15、あの手この手魔の手
パタ「『前回のあらすじ』だよぉ」
パタ「はぁ、異災警察を止めようとしたけど返り討ちにあってしまった」
タイト「任せて下さい。私どもが止めますから」
パタ「頼むよ、期待しているからねぇ」
タイト「前回はダイと社長の新田氏との勝負が行われました。今度は第2ラウンドへと入るようです。さらに、私と異災警察の一人ミドリとの勝負も行います」
パタ「けど、今回の話少し長いから少し優しい目で見てください」
~15、あの手この手魔の手~
颯爽と吹き抜ける風。
意図的にタイトスカートを破り、せめてもの動きで進む。
個性的な雰囲気を醸しだしながら二つの太刀を振るってくる。
鉄製のリコーダーと強固な二つの太刀が火花散らしてぶつかる。
軽く距離を置いて敵の攻撃を見定める。
太刀を一本が肩向かって放たれる。鋭い刃が真っ直ぐ進んできた。
体を傾けて飛んできた刀を避けた。
敵は刀を投げたため一本しか太刀を持ってない。今がチャンスだ。
そう思った。体を前のめりにさせ近づこうと考えた頃、すぐ真横に蹴りがとんでいた。気づいた頃には二の腕付近の骨に足が当たる。ミシミシと鳴り、真横へと吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。
それは人間を遥かに超えた硬さ。蹴りではなく鉄のような何かで殴られた気分だ。
しかし蹴ったのはどう見てもタイトだった。
投げた方のタイトもいる。蹴ったタイトもいる。今二人のタイトが近くにいる。
一方で投げられた刀は行方不明になっていた。
もしかしたら……
近くのタイトが殴りかかり、刀を持つタイトは近づいてくる。
先に到着した素手のタイトはミドリの顔目掛けて腕を伸ばしていた。
そこにシルフの腕が現れぶつかり合う。
さらに、ニーちゃんが現れ突風を繰り出す。
しかし、吹き飛ばせない。人間なら吹き飛ぶはずだった。彼は人間を凌駕した岩のような体なのかもしれない。
目の前のタイトが急に太刀へと変化した。
さっきいたタイトに隠れていた刀を持つタイトはとっくに刀を振っていた。素手だったタイトを壁にしてミドリの死角に入り、太刀を振るう頃に武器に変わったことで壁なく刀は進む。隙のない攻撃がミドリを襲った。
咄嗟の判断だ。ニーちゃんの繰り出す突風でミドリが吹き飛ばされた。
廊下の中を転げる。
後ろにはシャッター。左右は壁。真正面にはタイト。
ミドリの元へシル君とニーちゃんがついた。
敵の能力を考えた。多分、刀を人間にしたり、人間なら刀にしたりできる能力だろう。さっきの蹴りは刀と同じ硬度で蹴られたと思えば納得がいく。
休む暇はない。
敵に集中する。やるべき事をやるだけだ。
リコーダーで突くが跳んで避けられ、空中で二つの太刀を回転させて斬ろうとしていたが、足首に力を入れて後ろへと跳んで回避。
投げられる太刀。そこにシル君が近づき太刀の横を殴る。軌道が変わる前に人間へと変わった武器がシル君を壁へと蹴り飛ばす。
敵の攻撃は止まない。彼は休む隙を一切与えない。
太刀が何回転もしながら頭上を飛んでいく。間合いを詰めた蹴りとリコーダーが当たる。その間に回転していた武器が人間へと変わり顔面向けて蹴る。その蹴りを頭を下げて回避した。続いてシル君を蹴り飛ばした人間が武器へと変わり空中を回転しながら進む。その武器を握ったタイトはしゃがんでいるミドリ向けて薙ぎ上げる。ミドリは地面を蹴り飛ばすことで擦り傷程度で済ませられた。
ニーちゃんが攻撃を加えるが本体へとは人間と化した武器が邪魔で当てられない。今の状況だとニーちゃんは足でまといとなっていたのでミドリは、
