28、自由
ヒデ「何か最近人物紹介が雑くねぇか? 特に身長とか」
マリン「気にしては駄目ですわよ」
ヒデ「ま、いっか」
ヒデ「それでは始めるぜ」
~28、自由~
白い綿が皮膚に触れて溶ける。
激しい猛吹雪も止み穏やかな粉雪が漂っていた。
「勝負あったようね」
見えない速度でムヒョルの背後へと足を運ぶ。槍は振られた後だった。
彼は洞窟のひんやりとした岩に全身をつけていた。
拍手が舞う。
「想像以上だよ。そんなに強いとはね。君は蝋燭の上層部になれそうだ」
近づいてくる小柄な男。
「自己紹介が遅れたね。私はキム キムル。蝋燭の指導者の一人で、武器運搬などを担当してる。君には是非、私達に協力して貰いたい」
マリンは持て囃される。
蝋燭の本部。さらに奥地にある代表が集まる会議室。マリンはそこに呼ばれていた。
司会ムヒョルを初め、ムンス、キムルが代表として口を奮う。他に四人の人々がそこで机を挟んでいた。
日は見えない。
落ちていく月が脳内で再生されていった。
*
あの日の朝焼けは早かった。
狭い空間で食事を取る。見た目と相対して貧相だが、外見上は高級そうに見立てている。左手に持つフォークで刺し、右手に持つナイフで切っていく。
貧しい訳ではない。
ただ、他人に対して貧しいように見させなければならない。
買い物で高級な食材は買えない。敢えて、安いものを買う。そうやって、普通の国民を装う。
豊かな生活を押し殺すのが当たり前だった。
両親は捕まった。それ以降、顔を合わせていない。
二人とも豊かな生活を送っていることが彼らにバレたのだ。俺だけは二人の計らいで逃げることに成功し、叔父の家に隠れ住んでいる。だから、捕まらずに済んでいる。
自由を封じられた社会。
七割程度の人間にはこの社会が幸せだと言う。
それもそうだ。三割程度の人間が苦痛を虐げられ、残る七割はそれを見て喜んでいる。今までの不幸からくる復讐。それがこの社会に拍車をかけていた。
自然豊かな中にポツンと建つ家。
電車は通っていない。整備が至ってない道も多々ある。そこの物価も抑えられた場所である。
子どもの頃のヒデはその家から外の自然を堪能していた。鳥は鳴き、木は踊る。花をバックに虫達が笑っている。
普通なら幸せなはず。だが、自身の限界まで動かせない枷が幸を逃していた。
「なあ、ソンジュン。お前は幸せか?」
「……いや、全然。俺はもっと好き勝手遊びたいし、お父さんとかお母さんとかと一緒にいたい」
折角の明るい景色も今の濁った瞳を通せば暗く見える。
「そうだよな。今の韓国には「自由」がないんだ」
「自由?」
「ああ。自分がやりたいことを制限されずにやれるのが自由だ。私は思うんだ。自由な社会や世界が人に自由な心を与える。自由になれば、心に余裕を持てる。誰もが心に余裕が持てれば、きっと平和な世界がおとずれるとね」
その言葉が胸に深く刺さる。その言葉はヒデのアイデンティティに強い影響を与えていった。
蝶がヒラリと飛んでいる。
「私には夢がある。この韓国を「自由」にするという夢が」
さらに言葉を紡いだ。
「ソンジュンには何かやりたいことはあるのか?」
「うん。俺、日本で暮らしてみたい。そのために俺、日本語を勉強してるんだっ」
「いいな。今は海外にすら行けない不自由な社会だけど……。もし俺が夢を叶えられたら必ずその希望を叶えてみせるよ」
ヒデはタンユンの元で暮らした。
勉学に励み、自然の中で体を動かし、日々を過ごしていく。
雨が滴り落ちていく。
その日、タンユンの子どもが帰ってきた。ヒデにとっては数個上の従兄弟だ。
彼は切羽詰まったような忙しさを見せていた。
「父上。作戦を決行する段階に来ました」
「分かった」
それは政府を乗っ取る作戦であった。
タンユンと子どもは銃と刀を持って雨の中進む。冷たい粒に打たれ体が重くなっていく。
