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32、竜々の使い手

タンユン「回想だよ」


 地面に着地したタンユンと背中合わせとなる。


 周囲を囲む蝋燭の人々。


「ちょっと場所を変えようか」


 炎が舞う。


 龍が真っ直ぐ進み、人の壁を崩していった。



~32、竜々の使い手~

 空高く飛び立つ細長い赤き龍が真っ逆さまに落ちていく。勢いよく、大気との摩擦でさらに威力と炎を増しながら落ちていく。

 地面にぶつかると強い熱波の衝撃波が周りに広がった。

 放たれていた能力が消えていく。人々は気絶し、その様子を悠々と眺めていた。

「『禁忌』龍の流星──隕石──」

 刀の先が地面に触れている。

「何で、禁忌なんて使ってるの? 下手したら死んじゃうじゃん」

「下手なんてしないよ。この戦いに勝つためにはこれが最善だ。どれだけ止めても私は使う。使わなかったら後で後悔するからね」

 後悔だけはするな。

 その言葉を思い出す。ヒデはその言葉を深く受け止めていた。もう使わないで、とは言えなくなった。

「ソンジュン。能力は使えるか」

「ああ、俺はそんなにヤワじゃない」

 禁忌には圧倒的な大差がある能力を消し去ることができる。タンユンは禁忌の発動で能力を消し去る空間を作り出していた。禁忌の空間を作るのは熟練の技がなければできない。ヒデは心の中で感心していた。