「ニーちゃんは一旦下がって戦闘をおりてて」と言った。
ニーちゃんは《力不足ですまへんな》と言いながら一時離脱をした。
シル君と二人で猛攻激のタイトを相手する。
振り回される太刀を避けたりリコーダーで衝突させたり、シル君の一撃で軌道を変えたりする。それでも攻撃は続きいくつかの切り傷をつくっていった。
劣勢である。少しずつ後退していきながら対応することで何とか致命傷にならずに済んでいる。
さらに────
シル君を囲む三人のタイト。素早い動作のせいで本体は分からずじまいだった。三分の一が本物で、三分の二が偽物で武器。一瞬の躊躇いの後に運任せで攻撃しようとした瞬間にアッパーが飛んでくる。
《しまったナ。これはさけられ……》
「一瞬の迷いが命取りですよ」
天井に突き飛ばされ、そこから床へと落ちる間ににほんの太刀がシル君を切り裂く。
その攻撃でシル君は風となって見えなくなった。
死んだ訳ではない。が、次にシル君を召喚できるのは大体三日後ぐらいになる。召喚される前の場所での療養での回復で完全回復されないと再び召喚できない。完全回復が大体三日ぐらいなのだ。
シル君が戦線離脱した。後ろには壁。もう後はない。
さらに、劣勢だ。
タイトの投げた二本の太刀が人間へと変わる。
その内一つに付けられた音声機器と背後から聞こえる肉声が同時に響く。
「「決着をつけましょうか」」
振り向いて武器の方を見た頃には足が腹の直前にある。思いっきり振られる右足と左足。二つの蹴りが同時に腹に衝撃を与え、ミドリを吹き飛ばす。
飛ばされるミドリの背後には本物のタイトがいた。飛んでくるミドリに合わせて肘を突き出す。
背中から猛スピードで進むミドリに向かって肘打ちが加わる。蹴りと合わさって思わず唾液が口から飛び出した。
タイトは服の裾を掴み大きく振り、ミドリを空中に飛ばした。
戻ってくる二人のタイトが武器へと変わり、本物のタイトの腕に納まる。
床へと落ちゆくミドリに二本の太刀を振りかぶった。
咄嗟にリコーダーを両手で持ち、リコーダーの中央に二つの太刀が合わさる。
そしてミドリは思いっきり吹き飛ばされた。
ガラス窓の下にある壁へと衝突する。その瞬間血反吐が飛び出した。
窓越しから太陽が笑っている。
体は動かない。
日差しが脱力して伸ばされている両足を照らす。顔や体の大半は日陰に隠れていた。
タイトが余裕そうな表情をかます。
彼は口を開いた。
「残念ですけど、あなたでは私には勝てない。あなたは単調すぎるのです。きっちりとカタにはめて戦おうとしているのか、例えるなら教科書通りの戦い方でした」
マルマルならバツバツ。このような決まった条件に照らし合わせて戦う。
教科書に載っている問題。そこには答えがある。導ける解がある。
そこには白と黒のはっきりした世界が広がっている。
「あなたは井の中の蛙だ。大海を知らない。あなたの中にある意識が大海へと出る道を塞いでいる。意識を払って見つけた戦いができればもっと強くなる」
血のついたリコーダーが床に落ちた。
意識が朦朧とし始めているせいか意味が分からなかった。
「この世界には「絶対」と断言できるものはない。人々の言う"絶対"は条件下の絶対であって現実的なものではないのです。もしかしたら明日地球が崩壊するかもしれないし、災害が起きるかも知れない。地球崩壊は言い過ぎだけど、災害なら起こりうるでしょうね」
タイトは続ける。
「あなたは「絶対」の意識に囚われている。私の攻撃を分析してデータにしても予想外の攻撃をされる。規則的な攻撃は格下なら通用するが格上には通用しない。あなたに言いたい。意識を解放させ、今よりももっと自由な戦い方ができるようになれば強くなれるはず……」
