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29、虫

ヒデ「『前回のあらすじ』だっ!」



ヒデ「懐かしいな、叔父さんとの懐かしい日々」


タンユン「だが、昔を懐かしむ暇などない。私は戦わねばならないのだ」


ヒデ「打倒蝋燭。俺は政府側につくぜ。絶対に勝ってみせる」


マリン「させませんわ。しかし、その対立の前に共倒れを狙う第三者の勢力を倒さなければ。敵は凶暴で巨大な虫を繰り出してきた。なら、その虫を全て斃すまで」



~29、虫~

 鋭い鎌があっても当たらなければ痛くも(かゆ)くもない。緑色の体液が周りに散らばった。胴体が二つに分かつ。槍がとっくに振られていた。

 蟷螂(かまきり)は死んだ。

 このフィールドに投入される虫。

 巨大な(はち)(あり)蜻蛉(とんぼ)天道虫(てんとうむし)

 虫達がマリンを見て敵意を剥き出しにしていた。怒りや食欲の雰囲気が混ざっていく。

《あんたは終わりよ。その虫はね、人間によって改造されて巨大化したんだよ。その時に受けたことによって人間への積年の恨みがあるんだよ。殺したくて堪らないだろうな》

 蜂が針を向ける。そのまま急降下しながら進んでいく。針から紫色の液体が流れ落ちていく。鋭い針が空気抵抗を切り裂いて進む。

 水が踊り、氷が水に変化を加える。

 氷の盾が針を受け止めた。

「無駄にも程があることをお分かりで?」

 水が鎌を創造し、氷によって形作られる。盾に手を触れた。地面に平行となりながら回っていく。片手には鎌。その鎌が巨大な蜂を切り裂いていった。

 死骸(しがい)がそこに横たわっていた。

「水は何でも形を変えられる。その形は造形物次第で無限にも広がっていきますわ。そして、この水の能力は創造力によってこの力は化ける可能性を秘めていますの」

 水が巨大なハンマーの形を作る。

「氷は固くて脆い。純粋な氷ほど固くなっていきますわ。迷いのない真っ直ぐな気持ちを水に伝えていきますの」

 真っ白なハンマーが日差しを反射している。

 そのハンマーが真下に落とされた。

「食らいなさい。純朴なハンマーを」

 強い圧迫で蟻が潰される。肉汁が武器の隙間から抜きていく。

 残るは蜻蛉と天道虫だ。

 水が弓と弓矢を創造する。凍った武器で蜻蛉を撃ち抜いた。

 残る一匹。

 七色に光る天道虫。その体が十文字槍によって真っ二つに分かれてしまった。

 虫の残骸が虚しくその場に野垂れていた。

《ちっ。最初からこれを出すしか無かったようね》

 見たことの無い巨大な虫が現れた。

()()()に生きている凶暴な虫だ。わざわざ取り寄せた大物なんだ。抵抗しずに華々しく死んでくれ》

「死ぬ気はさらさらありませんわ」

 鉄のような羽、頑丈そうな(あご)。巨大な虫が飛び回っていた。そのスピードは目で追うのがやっとなぐらいだ。

 ものすごい速さで突進してくる虫。

 速すぎて対応しきれない。

 後ろに跳ぶ。手に持つ槍を振るう。そして、直撃を避けて横へと滑り込んでいた。

「怖いですわね。流石、天の国の生き物……」

 虫は体から何本かの針を飛ばす。その針はマリン目掛けて飛んでいった。

 盾で防ぐ。

 すぐ後に突進攻撃。盾の上から回転してぎりぎりを回った。

 攻撃に盾は粉砕した。

不味(まず)いですわね……」

 虫はすぐさま振り返り、再び突進する。その一方で、マリンは体勢を整えられず避けることはできない。

 鉄の塊が隕石のような火力を上げて落ちていく。

 人間の本能が働く。思わず目を(つむ)っていた。


 妖精のお散歩────


 突如吹き荒れる上昇気流。

 虫は風に促され斜め上へと進路を変えて進んでいった。お陰でマリンには当たらずに済んだ。

「すごいね。本当にマリンの言う通りだ。そういう(とこ)尊敬しちゃう」

 リコーダーを持った女性。周りには二匹の風妖精(シルフ)が漂っていた。

「遅いわよ。ミドリさん。あと少しで死ぬところでしたわ」

「ごめんなさい。今から挽回(ばんかい)するから許して」

「分かりましたわよ。さあ、出陣じゃあ!」

 虫は容赦なく敵を見定める。

「囮をお願いします。そこをハンマーで撃ち抜きますから」

「分かった」

 マリンは蟻の死骸に近づいていく。