 炎の手刀で敵を切っていく。

「それに峰打ち技術が相当良い。それでこそ、能力の境地だ」

「当たり前っ。生半可で異災警察なんてやってないからさ」

 敵の増援。

 キムルが大量の増援を連れてきていた。彼らは各々武器を持っている。

「狙うは大統領ただ一人のみだ。あの子どもは狙うな! 厄介事になる」

 殺意がタンユンに向けられる。ヒデは蚊帳の外になっていた。

「分かっているではないか。なら、こちらも正々堂々と受けて立つだけ」

 タンユンはヒデに近づいて、手を触れた。

「ここから離れろ。真剣勝負をする」

「俺もたた……」

「いや、駄目だ。ここからは私だけが売られた喧嘩だ。ここから退いてくれ。足でまといになる」

 反論できなかった。

 タンユンなら多勢に無勢でも勝てると思っていた。いや、どれほど敵がいても勝てる。

 仕方なくその場から距離を置いた。


「さあ、始めようか」

 刀を振ると龍が踊る。

 能力は掻き消され、熱波で気絶する。

「水を被れ! 能力は使うな。武器で攻撃」

 水が熱波を軽くする。

 禁忌では能力を消せるが、武器は消せない。

 放たれる銃弾を刀で(さば)く。銃弾を放って敵を牽制(けんせい)する。

「『禁忌』龍の雲翔──逆鱗──」

 うねるように進む赤き龍。龍の髭が人々に当たっていった。直線上にいた敵が倒れていく。

 開けた道を走る。

「『禁忌』龍の蜷──竜巻──」

 途中で回転し始める。龍も回り始めた。龍の周りに集まる熱波、その熱波が竜巻を作り出していた。

 炎の竜巻が敵を巻き込んでいく。

 敵の数が減っていく。

 負けじと放たれる銃弾。その攻撃を捌いていくが、全てを(はじ)く服に傷を作っていく。

「竜の翽」

 熱波が風を起こす。風が壁となって攻撃を防いでいった。

「やはり、一筋縄ではいかないな。作戦"(パルッ)"。構えろ」

 敵が一斉にしゃがむ。

 視界が開け、タンユンが目立っていた。

「この統制は"自由"な思考と社会では真似できない。自由は肥える悪を防ぐことはできない」

 キムルが手を上げて前に差し出す。

「放てっ!」

 金属の弾丸。その弾丸には覚えがあった。糸に反射して進む銃弾の記憶が呼び覚まされる。壁をも貫通する強力な銃だ。

 タンユンは軽々しく避けていた。

 だが、その延長線上にはヒデがいた。

 避ける暇などなく、その流れを見ていた。ゆっくりと銃弾が流れていく。


「『禁忌』龍の移動──神速──」


 体がはね飛ばされる。

 すぐそこにはタンユンがいた。ヒデをそこから飛ばすのに力を使い、その反動で彼はさっきまでヒデがいた場所にいた。

 刀で向かう銃弾を弾こうとするが間に合わない。

 刀の横をすり抜けて進む。

 強力な銃弾はタンユンの胸を撃ち抜いていたのであった。


 赤い龍が塵となっていって風に飛ばされていく。

 代わりに、赤い鮮血が瞳に映っていた。



*



 生まれた時、物心が着く前、には仮面をつけていた。

 その仮面をつけて、演じることを強要される。豊かなことをバレてはいけない。外に出る時は四六時中、余裕がある時などなかった。

 いつしか演じるのが上手くなった。

 本物の感情を押し殺し、偽の感情で偽っていく。

 豊かなことを隠すことが、いつしか自分を隠すことに繋がっていた。そして、もう一人の自分を演じ続けたせいで本物の自分が、心が悲鳴を上げては目を背けた。

 本物の自分をさらけ出すのが怖い────

 自分を隠し続けたせいで、自分の意志は薄くなっていく。

 他人の感情を読み取って自分を押し殺して生きる。他人に左右されながら、本物の自分は口を紡ぐ。

 いつまでこんなことを続けるのだろうか。親を見ていると一生一生このままだと思ってくる。一生嘘で取り繕うのは嫌だな。


 心の奥に封じている本物の自分をさらけ出せる、()()が欲しい。


 心の底から願っていた。

 その願いを思い続けながら幾年月。大人となって、軍隊に入った。今の政府が嫌いと思うよりも、仮面の自分が勝っていた。そこで、自由を感じることはなかった。

 必ず"自由"にしてみせる。誰もが自分をさらけ出せる社会を作りたい。そう思って、生きていくことを決めた。

 ある時から心に決めた座右の銘「反省すれど後悔せず」を心に決めて、仮面を外して行くことを決意する。


 自由が一人立ちして進む。

 裏で同じく自由を願っていたラグウェルと出会った。


 作戦を練っていく。

 いつの日か仕事を辞めて、豊かな土地に移した。長閑(のどか)な人気のない場所だった。

 ある日、弟が捕まった。理由は裕福だからだ。

 弟の子どもを引き取り、親権者の代わりとなる。自由を勝ち取るために動く仲間たち、彼らの思想を思いっきり詰め込めていた。

 決死の日。

 軍隊と合流してクーデターを起こす。

 そうして、韓国政府を手中に収めることに成功した。


 ソンジュンとの約束。彼は日本の高校に進学した。部屋に置かれた日本語を学ぶための教科書を見ながら彼のことを思う。

 政府の中で、自由にするために政策を打ち立てる。

 虐げられてきた自由を広げることは至難の技だったが、何とか三年間は無事やり遂げた。

 四年目。国民に不穏な動きがある。

 蝋燭と呼ばれる反乱分子が現れたのだ。代表は前政府に多少関わっていた男だ。

 そして、蝋燭との戦いは少しずつ加熱していき、現在燃え盛っている。



 今となっては仮面なんてつけていない。

 自由を知って、その自由に沿って生きている。

 だけど、人生の半分は仮面をつけていた。仮面なんてつけずに生きて生きたかった。



 揺れる走馬燈(そうまとう) 過去と現在(いま)