張り詰めた廊下とは裏腹に窓の向こうでは小鳥が自由に飛んでいく。その様子をタイトは眺めていた。
「私を雇った新田氏は強くない。能力は〘電流〙でただ電流を流すだけ。麻痺させることも関電させることさえもできない。もし彼との勝負で異災警察側が勝てば私は身を引きましょうかね。ここにいる必要はないので……」
突然鳴り響く巨大な音。耳が張り裂けるような轟音だった。その音源は上からだ。ガーズとダイの勝負だろう。
タイトはその音を聞いて確信した。
「……負けたのか。私の予想が外れた」
タイトは二本の太刀を右手の指に挟む。中指と人差し指の間に一太刀、中指と薬指の間に一太刀。二つが床に軽く刺さる。
「新田氏が勝つのなら仕方ない。社長命令ですからね。折角見つけた素晴らしい蕾を刈ることになるとは……」
タイトはミドリ向かって進んでいった。
床に二本の太刀を擦りつけながら進む。摩擦によって火花が舞う。
野獣のような鋭い眼光がミドリを睨む。
真っ直ぐ捉え、死の恐怖を与える。太刀が振りかぶりかけた。
妖精の悪戯────
壁越しに座るミドリは目掛けて進むタイトを見て右手を伸ばし、そして何も無いのに手を握る。
それはサインであった。
戦線離脱して戦闘から離れて忘れ去られていたニーちゃんが、変形する腕をしなるゴムへと変える。二つのゴムの先端が結ばれる。それはまさに草結びのようだ。
猪突猛進のタイトの足にひっかかる草結び。
タイトの上半身は勢いをそのままに下半身は勢いが殺される。そのまま勢い余って空中へと身を投げ出される。
振りかぶった太刀が床と垂直方向に振られる。現れた斬撃が下の階へと飛んでいく。ミドリに当たりはしなかった。
空中では身動きが取れず勢いに押されていく。
タイトはそのままガラスへとぶつかり、外へと身を投げ出した。破れたガラスの破片が散り舞う。
舞っていくガラスの破片を太陽のプリズムが乱反射して進んでいく。ミドリには勝利の光が舞い込み、輝かしいスポットライトを浴びていた。
ミドリは疲労の溜まった体を無理言わして立ち上がった。
ふらふらになりながらシャッターの方へと歩いていく。上から響いた轟音が不安を与えていた。早く加勢にいかなければ。
どうシャッターを攻略するか。ただ時間のゆとりがシャッター攻略に気楽なイメージを持たせていた。
ただ、ミドリの体力は続かずその場に倒れてしまった。
(早く行かなければ……)
手を伸ばすことしかできなかった。いつの間にか目は閉じて寝ていた。
*
黒い砂に触れる。砂は触れた手に向かって吸い付けられていく。吸い付けられていく砂鉄を器用に取捨選択し砂のオブジェクトを作っていく。
二匹の真っ黒な虎が現れた。
歯に見立てた鉄製の鋭い刃の歯並び。ギラリと輝く。
「次のフィールドは私に有利だ。この『虎の化身』で君を殺そう。もう油断はしない」
一匹目の虎が浮いている。もう一匹は地面に着いている。
「なんだ、この虎は。能力はどうなってやがる。磁石の能力じゃなかったか? チートか……」
「そう思ったのか。私の能力は磁石ではなく単に電流を流すだけの能力。先程は磁石の引力を強めていただけ、今は磁派に電流を流して操っているだけ。能力の応用だよ」
虎が襲ってきた。魔の手で地面を蹴り攻撃を躱す。さらにそこにもう一匹の虎が襲う。
体を捻り回転させる。その勢いで魔の手にしなりを与えた。
虎が真っ二つに裂けた。すぐに虎の断片はくっついた。