 リコーダーから柔らかい風を繰り出し虫の視界に入るようにする。その甲斐(かい)あって虫はミドリを狙って進んでいく。

 その瞬間に風を自分自身の体に吹かせて移動した。

 虫の進んでいく方向に丁度マリンのハンマーが逆行していた。

 強力な一撃が虫を吹き飛ばす。


 身体に大きな負傷を持ち、覚束無い羽ばたきで空を飛び回っていった。

 その虫は突進することなく針を飛ばして攻撃する。近づいたら痛い目に会うことを学んだのだろう。近づかなくなってしまった。

「学習してしまったのね。攻撃してこなくなった……」

「なら、遠距離攻撃をすればいいだけですわ。何か技はありますの?」

「うん。弓なら……」

 パチンコ弾を作る。その玉が進むが、虫には当たらない。

 何度も飛んでいく玉。その攻撃はその場にいれば当たらない。虫はその場から離れず飛んだため攻撃は当たっていなかった。

「こちらが敵の動きを止めときますから、素早く撃って下さい」

「分かった」

 ミドリはリコーダーを吹いた。

 「レ」の音程がその場に鳴り響く。

 リコーダーは三つに分かれた。その三つがシーちゃんの能力で繋がり、弓の形となった。

《よっしゃ、久々の弓変身だゼ。絶対(ぜって)ェ決めろヨ》

 シル君が頑丈な弓矢に変身した。

 矢を弓にかける。弓塚(ゆづか)とともに左手で握った。

 (てる)が強く引っ張られる。

 放たれた弓矢は風を切り裂き真っ直ぐに進む。


 スローモーションの世界に感じられる。

 弓矢は虫を貫通して天井へと進んでいった。

 勢い余った弓矢は天井のガラスを割っていく。太陽によって煌びやかな光が落ちた。

 落ちていく虫とガラスの破片。

 しかし、勝利に余韻に浸る暇などなかった。酔いしれる暇もなく殺気は増していく。

《あんた、どうしてここにいるんだい? なぜここに来れたんだ?》

「それについてはわたくしがいいますわ。最初からこうなる可能性を考えていましたの」

《は? どういうこと?》

「誰か内通者(スパイ)がいると知っていたので、もし何かあっても大丈夫なようにGPSアプリを入れておきました。ここへと移動中にスタンプを送って探って貰いましたの。まさかあなたが内通者(スパイ)だとは知りませんでしたけど」

「ほんと、ここに来るのは大変だったよ。途中で電波が途絶えたのかマリンの居場所が分からなかったし。ま、ここに来れたから結果オーライということで」

 昨晩に入れたアプリ。それはGPSに関するものだった。それを使えばマリンの位置が分かった。

 スタンプが送られた。言われた通り居場所を確認する。

 南西に向かって進む画面上の丸。その方向に向かって進んで行った。だが、途中で画面上から丸が消失してしまった。

 ミドリはさっきまでの位置を確認しながらここを突き止めた。

 ドーム場の大きな建物だった。入口は封鎖されているように見えた。違法であることに心を痛めながら、ミドリは仕方なく裏口から侵入していく。

 複雑に入り交じる廊下。

 それを得てようやくマリンの元にやってきたのであった。


「めんどくせぇ。さっさと死んでくれよ。なぁ」

 二人の元へムンスが直接足を運んできた。

 殺気が段々と近づいてくる。



*



 白黒のモノトーン世界。

 食べたい。何でもいいから食べたい。地面に落ちてる草をちぎって食べる。草では空腹を満たすことはできなかった。

 空き家の建ち並ぶ中にポツンと(すわ)る住処。

 その家で苦しい生活を送っていく。体の肉は落ちていき、あばら骨が浮き出ていく。

 服は質素でくすんでいる。

 親は土を耕す手伝いを強要し、上手くできなければ手が飛んでくる。

 言うことを聞かなければ痛い目に会う。体にできた(あざ)はもう六つになった。

 日照りが続く。

 育てていた作物は水分を失い()れる。一向にお金も食べ物も手に入らない。それどころか、段々となくなっていく。

 誰にも知られないように隠されて生きてきた。そこから逃げることは不可能。そもそも親から離れることなどの考えは思いつきもしなかった。

 生き物は食べ物だった。見つかればすぐに殺されて火にかけられ、食べられる。唯一の友達は虫だけだった。人とも合わないし動物は殺されるし、虫だけが触れ合うことを許されていた。

