17、妖精の姫君
~前回の回想~
妖精の姫君降臨────
緑色のドレスに包まれた女。緑色の王冠や左側につけられた緑色の金具が見える。彼女は突風による抵抗でゆっくりと降りていく。
「ここで攻撃されて負けたら元も子もないんだぞ。上司命令だ」
ダイの言葉で仕方なく、敵に武器を向ける。
速くしないとダイが死んでしまう。だからこそ、速く倒して彼を救急できる場所まで運ばないといけない。リコーダーを強く握った。
~17、妖精の姫君~
黄緑色のドレスをゆったりと靡かせながら降りていく。ふわふわと落ちていくミドリ。その足が黒い砂に触れた。
ダイは言った。戦え! そして「上司命令」と。
ミドリはリコーダーを握ってガーズの方向に向けた。その後に、リコーダーを上に上げる。その途端、黄黄緑色の風が空中に浮く巨大な腕となる。無数に増えていく腕。その腕はバラバラの方向を向いている。
ミドリはチラリと後ろを見た。
血が流れていき、呼吸が荒らげていくダイ。速くしなければ、死ぬかもしれない。
狙いを絞る。リコーダーを下に振ると腕は真っ直ぐに飛んでいく。
乱発する攻撃。黄緑色の突風がこの場を包んだ。
視界が黄緑色となった────
黄緑色の世界を抜けて黒と茶色の混じる砂の道を歩いていく。
お姫様抱っこでダイを運ぶ。
落ちていく血液を風のドレスが弾く。小走りで敵から離れていく。まだ敵は追ってきていない。
「ミドリ。上司命令と言っただろ」
「例え命令だとしても……。私は先輩の命の方が大事ですから!」
「そうか。まさかお前が命令を破るとはな」
「生まれ変わろうと思いましたから。変化の時だったんです」
大広間に出た。
所々従業員が見える。
「それよりこの運び方やめてくれないか? 恥ずかしいんだが」
「私は姫ですよ。お姫様抱っこで運ぶのは当たり前じゃないですか」
「いや逆だからな。する方じゃなくてされる方だからな」
口を動かしながら足も動かす。
「いいじゃないですか。早くダメージを手当しなければならないんですから」
「物理的なダメージは治せても、精神的ダメージが致命的だぞ。これ」
衝撃派の音が鳴る。磁石と磁石が反発する音だ。
すぐにそれがガーズだと気づいた。
段々と近づいてくる音。速くダイを安全な場所に托して、さらに離れて戦わなければいけない。
その時、従業員が近づいてきた。彼女らは虎眼の中でたまり場にいた反ガーズの意志を持つ者であった。ミドリは抱えていたダイを彼女達に托した。
「今すぐにでも死にそうなの。手当てをしなければいけない。任せられる?」
「任せて。安心して例の作戦は成功してる。もう作戦以上の成果を上げてる。救急室だって抑えてるわ」
ミドリはダイを任せて別の場所へと急ぐ。
ひたすら走っていく。
黒と茶色の砂を踏みつける。風のドレスを舞わせながら進む。
いつしかガーズは追いついていた。
「戦いは終わってない。勝利のために君を斃す」
飛びかかり右手を体に当てようとする。
ミドリは風のドレスを持ち上げながら蹴りを加えようとする。風で創られたヒールが貫通する衝撃波を放つ。飛ぶ攻撃を避けて右手でミドリを弾き飛ばす。
空中で体制を整えて地面に足をつく。
砂で後ろにズリズリと後退する。
広い広場の中で遠ざかっていく足音が響く。戦いに巻き込まれまいと逃げていく従業員の足音だ。
「まだ木更津君を殺せていない。まだ決着は着いてはいなかった。それなのに君が代理しようとするとは、苛立ちが募るとは思わないかい?」
「そう? あなたはダイさんだけと戦っている訳ではない」
ガーズは左手をミドリに向ける。
ガーズの元へと吸い付けられていく。
リコーダーを握って敵向けて構える。
「どういうことかな?」
右手を出していく。その手がミドリを捉えていた。
一方で、リコーダーは強く振られていた。その軌道の先にはガーズがいる。
身動き取れずに進む。その中でミドリは胸を張って言った。
「あなたが戦っているのは……「異災警察」ですからっ!」
強い物理攻撃はガーズを掠る。気絶させる程のダメージを与えられなかった。
ミドリは反発する磁力によって吹き飛ばされた。
距離が空いた。
ミドリは力を溜めて幾つかの風の腕を繰り出した。
「異災警察か。面白い。一つ聞かせて貰おうか」
再び左手が前へと出された。
「違法者と戦うことは、死と向き合う危険性を含んでいる。何故に異災警察は命をかけてまで……戦う!?」
磁力によって引き寄せられる。
体は悲鳴を上げていた。すぐそこに限界が来ている。自身の体のことなら分かっていた。次の攻撃を受ければ立つことが出来なくなるかもしれない。
幾つかの風の腕がそれぞれの方向に真っ直ぐ進む。地面や壁に当たると周りに突風を放った。
黄緑色の疾風がフィールドを覆う。