噛み砕こうと進む虎。ギラギラとした歯がダイを狙う。魔の手が歯を掴み移動する。
歯よりも上方へと動く。虎の頭がぶつかるがダメージはなかった。
そこから導き出したことは刃である歯に当たらなければダメージはない。
ダイは魔の手を使って攻撃を避ける。躊躇うことなく磁砂鉄に突っ込み敵に近づいていく。
魔の手を推進力にしてガーズの懐へと飛び込み蹴りをしかける。が、その攻撃は義手によって防がれた。
「羨ましいよ。その能力」
「どの口が言うんだが、俺をこんなに苦しめてるくせに良く言えるよ」
虎がダイを巻き込む。その間に硬い腕で殴りかけられる。
ダメージを避けるためにガーズとの距離を置いた。
「そうでもない。私は能力に恵まれなかった。このような有利な条件でなければ戦うことすらままならないのだよ。力を得るなら君の能力が良かったよ」
二匹の虎が睨む。
魔の手も負けずと殺気を放って対抗していた。
「ったく、俺は俺で力を得るならお前の能力が良かった。〘魔の手〙の能力じゃなければ大切な人を失わずに済んだからな」
静かに記憶が蘇っていく。
懐かしい記憶。
魔の手が少し笑っているように見えた。
*
大学三年生春────
ベッドに横たわりながら本を読む耽る。
たまたま手に取った物語に感銘を受けた。
ある日高い金額を支払って手に入れた魔法の壺。その壺を持つ者は願いを何でも叶えられる。しかし、持っている者は呪われ四六時中悪魔の囁きが聞こえ、精神的不安定を強いられて不幸となる。だからと言って、悪魔の関係を断ちたく壺を捨てても不思議な力ですぐ手元に戻ってくる。壺を手放すためには一つの方法しかなく、それ以外の方法では絶対に手放してもすぐに手元へと戻ってしまうのだ。手放す方法は他人に自身が壺を購入した値段よりも安い値段で売りつけるしかない。主人公はその壺を売りつけるのだが……
不幸の連鎖が繰り返され、挙句の果てには主人公の元へと帰ってくる。その値段は購入限界額に大幅に近づいた値段だった。それでも主人公が購入したのには理由があった。それは、ヒロインとの恋のため。主人公とヒロインとの人間ドラマが繰り広げられ、終盤には二人は壺を手放す決意をするが……
それはもう購入限度額に達していた。例えばこの世に一円玉以外の日本円はない。このような状況へと陥っていた。もう終わりかと思われた頃に住んでいた国家よりも通貨単位が安い国家へと移動することを思いつき、最後には悪人に壺が渡り物語の幕を閉じる。
本を閉じた。
ベッドを照らすほのかな光を切って布団に入る。
明日は"彼女とのデート日"だった。明日のための身支度を考えながら夢へと移動していった。
小鳥の囀り、桜舞う道、澄んだ世界。
物語なら好調のイメージを湧かせる。清々しく明るい心情の象徴だろう。
太陽が上へと昇る程、さらに明るくなっていく。爽やかな気分となっていた。
待ち合わせの場所。彼女と会う。
手を繋ぎ駅で電車を待つ。重ねた手の上に桜が乗った。何か幸運なことが起きる予感がした。
目的地に着いた。そこで日々の鬱憤を晴らし、彼女との進展を図り、と忙しいも楽しい時間を過ごした。
その最中だった。
突然鳴り響く緊急事態速報。海外で多発し始めた異常災害。日本の九州地方で起きた大噴火に多くの人々が巻き込まれた。またある所では台風が襲う。そして、ここには────地震が襲ってきた。
悲劇が起こるフラグは立ってない。
小鳥は慌ただしく飛び、木々は荒々しい風によってザワザワと音をたて、暗雲が舞い込んで濁った世界へと変わりゆく。そんな悲劇へのフラグはなかった。それどころか、悲劇とは真逆の幸運のフラグの方が立っていた気がする。