 悲劇な人生も、他の人生を知らなかったから悲劇とは思わなかった。誰か救う人は現れることはないように思っていた。


 今日もまた太陽が降り注いでいる。

 お金持ちの男がやってきた。身なりの整った男だった。その救ってくれる人に見える。

「この子が例の子ですか……」

 優しく微笑んだ。しかし、何を考えてるかは分からない。

 ()えた腕が頭を触れる。

「さあ、今日から君は私の子だ」

 手を引いて未知なる道を歩いていく。知らない道はとても恐くて不安を隠しきれない。

 握っている手からは嫌な気配が流れ込んでくる。不安を消す去るどころか不安は増えていく。

 歩いている中で家を振り返る。

 ケースを開いて喜んでいる両親。そこから落ちた金が二人の頬を弛ませていた。

 視力が良いのを恨んだ。

 こんな情景を見たくはなかった。金に目がくらんで何も躊躇(ためら)いなくあたしを売り出す。

 貧乏からくる人間の黒さを知った。人は貧しさに耐えきれないと心が荒んでいく。

「私の目に間違いない。お前は将来美しい体になる。ガッカリさせないように成長してくれよォ」

 その目は淀んだ目。性的な目で眺めてくる。

 そこに優しさなど感じることはできなかった。逆に、恐いと感じていた。

 貧乏な日々は辛かった。

 けれども、今この満たされているはずの生活も苦痛しかなかった。

 災害が起きて、あたしを縛る心の枷が外れた。

 そこから逃げ出して元の家に帰ろうとしたけど無駄だった。脱出してからすぐに野垂れ死ぬ。日照りが命を奪っていた。

 そう思っていたら、何故か生き返っていた。それも不思議な能力を持ち帰って……

 再び未知なる中を歩いていく。

 そこを警察が見つけて手を握る。そして、いつの間にか引き取った金持ちの男の元に戻された。

「駄目じゃないかぁ」

 その日の夜、二人きりで密室に近い部屋の中に強制的に居座るようにさせられた。

 中学三年生。

 親に歯向かうことを許されなかった家庭で生まれたあたしは抵抗するという選択肢などなかったのである。ただどんな悲劇であっても受け入れるしかなかったのだ。

 そこで知った金に満たされた悪人の心を。


 いつの日だっけ。

 能力を使って赤い返り血を浴びた日は。

 いつの日だっけ。

 救世主に会った日は。彼に出会っで、その下にいたからここまで金を持つことができた。今は亡きあの方を継いで、あたしはこの歪んだ社会を理想の社会にするため矯正(きょうせい)する。

