に集まっていく空中電気の電光。同じ磁極でくっつけて手を離した時に飛ばされるように。シーナは前方の方へ吹き飛ばされていった。
オパルは何も無い空中にハグをする。「あれ?」と首を捻っていた。
突然の危機(?)を回避したシーナはふっと息を吐いた。
コラールは一連の流れを見て頷いていた。
そして「なるほどな……」と呟いた。しかし、それ以上は何も言わなかった。
はぁ~~~っ、とため息を漏らし廊下を一人で歩く。
力もない。能力もパッとしない。それなのに戦闘が印象的な異災警察の一人。
現実と向き合うとため息しかでない。
サボっている訳でもなくただ単純に足りないだけ。弱そうに見えたミドリが容易く持ち上げたバーベルを、ボクが持とうとしたらビクともしなかった。そこから心が折れかけていた。
尿意によりトイレへと向かった。
そこへと続く廊下が何故か長く感じられた。
シーナがトイレへと向かっていく。
そして、お手洗い場の中へと入ろうとした。その時、進む先が男子トイレだということに気づいた。
シーナは少し抜けている、と感じていた。六期生とのお出かけの時にはぐれただけでなく、その時の返答から見てそう思った。多分、シーナの抜けている性格で男子トイレを女子トイレと勘違いしているのではないか、と予測できた。
ミドリはシーナの腕を掴んだ。
「こっちは男子トイレだよ。女子トイレはこっちだよ」
そう言って、女子トイレの方に向かわせた。
何か言いたそうだったようだが、ミドリは見落としていた。
「危なかったね」
そう言って笑った。
一方でシーナはモジモジしながら言葉を発しない。何を言いたいのだろうか。それを答える前に我慢の限界を向かいかけていたシーナは近くの個室へと入っていった。
すぐ後にシーナが戻った。
鏡に映るシーナを見ながら話しかける。初め会話は一方的になっていたがすぐに硬い唇が開かれる。その後、軽いトークの後に本音が飛び出してきた。
「ボクって……異災警察向いてないですよね。力もないし、能力もパッとしないし」
「そう? 力よりも能力よりも大事なことはあると思う」
「大事なこと?」
力よりも能力よりも大事なこと。
鏡に映るシーナは首を傾げていた。
「なんで異災警察をやるのか。そういう信念かなぁ」
「信念……ですか? 例えばどんな感じですか?」
ミドリの信念。平和な社会にしたい。全てはそのためだった。
思い浮かばれる悪人の面々。自由を理由にして法を破る者達。違法なことを影で行い利益を得る者達。
一方で法を守り生きている人々。日々を切磋琢磨しながら生き抜いていく。
それなのに悪事に手を染めた者達が利益を得て、真面目に生きている人々が不利を被る。狡猾な悪は闇の中に隠れて絶対に捕まらない。
「私の例だけどね。私はこの社会をより平和にしたいと思ってるの。今の世の中、この社会に蔓延っている悪い奴が正しく生きている人々を獲物にしてのうのうと生きてる。そんな社会『平和』じゃない。平和でもいつかすぐに平和が崩れるはず。だからさ、異災警察として全ての悪い奴を懲らしめて無くしたいんだ。隠れ家とか見えにくい隅々の悪まで全てを捕まえればきっと平和になるよね。そうすれば誰もが悪事を働けない平和な社会になると思うんだ」
ミドリは続けて言う。
「つまりさ、私の信念は平和のためなんだ。全ての悪を懲らしめて、誰一人として悪事を働けない社会になるために。異災警察として悪い奴を根絶やしにする────」
全ての悪が許されない監視された社会。
そのためにはまず異災警察が至る所の悪を見落とさずに取り締まること。そうすれば擬似的にその社会は実現されるはずであった。
そして、その社会こそ平和だと。
シーナは意見に賛同しなかった。
意見が飛んできた。
「そうなんだ。ボクはそこまで考えたことはなかったかも。それにボクは今のままでいいと思う。今のままでも十分平和だし、このままこれが守られればいいかな」
何も高望みはしていない。
今この時が平和。何事もなければいいじゃないか。そういう考えだった。
