27、月は東に日は西に
ミドリ「『前回のあらすじ』です」
ヒデ「俺らは韓国に行った。そこで俺は政府に直接侵入したんだ」
ヒデ「何とそこにいたのは"サンス"だった」
サンス「くっ、くっ、くっ、サイキッ、くっ。呼んだ?」
ヒデ「いや、説明で言っただけなんだけど……」
~27、月は東に日は西に~
影が実る。緑の葉が影に落ちた。
なだらかな山を登っていく。
背後から不可解に飛んでくる白紙。それを避けて進む。
紙は木にぶつかり進めなくなる。
「どこまで逃げる気だい? まあ逃げられるず君は死ぬけど。なぜなら、背を向けた敵を殺すのは簡単だからね」
サンスがヒデを追いかけていく。
「逃げる? いや、これも作戦の一つさ」
木を蹴ってサンスの方へと飛んだ。彼の顔目掛けて足が飛んでいく。
「隙ができるまで遠ざかってただけだ」
しかし、その蹴りは紙によって防御された。
勢いを跳ね返す。
「くっ、くっ、くっ、サイキッ、くっ。我が紙は最強の紙。耐久性に優れているのだ。他にも水を完全に弾き、炎によって燃えない。切られる以外は無敵のpaperなんだよ」
三本指で紙を切断する。
粗めの切断が乱雑にも紙をビリビリに両断した。
「やっぱり、サバイバルナイフはやりにくそうだな」
中指を戻した。
小指と薬指。二本指をサンスに向けた。
「本棚によって圧死したこのサンス様が得た最強の紙の力。これしきでは、負けはしない」
幾数もの紙が飛んでくる。
その紙がヒデに巻きついて縛り殺そうと襲いかかってきた。
炎のカッターナイフが紙を切り裂いていく。切断された紙が地面に落ちていく。
四方八方から紙が絶え間なく襲ってくる。カッターナイフがその紙を切り裂いていくが、キリがない。
(ここにいたら、数で負けてしまう。一旦、引いて隙を狙うしかない)
峠の方向からくる紙を切り裂く。
襲いかかる紙を捌きながら、なだらかな山を駆け上がっていった。
サンスの姿は見えない。足音を頼りに位置を探ると結構離れた場所にいて徐々にこちらへと近づいてきている。
襲ってくる紙の量は大幅に減った。操れる範囲に限界があるのだろう。近くなら大量の紙を操れるが、遠くに行くほど限られた枚数しか操れない。
一枚ずつ飛んでくる紙は簡単に捌ける。
無様にも切断された正方形の白紙が地面に落ちる。今落ちた紙は綺麗に真っ二つとなっていた。人と同じぐらいの紙が二つ。木々の傍に落ちている。それは明らかな目印となる。
紙は切られるとそれ以上は動かなくなる。もしかしたら、切られた紙はもう動かせないようだ。
(もしかしたら、これ、使えるかもしんない)
長方形となった紙に手が触れた。
紙の上には風に煽られた緑色の葉っぱが踏んでいた。
大量の紙を生産できるからと言っても限度がある。
大量の紙を周囲に放つ。真っ直ぐ進み敵の気配を察知させていく。そうして、敵の位置を探る。
敵が遠くに行けば行く程、敵の位置が探りずらくなり、探すのにより多くの紙が必要となってくる。今は少数の紙で敵を探っていた。
穏やかな風が木を揺らす。
ただ、斜めから不自然な揺れを察知した。そこに敵がいるのだろう。
次に、何かが飛んできた。
小さな物体が風を切って進む。いつしかサンスの額に突き刺さっていた。その正体は紙でできた手裏剣だった。
「ぎゃあああ。頭に手裏剣が刺さったぁ。額の血管が破れて赤い血がグジュと吹き出て、爪の皮を剥がされたような痛みが襲ウうゥゥ」
サンスは仮面を取った。
「と思いきや、刺さったのは仮面でしたぁ~。額は何と無事でしたぁ~」
ヒデの気配がしない。
太陽というスポットライトがそこを照らす中、涼しげな風がサンス一人に吹いたようだった。
「あれぇ、敵はどこにいるのかなぁ」
「俺はここだっ!」
真上。頭上から聞こえる声。
見上げるとそこには……
太陽の日差しと重なるヒデの姿。
「叔父から教えて貰った必殺奥義。竜の鋼翼────」
四本指から放たれる炎。赤い炎が周囲へと広がった。あと少しの所で紅の炎が絶たれ淡い赤色となった。
サンスは虚しくも空を見上げていた。