 政府も国民も全てを牛耳りあの方が望んでいた理想の社会を手にするんだ。


 あたしは知ってる。

 お金持ちは心が淀んでいてクズだと言うことを。

 それ以上に……荒んだ心を持つ、貧しい国民ももっとクズだということを。



*



「わざわざ、虫に殺させるのではなくあなたが直接戦えば良かったのではないです?」

「虫で倒せると思ってたんだよ。それにな、あたしの能力は力を溜めないと使えねぇんだよな。まー、その分の時間を稼げたんだぜ」

 手のひらを前に差し出す。

 手のひらに映る紋章。"黄色の太陽"のような紋章が浮かんでいた。

「さっさと、死にな。てーか、死ね」

 太陽光の光を吸収、極限まで凝縮して放たれる。強烈なレーザーが真っ直ぐとんでいった。

 遅いのか速いのか。秒単位でそのレーザーの動きを確認できるが、逃げることはできない。

「ここはわたくしが受け持ちますわ」

 右手から繰り出される宙浮く水の塊。その塊がレーザーの軌道を変えさせた。そのおかげで攻撃は当たらずに済んだ。

 レーザーが壁を消失させる。穴の空いたそこから廊下が顕になった。

「お願いがありますの。その妖精さんをお借りしてもよろしいかしら?」

「いいよ。ニーちゃん、お願い」

《任せな。何でも言っとき。ウチのできる範囲で協力するねん》

 マリンはお得意の十文字槍を手に持っていた。

「それではお言葉に甘えて。わたくしを飛ばして頂けます?」

《いいけど、それって素早く移動するってこと?》

「そうですわ」

《任せとき》

 風でマリンは飛んだ。

 槍を地面に刺す。その周りを回って軌道を変える。そこにニーちゃんの風が加わってさらに速い素早さで動く。

 狙いが定まらない。

 勘で放ったレーザーは当たらない。

 ただ、マリンはそのレーザーで近づけなかった。

 一進一退の攻防。

 近づこうとムンスの周りを追い風を受けて素早く移動する。一方、レーザーがマリンを狙って放ち外れる。

 マリンは上から狙い撃ちをしようと風を受けて高く飛び上がる。

 上から敵めがけて槍を構える。

 ムンスは真上に照準を合わせる。手のひらが真上を向く。

「戦いのイ・ロ・ハ。本当の狙いは探られないように……そのまま、気を逸らす」

 いつの間にかムンスの傍にはミドリがいた。


 妖精の足跡────


 風が舞ってムンスが上に飛ばされる。空中で身動きが取れず、風で浮いている。

「この勝負、勝たせて貰います」

 自由落下に乗じて落ちていく。回転を加えて、いつしか空中にいるムンスを切り裂いていた。

 勝負はミドリとマリンに軍杯が上がったのだ。



「逮捕しておきたいけど、ここは日本じゃないからね……」

「そうですわね。とりあえず警察に通報しておきましょう」

 電波を妨害する機械がこの建物にあるようだ。外へと出て携帯を取り出した。

《終わったのカ。ようやく戻れたゼ》

 シル君も戻ってきた。

 警察が駆けつける。だが、いつの間にかムンスには逃げられていた。

 見張っていたマリンを潜り抜け、複雑な道、秘密の経路を通って逃げてしまった。ムンスの逮捕には至らなかった。

 その建物にいた人々は一挙に検挙される。

 その中の多くは国家の転覆を測ったとして懲罰を受けた。



 警察への提供も終わった。

 ミドリはマリンについて蝋燭の本拠地へと向かっていった。



*



「政府と蝋燭の対立は、忘れたいトラウマに似てるというか、縮図な気がします。そこで蝋燭に強く同調してしまったのです」

 ミドリが蝋燭の良さを聞いた、その答えがそれだ。それ以上を踏み込むことはできなかった。

 月が真上に見える頃。

 外の気配を消し去る静かな地下の中。蝋燭の会議に参加させて貰っていた。

「まさかムンスが僕達を(だま)して共倒れを狙っていたとはね。すみませんね。元仲間が迷惑をかけてしまい……」

 洞窟に流れる静かな(しずく)の音。

 話は変わってこれからの作戦に変わっていた。政府を攻撃して落とすことは何も変わらず実行するようだ。

「トップのムンスが抜けるとなると、次は……ムヒョルか。主将が落ちるのだけは避けなければならないから、前線から降りて後方指示に変わるべきだよね」

「いや、それだけは絶対に嫌だ」

「嫌だと言っても、無事勝ったとしてもお前が重症だったら、誰がこの国を引っ張ってくんだよ!」

「だからと言って、仲間が命懸けで戦っているのに傷つかない場所で指示するのは耐えきれないんだ。絶対に生きて勝つ。だから、前線にいさせてくれ」

「……仕方ない。なら、ムンスの代わりはどうするんだ?」

 そこでマリンが手を上げる。

「わたくしがやりますわ」

 そう言って、話はムンスの代わりをミドリが穴埋めすることで決まっていた。

 後は実行する日の再確認をして終わった。作戦は六日後。


 真夜中、ベッドの中で一人考えていた。

 蝋燭の考え方には共有できない。

 平等による社会か……。それで平和は保たれるのか。その答えは否な気がする。

 見方を変えてみると、平等か自由かを一つを決めてしまっていいのか。そこに疑問を感じていた。

 蝋燭の雰囲気は合わない。

 朝となって一人、その場から離れてぶらぶらとしていた。



 太陽が真上に見える頃。

 ミドリはヒデに呼び出されて、タンユンのいる建物の中に入った。

 そこにやってくるグ ラグウェル。

 彼は話し合う場を作り、政府の蝋燭に対する作戦を伝えていった。

 蝋燭の怪しい動きを読み取り、ついにその拠点を見つけた。六日後に検挙する作戦だ。警察との連携で決まった。この決定はもう覆されない。

 ヒデから政府側の意見を聞いた。

 自由、自由。だからどうしたのだろうか? それで本当に平和になるのだろうか。最近になって自由の良さを知った。けれども、自由はそんなに完璧なものだろうか。

 考えとしては悪くないのかも知れないが、行き過ぎていて吐き気がしそうだ。

 いたたまれなくなって、そこから離れて一人になった。



 蝋燭も政府もどちらも賛同できない。

 私は────


 グループラインではヒデとマリンが文字上で抗争していた。

人物紹介

『キム ムンス』①


身長:178cm

性別:女

年齢:28

髪色:カラフルな感じ

所属:蝋燭 (内通者)

趣味:なし

特技:なし

特徴:ヤンキー。とても強面。化粧濃い。

信念:人の上に立つ。

いし:ムーンストーン (富)


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