「私達、異災警察はみんな一つの"信念"で固く結ばれています。その信念が命をかけてまで戦わせてくれるんです」
「何だ? その信念とは」
「私達の信念……それは」
黄緑色の腕がミドリの背中を押す。
その風が仲間の残像を作り出していたように見えた。十の背中を押し出す手。シーナの優しい手、ヒデの真っ直ぐな手、カヤの理論に基づいて押していく手、ルサの元気な手、ダイの力強い手、オパルの適当に押していく手、黒羽のカッコつけた手、安定あるコラールとパパラチア、レキの手。仲間の手がミドリに力を与えていく。
右手が近づく前に接近する。
追い風を受けて磁力の働く方向へと進む。
「「平和への心です」──!!」
平和は当たり前ではない。簡単に平和は崩れてしまう脆い存在。何が平和なのか。今は平和なのか。それは分からないけど異災警察のみんなは平和のために今日も働いている。
平和への信念が異災警察を一つにまとめている。
仲間の追い風がリコーダーの周りを舞う。強い信念が笛を強固にする。
重い攻撃がガーズを襲う。
遅れて右手がミドリを吹き飛ばした。
荒れ狂う風が止んだ。
ガーズもミドリも空を向いて倒れている。
ミドリを纏う風のドレスは消え従業員の服装となっている。ニーちゃんは力尽きて姿を見せなくなっていた。
息を吸って吐く。
体力は限界を迎えている。タイトとの勝負で一度限界を迎えていた。その後の一時的な睡眠をしたといえ、それほど回復はしていない。体中から力が抜けていく。
意識して強く呼吸をすると、一時的に抜けていった体から力が戻っていく。
気絶したかどうかの確認のため重い体を持ち上げ立ち上がる。
覚束無い足取りで倒れているガーズに近づこうとしたが……。
そこで集中力の糸が切れてしまった。
足に力が入らない。
その場で崩れ落ちてしまった。砂のひんやりとした感触が無力感を与える。
顔を上げる力も消耗していた。そのため少しだけ下の方を向いていた。
ミドリを覆う影。
目の前に人影がある。誰かが立っている。
顔を上げるとそこにはガーズが立っていた。
息絶えそうな状態でも異常な程楽しそうな表情を浮かべている。右手を後ろに向けた。その後、右手が振り落とされ、身が吹き飛ばされることは容易に想像できた。
「これで終わりにしよう」
獲物にしか目を向けていない。その目がミドリを捉えていた。
右手が振り下ろされる。
もう立ち上がる体力も戦う体力もない。一瞬、死という言葉が頭を過ぎった。
振り下ろされる右手。
目を瞑った。
目の代わりにより働いていく耳の機能。雷の音が強く鳴っている。
瞼を開くとガーズの右手と誰かの右手が衝突し、稲妻を発生させていた。
ガーズは背後へと体を反り戻る。
ミドリの背後から一人の仲間が前に出てきた。
「大丈夫ですか? ミドリさん」
スラリとした体。美しく可愛らしい容姿。女の子に見えるが、ミドリは男の子だと知っている。
そこにいたのは……
「シー……ちゃん?」
シーナ────だった。
*
焙良は傷を負っていた。
傷口にタオルを当てて机にもたれ掛かる。
「水砥さん。救急室を抑えました。早くこちらへ」
仲間に支えられながら進んでいく。
「勝ったんですよね。私達」
「ええ」
通信機器のある部屋を後にする。
焙良たちは外への通信機器がある部屋を奪取したのだ。壁の中を封じているにしろ、怪しまれないためにもその施設は存在した。鍵もかかっているが、鍵番の社員を倒し、特段の待遇されている社員たちの抵抗にも打ち破った。また、この状況を危機とし、利益に駆られた一般人も抵抗したが何とか打ち破った。
救急室に入る。そこには負傷した仲間や捕らわれの身であったトーンがいる。
トーンもこの会社に反乱を期す従業員らによって救われた。
従業員らの反乱は成功に終わったのだ。
*
虎眼本部、最上階。
ヒデは勢いで最上階へと登っていた。長く続く階段を抜け、壊れたシャッターをくぐり抜け、そして最上階に。
そこには一人の男が立っていた。
「リベンジのために登ってきたのに見つからなかった。シャッターを躱してここへと来ているはず。なぜいないのか。そしてようやく会ったのは誰かも分からない男ですか……」
彼は二本の剣を持っている。
「あなたは誰ですか? そして、ここに何の用です?」
「俺は異災警察だ。ちと、捕まえにきた」
「そうですか。なら返り討ちにしてあげましょう」
炎が舞い、岩の剣が炎を消す。
手のひらは刀となりて、刀と互角にぶつかり合う。
手のひらを斜めに薙ぐ。タイトは攻撃を反り躱すが、続いてすぐに蹴りが飛んできてタイトに攻撃を当てる。
空中で体制を整え床へと着地する。
「なるほど。なかなかお強いです。ですが、能力は平凡なようで。能力は天性のもの。仕方ありません。先程の女の能力と、あなたの戦闘力が合わされば面白い殺し合いもできそうです」