今まで燻っていた反乱分子が立ち上がる。自由を目指す同志が疼く心を解放していく。
その夜。
政府はタンユンの手に落ちた。
急ピッチで政策が行われていく。
ヒデはタンユンに呼び出された。
「やったね。これで大きく自由に近づいたね」
「そうだね。だけどそれ以上に、言わなければならないことがあるんだ……」
「何……」
暗い表情で放たれていく言葉。
「ソンジュン。お前の両親はもう死んでいた。独房と何ら変わらない生活で自殺をしていたようだ……」
瞼の奥から溢れ出す涙。
一日涙の滴を落としていた。
悲しみを乗り越えて空を見上げると空には虹がかかっていた。
「ねぇ、叔父さん。昔の約束、憶えてる?」
「昔の約束?」
「もし叔父さんが自由にする夢を叶えたら日本で暮らせるようにする約束。もうすぐその約束が果たされる時だと思ってさ」
「そういや、あったね。そんな約束……」
雨雲の姿は見えない。
湿気を消し去る穏やかな風が流れた。
「その約束。もう果たしていい。ソンジュンはもうすぐ高校生だ。それと同時に暮らすべきだと思うんだ。私の夢を待つ必要はない。待ってたら結局行けずじまいになりそうだからね……」
ヒデに送られた約束。
今年の春から日本へ行くことになった。
初めての海外。夢に見た海外生活。そのために勉強した日本語を武器に日本のある方向へと顔を向ける。
これが"自由"────
初めて感じる幸福を噛み締めた。
空港でタンユンとの別れの言葉を言い合うことになった。
別れの虚しさと期待のトキメキが混じり合う。
「俺、日本に行っても、自由の心を忘れない。今までありがとう」
「ああ、良い心がけだ」
笑顔で肩を置く。優しいオーラが流れ込んできた。
「何かつまづいたりしたらこの言葉を思い出せ」
すぐに脳裏を過ぎる言葉。タンユンが大事にしていた言葉だ。
何回も聞いたことのある言葉。その言葉通りにタンユンは生きている。ヒデはその姿を目標に歩いてきた。
「反省はしろ。されど、後悔だけはするな!」
間違いを振り返りながらより良い選択を選ぶ。ただ、その選択は必ず後悔しないものを選んでいく。後悔はしない。強い信念を持って真っ直ぐと歩く姿。
心に強く握りしめる。
絶対に後悔しない。そうやって生きていく心を宿らせる。
ヒデはタンユンの手続きで日本の高校に進学した。
そこで三年間楽しい学園生活を過ごした後、異災警察へと就職していったのであった。
日本での一人暮らし。そこで常に持ち続けた意志があった。
自由の心を持ち続ける。
その自由の心を持って平和を目指していた。
昔の記憶が蘇り、懐かしい記憶を胸にしまう。
あの頃とは全く違う臭いがそこには漂っていた。
*
引かれた線路。そのレールを真っ直ぐ進む。
ずっと真っ直ぐと続いてきた。曲げることも止まることも選択肢にない。そんな選択をしたらきっと後悔するに違いない。
「私は多分間違っていたんだと思い始めた。だからといって後には退けない」
暗闇の道路。ずっと光が現れると思い続けて進んだ。その先に見えたのは……。きっと光はあるのだが、その光は望んでいたものとは違うだろう。
「自由になれば誰もが幸せになれると思ってきた。例え貧乏な人々でもきっと自由が与えられたら幸福になると思い続けてきた。だけど、今となって違うかもしれないと感じ初めてしまった。ここまで激しい抵抗が行われたということは、自由が不幸になるからだということだ」
何も無い空気を眺めて呟いていく。
「私にはもう遅いが、ソンジュンはまだ考え直せる」
物思いに耽りながら顔を向けた。
「多分、自由だけじゃ平和にはならない。幸せの分配は相変わらず不平等のままだ」
ずっと硬く持ち続けた意志が中の方から崩れていく。柱の中間地点が灰となる。地面を支配する土台だけが残った。
「私は"平和"という理想論に甘んじて現実から目を背けていたのかもしれないな」