「こ、ここで負けるとは。わたくし達の韓国乗っ取りに支障をきたしてしまう……」
そう言って、サンスは倒れた。
「韓国乗っ取り? 何か嫌な予感しかしねぇ」
ヒデは目的地を変えて走っていく。
わざわざ青瓦台へと行ってこそこそする必要はない。躊躇いがなくなったヒデは直接真っ直ぐ走っていった。
*
「叔父さん。会いに来ました」
影を落とす。
近くにいた強面の男が警戒態勢に入る。
「お前は今朝青瓦台に侵入した不審者だな。何を企んでいる」
彼らは命をかけてタンユンを守ろうと少し前に出ていた。
「何も企むようなものはない。俺はただ伝えたいことがあるだけだ。叔父さんと二人だけで話をさせて欲しい」
「駄目だ」
そこにタンユンが彼らを制止する。
「いや、呑む。話を聞かせて貰おう」
場所を移して二人きりとなった。
そこは緊迫とはかけ離れた和やかな雰囲気に覆われていた。
「久しぶりだな。ソンジュン。元気だったか?」
「ああ、俺は元気だった。それよりも、叔父さんの方が大変じゃないの?」
「まあな、蝋燭の件もあるしな」
頭には国民の反乱である蝋燭と政府との対立が過ぎる。
「その件なんだけど。叔父さんはサンスを知ってる?」
「知ってるも何も政府側の人間だ。彼がいなければ今頃蝋燭に政権が奪われてるだろうな……」
サンスが高らかに笑う姿。
ヒデは知っているそこに隠された秘密の一つを。
「そのサンスは……内通者なんだ。その対立を煽って何かを企んでいるんだ」
「何を言うと思ったら……」
「いや、ほんとなんだ!」
ヒデはサンスとの出来事を端的に話していった。
タンユンの顔持ちが段々と重くなっていく。
「そうか……」
対立を煽る者。何故煽るのか。それはその方にメリットがあるからだ。
アメリカでもそういうことが起こっていた。そうすることで利益を得られたのだ。対立によって、その対立する者達の力は没落していく。彼らに武器などを売れば金になる。メリットは大きかった。
「なぁ、知ってるか。戦争や紛争は何故無くならないか」
その答えとして首を捻った。
「それで得をする奴がいるからだ。直接被害を受けない奴らが、戦争や紛争を煽って利益だけ回収して笑っている」
日本でも争いを企む者がいた。ヒデはアワルの顔を思い浮かべていた。
「だからと言って、もう止まれない。まず会社ではないからサンスをクビにすることなどできないし、それに、この対立は根深い。一度切られた火蓋はもう……戻せない」
「どういうこと?」
「自由か、平等か。この対立の根本は約百年前にのぼる」
絶え間ない人々。発展していく街並み。
地下鉄には隙間を埋め尽くす人の数。多くの人々はソウルという中心地で生活を営む。
「約百年前だ。漢江の奇跡と聞けば分かるだろうが、それを気に韓国は大きな発展をした。だが、いつしか発展も止まり没落していく人々が現れた。そして、貧富の差が広がっていた」
建てられていく会社。何回もの壁に衝突して抹消される会社。
一方、壁にぶつかっても堪えた会社は力をつけて貧富を広げていく。
「三放世代からn放世代へと変わり、その数十年後皆放と変わった。国民のほとんどは離れていく貧富の差に対して諦めの心で充満していたんだ。財閥に対して強い怒りも持っていた」
三放世代とは恋愛・結婚・出産を諦めた若者を総称した世代である。希望はない。貧富の差は広がり、富を夢見れない程、天に近い存在となっていた。そして、nとは数えきれない記号であり、数えきれない程のものを諦めていった。
その世代から五十年は経ったのだろうか。
最早何もかもを諦めた世代がやってきた。何もかも夢はない。
「彼らは財閥に、社会に不満を持っていた。富を独り占めする財閥に反旗を翻し、そして政権から一人残らず放り出した」
彼らは今まで伝統になりかけていたロウソクデモを利用し、政府に向かって武力を仕掛けた。そして、政権を取った。
「世界からの目を気にして表面的には資本主義を取り繕っていたが、実質共産主義となっていた。平等を目指すがあまり人々の自由は蔑ろにされかけていた。そして、今この時代だ」
自由がない国が作られていく。