太刀がタイトに変わる。
ヒデは淡々と次の一手に注ぎ込み、タイトの髪を横切る斬撃を繰り出して距離を開けた。
「噂では聞いてますよ。異災警察は今年から〇〇〇〇〇に出るようで。私も参加したいと思っていましてね。勝負の決着はその場で行いませんか?」
「嫌だね。ここでとっ捕まえた方が楽だろ」
タイトは壊れた跡へと進む。
「なら、勝手に退散します」
そこから地上へと落ちていく。
十階からの飛び降り。普通は死ぬはずだ。
だが、彼は違った。地面にぶつかる前に変身したタイトが本物のタイトを上へと投げる。そしてさらにもう一つの刀も変身し、本物を持ちながら着地した。ダメージは感じられそうにない。
ヒデは降りることができない。
手段がない。
仕方なく見逃すことしかできなかった。
*
長い長い山登り あと少しで頂上につく
ようやくついたその場所は 頂上ではなく
新たにそびえる山の 麓にすぎなかった
頂上を目指して 再び山を登っていく
どれだけ登ったのだろうか
どのぐらい時間が経ったのだろうか
もう限界だ 手を離したら真っ逆さまに落ちていく
またイチからやり直しになる 嫌になる山登りがやり直し
頭の中で 明るい希望をみいだす
最も下から登り切れれば 主人公になれる
落ちてもまた新しい挑戦が待っているだけだ
私は頑張った そう言い聞かせて私は手を離した
──
───
────
限界の体。負けたくないという意志が体を動かしていたが、もうその意志が崩れた。諦めの心に変わっていく。それと同時に後ろへと倒れていく。
もう頑張った。自分に対して言い放つ。もう頑張った、と。
今度は全ての罪を精算して、また一番を目指そう。精算してからでも遅くはないはずだ。例え六十歳でも、七十歳でも、それよりも高い年齢だとしても心が折れなければ目指せるはずだ。
今度は正々堂々と一番を……
「取ってみせる。例え、イチから、ゼロから始めても。取ってみせる────天下を」
ガーズは砂の上で仰向けに倒れ、目蓋を閉じた。
彼は柔らかい表情を浮かべていた。何故か楽しそうな印象を与えている。
シーナは空を見上げた。
終わりを告げる優しい風が穏やかに吹いていた。
*
四月二十九日────
春風がとある事件の終わりを仲間達に報せる。
虎眼株式会社社長新田ガーズ、社員のパタの二人が逮捕された。後々、六名の社員に逮捕状が請求されるようだ。逮捕理由として拉致や悪魔の肉片の不法所持や利用など、それに共謀したことが一番に挙げられる。
タイトによる情報はない。
彼は秘密の裏道を通って逃亡したとみられる。今どこにいるか分からない。
急に経営者を失ったため会社は社員の一人が引き継いだ。そして、壁を壊すことを速急として行うことを決めている。ガーズに擦り寄っていた従業員はクビになった。他の従業員は退職した者と居残った者に分かれた。
焙良は居残ることに決めた。
後々、瑞人の元へと行ったようだ。孤児院の皆と楽しくしているのを見て連れ帰るのを止めたという。
ミドリ、ダイ、トーンは近くの大きな病院へと運ばれた。その病院から名古屋の雰囲気を感じている。
ヒデとシーナ、そしてルサはリニア新幹線で異災警察の本部へと戻っていく。コラールは異災警察の名古屋支部建設に向け、事件の後処理に協力するため愛知県警に留まった。
病室の窓の向こうには蒼空が広がる。
異災警察と探偵による秘密捜査から勃発した虎眼との抗争は異災警察側の勝利と終わった。
青空の中に黄緑色の風が吹いたような気がした。
ストーリー紹介
── マトリョーシカ人間《俺》 ──
物語:佐藤太一が事故から悪魔を体に宿すようになり、そこから人生が変わっていく人間ドラマ。と、その未来編となるホラー。その後のバトルアクション。の3本立ての未完物語。
設定:①主人公の佐藤太一が悪魔を宿し、死ぬと分裂するようになります。分裂した偽物とその偽物を追う大樹に巻き込まれいく。②未来の世界でゾンビ化した太一が閉じ込められたスーパーで大量発生。そこにいた少女"フジキ モカ"と本物の太一がそこからの脱出を謀る。③増えすぎた太一が日本を支配した世界。さらに、太一は皆、腹から魔の手を繰り出せる力を持つようになった。本物は太一第一主義と敵対し、その後仲間とだった軍とも対立する。
使用:主人公の佐藤太一を木更津大に使用した。また、第三章で考えた多くの魔の手の能力を全てダイが使用することにした。
人物:ダイ、イブン=パパラチア、ルサ、カヤ、初期アカナ
秘話:元々、第三章までやり終えようと思ったけど、やる気が出なくてもう第一章でやめた。ダイの活躍が見れるのは第三章で、物語すぐに右足を失って魔の手が右足の代わりとなる。異災のディーポリスでも同じような状況にした。
次回2時間後