 人の目を気にして 仮面を被って 


 偽りの自分を 演じてきた


 現在(いま)となって 自由を知る


 過ぎた青春(せいしゅん) あの頃に戻ってやり直したい


 けれども進んできた道に 戻れないし変えられない


 だからこそ 代わりに生きてもらうことにした


 私にできることは 繋ぐこと


 そして繋がれた灯火が いつしか私の幸せになっていた



 次のバトンに火をつける。炎のついた松明が火のついていない松明へ。そうやって命の炎を繋いでいく。

 悔いはない、と言えば嘘になる。

 悔いはある。だけど、悔いを残して繋ぎたくはないから、自分に嘘をついて次の世代に自分の生き知恵を渡す。

「私は後悔することなく生きてきた」

 ああ、最後の最後に自分を隠して仮面を被ってしまったな。

 今の偽の言葉は苦痛ではない。それどころか何故か嬉しかった。


 人生最後の日。

 託した灯火が目の前にいて、眺めながら幕を閉じることがどれ程幸せなことか。

「だから、ソンジュンも後悔しないで生きなさい。反省はしろ、されど、後悔はするな。これが私からの、最……」

 地面の冷たさが伝わる。

 いや、地面が冷たい訳ではなかった。自身の体が冷たかったのだ。


 冷たい冷気が松明の火を消していった────



*



 (まばた)きをしている間にその事は起きた。

 銃弾の流れ弾が来て、死を感じていた時に、タンユンが庇って代わりに死んだ。

 あまりの速さと大きな出来事に茫然(ぼうぜん)としてしまった。

 最後の言葉を放って静かに瞼を閉じていた。


 敵は歓声を上げる。

 意気揚々(いきようよう)に近づいてきた。

 キムルが死体を持ち上げた。

 そこに手を伸ばす。

「おい。それをどうするつもりだよ」

「これを見せしめにする。(おおやけ)に知らしめることで勝利が確定する」

「止めてくれ。最後ぐらい、静かに眠らせてあげてくれ!」

 止めに行くが、周りの人に軽く飛ばされ、あしらわれる。

 しかし、諦めきれなかった。

 タンユンは死んだ後も悲惨なその後を送る。墓に埋められ、形式に則って(とむら)われて欲しい。弔いもなく、見せしめにされるなんて残酷すぎる。

「やめろっ!」

「邪魔だ。お前には関係ない。日本の警察だってな。それがどうしたってんだ。これ以上邪魔するぞ、撃つぞ」

 強く投げられる。

 力が出ない。大切な人を失ったことによって体から力が抜けていったのだ。


 このままではタンユンは……

 その時に思い出す。貰ったペンダントを。

 これを壊せば能力を発動できる。その能力は───であった。

 しかし、発動すればそのペンダントは無くなる。一度しか使えないため無駄になる。自身が危機的な状況に陥る時が来るかも知れない。今ここで使うべきではないのだろうか。

 さらに、これは大切なタンユンの形見(かたみ)。今ここで壊してしまったら、この遺物は壊れてしまう。

 その時、そっと耳元で(ささや)く声。そこには誰もいないのに声だけ聞こえる。すぐにタンユンの声だと気づいた。


「反省はしろ。されど、後悔だけはするな」


 後悔するな。

 その言葉に推されてペンダントに強い衝撃を加えた。

 赤い熱波の円が広がっていく。徐々に広がっていきその円に入った人は気絶して倒れる。その大きさは町を一つ飲み込む程だった。


 その舞台から少し離れた場所にミドリがいた。

 二人の代表者との連戦で疲れてしまったため、路肩で座って少し休憩をしていた。そして、ようやく立ち上がって進もうとした所に赤い熱波が襲い、気絶してしまった。


 家でテレビを見ていた人々。突然気絶して手に持っていたグラスを落としてしまった。鮮やかな色のワインがカーペットに染み付いていった。

 蝋燭のデモがあるため機能しなくなっていた電車。仕方なく移動するため車で移動していた。その途中で気絶してしまった。真っ直ぐ進む車はガードレールにぶつかって動かなくなっていた。彼らは軽傷で済んだという。

 突如町を襲った赤き熱波。その円が町の機能を一時的にショートさせていたのだった。


 唯一気絶しなかったのが一人。

 ヒデは静かになった町中をタンユンを抱えて走っていた。炎の煙を舞わせながら走る。目的地は決まっていた。



*



 懐かしい記憶を思い出す。

 ヒデが子どもの頃、タンユンと共に暮らしていた家。和やかな雰囲気。緑に囲まれたのどかな景色が特徴的だった。

 墓の前で手を合わせる。

 近くにいた従兄弟(いとこ)は虚しい表情で墓と天空を見定めていた。

 墓の前にはヒビが入ったペンダントが置いてあった。


 虚しくなった心を埋める懐かしい記憶。


 オレンジ色の闘魂が体に移り燃え盛る。

 太陽の炎が平穏な大地を優しく暖めていっている。



*



 ラグウェルはユヒョン、キムルと交渉し争いを止めることを約束した。お互いが自らの権利を捨て、誰もが幸せになれるような社会にするために手を取った。

 お互いに被害を出し、後悔をした。

 その後悔から平和を持ってして自らの考えを通すようになる。

 和解をして、政府には蝋燭の人々と元々政府だった人々が入り交じるようになった。まだ混乱はしているものの、輝かしい未来に向けて確実に歩んでいた。



 ヒデは従兄弟や韓火(ハンファ)の人々と会って話をし終えた。彼らのお陰でこの事態に気づくことができた。感謝を最後に述べて帰りの道に戻った。

 飛行機までの道のり。

 マリンとミドリ、そしてヒデは歩いていく。

「蝋燭と政府は仲直りしたみたいですわ。わたくし達も仲直りいたしましょう」

「そうだな」

 ヒデとマリンの対立も収束した。

「そうだ。ミドリ」

「……どうした?」

「お前、異災警察として監視による平和って言ってたけど、詳しく教えてくれないか?」

 急すぎて、驚きを隠せなかった。笑いながら聞いた。

「え? どうしたの。急に」

「俺、自由があれば平和になるって思ってたけど、違ってたみたいだ。平和はそんなに簡単なもんじゃないってさ」

 以前の私と同じ思いに駆られているのだろう。その気持ちがよく分かる気がする。

「それなら、私も教えるからヒデも自由の平和について教えてくれない?」

「いいぜ」

 トラブルも収束し、後腐れなく飛行機は韓国から離れていく。


 飛行機の窓から外の景色を見る。

 そこには心を和ませる優しい色に染まっていた景色が広がっていた。

人物紹介

【カンジョン タンユン】②


能力:熱波

属性:炎

武器:刀と銃

戦闘:龍の化身を見させる程の力を持ち、その力を織り交ぜた剣術や銃術。刀も銃もバランスよく使う。

災害:火事

秘話:元々は日本が舞台だった。ただ、この作品に合併する時に日本が使えないため、韓国に変えた。

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