その国を変えるため、タンユンは自由を抱えてこの国を変えたのだ。
「俺は財閥系の一人だし味方も財閥系だ。自由を掲げた財閥が平等を掲げた国民から政権を奪った、というのが今の状況だし、認識だ。今この争いもこの歴史を汲んでいる」
国民側も再びあの世代に戻りたくはない。一方で、政府側も前の状況に戻りたくはない。
つまり、言いたいことは一つ。
「この衝突は回避できない。互いにもう止まれない────」
*
「こっちよ」
店に入る。そこから繋がる秘密の経路。
その道を巡ってマリンは蝋燭の本拠地へと辿り着いた。
「ここがあたいらの作戦拠点」
ムンスは仲間達に紹介していく。
「今朝起きた青瓦台侵入知ってるだろ? こいつは荒唐無稽な不審者の仲間だそうだ」
「そうですか。それは面白い。僕はムヒョル。ノ ムヒョルです。よろしくお願いします」
握手を交わした。
薄暗い地下を照らす淡い光。夜のような世界であった。
岩の壁からは湧き水が垂れる。
「君は韓国人じゃないですよね。それにしては韓国語が堪能な気がしますけど」
「ええ、そうですわ。韓国語はドラマを見て習いましたの」
「なるほど……」
「日本では何をしています?」
「警察ですわ。それも異災能力を専門です」
「日本の警察? 何のためにここにきたのですか」
「仲間がここに来たがってたからですわ」
「ああ、あの不審者かな……」
ムンスの代わりにムヒョルが道案内をする。
洞窟のような中を通っていく。薄暗い中に人々が彷徨いている。マリンもその一人だった。
「ここ、汚らしいからごめんなさい。こんな悲しい遺産をぶり返さないためにも……僕達は勝たなければならないんです」
「どういうことですの?」
地に足がつき、落ちることない平穏が安寧を導いていった。ずっと平和が続く。そう思っていた。
だが、一人の男が全てを覆した。
軍服を羽織り、銃と刀を持って反乱する危険分子を気絶させていく。彼は自由を掲げてクーデタを起こし、ついに政権を取った。彼の名はタンユンだ。
平穏を破壊して自由を掴み取る? 彼の言う事は理解し難かった。二度と這い上がれなくなれば、そこに自由はない。
落ちていく人生に誰も手を差し伸べない。天を見上げて手を伸ばす。しかし、手は届かない。その可能性は微塵もない。選択できる幅があるから自由を感じられる。だが、貧しくて選択肢がゼロに近いならそれはもう自由とは言えない。
見せかけの自由なんていらない。それならいっそ平等を取る。
その意志と反して、タンユンは強行突破して変えていった。
「僕らはひと握りの財閥とその他の国民の財産は等しいまでなったことがあります。ある日、人々はこのような地下で暮らしたりもしたのです。これはその時の遺産です」
足音がコツコツと反射していく。
「十数年前、人々が平等に暮らせる社会が実現しました。今まで虐げられていた国民がついに財閥に打ち勝ったんです。まあ、現大統領のタンユンがクーデタを起こしたせいで、再び前の社会へと逆戻りしかけていますけどね」
「話は掴めてきましたわ」
少し広がっている空洞。その中へと紹介され入っていく。
「少し手合わせお願いできますか?」
「ええ、実力を把握したいのでしょう。受けてたちますわ」
水が十文字槍を創造し左手によって凍った。鋭い刃がギラッと光る。
部屋全体に粉雪が舞っていた。
*
そよ風が吹いた。
人混みに押し返され結局行けずじまい。さらには、マリンともはぐれてしまった。
ヒデもマリンも連絡を寄越さない。
「全くもう、二人とも……報連相ぐらいしてよ!」
スマホを見てため息を吐く。
ミドリは仕方なく寝る場所を探した。
人物紹介
『サイキッカー サンス』①
身長:男性の平均身長
性別:男
年齢:36歳
髪色:茶色
所属:韓国政府 (内通者)
趣味:トランプ、マジック
特技:マジック
特徴:変人のタスキード、目だけの仮面。変人かつ馬鹿なエスパー。
信念:名誉を得ること
いし:サンストーン (輝き)
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