「けど信念ならみんなに追いつけるかも。なんかありがとう。悩みがスッキリした気分」
笑顔で話しかけてきた。目を瞑って顔を斜めにしたのがとても可愛らしく感じさせられる。
シーナはそのままこの場を後にしようとした。
ただし、ミドリに止められたが。
「お色直しでもした方がいいんじゃない」から始まって「えっ、すっぴん? 羨まっ」「今持ってない? 貸してあげるよ」「いいから、いいから」とミドリの優しさでシーナはその場に留めさせられた。
お手洗い場から出た二人。
何とそこでオパルと出くわしてしまった。
「おっ、シーナちゃん! 今日の訓練疲れたよね。お疲れ様」
そう言って優しく微笑む。
そして、いつしかすぐ近くにいた。
「シーナちゃん。何度見ても思うんだけど、とっても可愛いね」
オパルは何気ない素振りでシーナの体に手を回した。すぐ次には抱きしめている。
やばい瞬間を見た気がした。
それと同時にオパルに対して不信感を抱く。
「明日の仕事サボって一緒に俺の奢りで喫茶店にでも寄らない? 長官のことは俺が何とかするから。シーナちゃんのことをもっと知りたくてさ」
こうやって誘い気を持たせてから、ある時一瞬で突き放す。それがオパルの手法だった。
「シーちゃん、聞かない方がいいよ」
ミドリはアドバイスをした。
オパルと付き合うのはろくな事がない。そもそも、付き合った彼女にふられることに性的嗜好がある変態だ。
シーナは声に出そうとしてるが、途切れ途切れで聞き取りにくい。
「無理か……。率直に言っていい?」
オパルはそう言って話を切り出した。
「俺さ、シーナちゃんを見てから一目惚れしてさ────」
大胆な手法。ミドリは口をアングリさせてしまった。
驚きが隠せない。
「あ……あの。ボ、ボク……実は」
言いたそうな言葉があるようだが、何故か顔を赤らめて言えてない。その姿も可愛らしい。
シーナは気まずい表情を浮かべている。
そんな心情にさせたオパルに苛立ちを隠せない。
「おい、オパル。何やってるんだ?」
救世主の登場。コラールがやってきたのだ。
オパルは「何でもないですよ」と言いながら、絡めてた腕を解いてシーナからも距離を置いた。
彼はシーナの表情を見ると否や、疑わしいとオパルをじっと見つめる。
オパルに聞いてもはぐらかされてしまうだけだ。彼は目撃人であるミドリに向かって話し始めた。
「こいつ、何かやったのか? 新入りが困ってるぞ」
オパルはミドリに向かって手のひらを擦り合わせる。それでも嘘をつく気はなかった。真実を述べる。
「いつものやつです。オパルがシーちゃんの女心を弄ぼうと考えていたんです」
「いや、俺は心の底から……」
ただ、その真意はコラールには伝わらなかった。
普段なら伝わるはずなのに今回は伝わらなかった。「えっ」と思わず声を漏らしてしまった。
時間が止まるような感覚。
夕暮れが廊下を照らしている。
コラールはあることに気づいたようだ。右の拳を左の手のひらに当てた。
「なるほど。理解した」
オパルを見てクスクスと笑っていた。何か面白いことでもあったのだろうか。
彼は続ける。
「シーナは実はな……。……」
その後の言葉を聞いて思わずシーナの方を二度見した。驚きが隠せなかった。
夕暮れの太陽が廊下を橙色に染める。
橙の世界の中でシーナにスポットライトが当たっていた。
「そうです。ボ、ボク……「男」ですっ」
驚きで体を動かせなくなっていた。思考が止まる。
こんなに可愛らしくて女の子みたいな見た目なのに、男の子?
それと同時に勘違いで女子トイレに半ば強引に連れて行ってことを反省した。
もう一度、頭を動かす。
えっ?
シーちゃんって男の子なの────!?
人物紹介
《椎名 パイラ》②
能力:電気
属性:雷
武器:────
戦闘:動く及び移動する度に体内に電気がたまり、ためた電気を手から放つことで攻撃する。
災害:落雷
秘話:最初は完全なる女であった。一人行動をするため、新人の模範にさせられない人物だった。このキャラへと変貌した時にはもっと後の章に出す予定だった。
次話:00:00