自由を追い求めた意志。だが、それでは駄目だったようだ。
深い海に落とされた気がした。
また模索のために足掻いていく。光があることを信じて上へ上へと上がっていく。
海の臭いが消え、無音が広がる。そして、懐かしい雰囲気が漂い始めた。
タンユンと一緒に故郷にいるのは何年ぶりのことだろうか。
懐かしい空気を吸って堪能する。
タンユンは唐突にヒデの方を見る。
「そういや、蝋燭との対立。その方針を話し合う機会がある。良ければ来て意見を寄越して貰えないか。日本の特殊警察の意見も必要だと思われる」
「ああ、これが韓国のためになるなら喜んで行くぜ。終わらせるんだろ。対立を」
「良かった。助かるよ。もうこれ以上の遺恨を残すことは出来ない。対立を終わらせよう」
*
タイムラインに送られる衝撃の文字。
『政府と国民のぶつかり合いにサンスが関わっていた』
さらに続けて送られる。
『注、サンスは遊園地でタシキードを着た仮面の犯人ね』
スリーディーのスタンプが送られた。そのスタンプは「確認よろ!」と伝えていた。
『なぜそいつが?』
『政府にもぐりこんで政府と国民の対立をあおってた。もしかすると国民側にもあおってるスパイがいるかも』
『どういうこと。kwsk』
ヒデとマリンのラインの五つのやり取り。しかし、それを見てもどういうことか分からず既読スルーしかできなかった。
幾つかのやり取りを確認した。
その途中で対象がミドリにも移った。
『ミドリ氏。↓いれて』
続いてURLが送られた。
初めて聞いたあだ名に戸惑いつつ、マリンの言う通りに操作していく。
マリンはスマホを懐に戻す。
そして、蝋燭の会議に何食わない顔で再び参加していた。
交わされる会話。政府に突入して一気にトップの席を得る。そのための作戦が練られていく。
決行は三日後以上一週間以内。
マリンはムヒョンとともに前方に進んで戦う。
それが決まった後に解散となった。
ムヒョンは忙しそうに書類を纏めている。
キムルや他の人とは接しにくかったため必然的にムンスに近づいていた。
誰も気づかれない場所で早速本題に入っていく。
「ムンスさん。話なのですけど、蝋燭の中に対立を煽って政府も蝋燭も貶める悪人が潜り込んでいるようですの。その悪人探しを一緒に協力してくれませんでしょうか?」
驚いたような表情を浮かべていた。
「まさか。分かった。勿論、協力するわ」
快く協力の体制を作る。
「明日から探し始めましょう。明日の朝、また落ち合いましょう」
ムンスは寝床を案内し、明日落ち合う場所を説明した。
月が落ち、隠れた。
朝の臭い。
ムンスに連れられて韓国の中を彷徨いていく。
「何処へと行くのです?」
「秘密の部屋。そこなら蝋燭にもバレないし、内部調査もできるって訳」
そうして来たのはドーム型の建物の中。
外から射し込む日差しが建物を埋め尽くす植物に当たっていく。
いつの間にかムンスがいない。
機械によって拡張された声だけが聞こえる。
《残念ね。あんたは秘密を知った。知ってはいけない闇に踏み込んでしまった訳。口封じのために自慢の捕食虫の餌になって貰うよ》
「何か怪しいと思ったら、本当に想像通りとは思いもしませんでした」
ふと現れる巨大な蟷螂。
黄緑色の悪魔が獲物を見つけた。日差しを反射する鋭い鎌がギラギラと光る。
そこは巨大で凶悪な虫が腹を空かせている虫たちの食事場だったのだ。
人物紹介
『サイキッカー サンス』②
能力:紙
属性:地
武器:────
戦闘:紙を繰り出し操って、敵の動きを奪う。
災害:圧死
秘話:もともとはいなかったキャラだった。エスパーキャラを作ろうと思って作られた。後からヒデが戦うはずの敵の能力である紙を合わせて今に至る。
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