悲劇はいつだって突然やってくる。
仮想世界なら予想を上回る出来事が起きる時にその予兆が現れるが、現実ではいつだって予想を上回る出来事は唐突にやってくる。
地震が建物を破壊しにかかる。
物が落下していく。破壊していく。
気を抜くと強い揺れで吹き飛ばされそうだ。力を入れてその場所に留まるので精一杯。動くことは至難の業に感じられた。
彼女のことを守りたいが自分のことで精一杯だ。
まずは自分の命を守る。それが先決だった。
その時、地面が割れていくのを目にした。割れていく先には彼女がいた。
このままでは大切な人がいなくなってしまう。
揺れで動けないはずだったが、自分でも分からない不思議なパワーが体を動かす。
手が彼女に触れる。力強く吹き飛ばし地割れの餌食に巻き込まれない場所へと突き飛ばした。
代わりに、地割れの餌食となっていく。地面の中へと落ちていく。その中は暗くて怖かった。
今までの記憶を呼び覚まし懐かしいメモリーを見ていく。
時間が遅く進む。その間にいくつもの記憶が呼び覚まされる。家族との思い出、友達との思い出、彼女との思い出……あっ、もう終わりの時間だ。
そこで意識がプツンと切れる。
本当ならそこで二度とこの世界には戻ることはなかった。しかし、この時期は違った。死の先に、特殊能力を手に取りこの世へと蘇る。彼もその一人だったのだ。
俺には悪魔が眠っている。
真っ暗な場所で目を閉じていた。脳内の世界は生きのできる宇宙。惑星も星も何も無い宇宙で一人漂っていた。
足元の方に長く伸びる不気味な手が見える。そして、その手が掴みにかかってくる。
ここは水中だろうか、泳げる。俺はひたすら逃げるように上へ上へと這い上がっていく。
一本だけじゃない。他にも不気味な手が現れてきた。何本もの手が俺を掴もうと進む。必死に逃げた。逃げるべき方向には光が見えた。
手に追われながらもようやく掴んだ光。
俺は現世に連れ戻されていた。
何も変わらない世界に立っている。
へその緒だけ体の異変を感じる。何かとんでもない所に通じる穴がある気がする。ドラえもんの次元ポケットに近い感じだ。
目の前で泣き崩れる彼女。
それを見ると痛々しく感じる。俺は死んでたはずなんだ。なのに生きている。
泣き喚くが何を言ってるかは聞き取れなかった。
ただ胸が痛くなっていた。
あの日から一年半。
彼女とは上手くやっている。あの時の事件で命をかけてまで守ったことが彼女に強い気持ちを証明させた。
しかしながら、あの時の傷は癒えてない。特に、彼女は目の前で大切な人を失う怖さを忘れられずにいた。
就職活動と卒業論文の制作に追われながらも作れた彼女とのデート日。人混みの中、千葉で古くから営業している夢のテーマパークで遊んでいた。
彼女の手が温かかった。
しかし、その時悪魔が醒ました。
俺には悪魔が宿る。しかし、その悪魔との関係を断ち切る方法はない。これは異災能力であることが分かっていて、断ち切る方法は確認されていない。
小さな小さな次元の穴が開く。
腹に空いた次元の穴。そこから魔の手が現れた。もちろん、自分の意志ではない。俺は単に叫ぶことしかできなかった。
魔の手が無差別に人を物を襲っていく。場は騒然とした。
魔の手に触れて止めようとするが無駄だった。逆に、魔の手が俺を吹き飛ばしダメージを与えた。
止めろ────
そんなことは伝わらない。ただ、周りに「逃げろ」と叫ぶことしかできなかった。
関わりのない人々は逃げていった。
だけど、彼女は逃げなかった。
「逃げてくれ。止められないんだ」
「嫌だ! 逃げない!」
「死ぬんだぞ。逃げろよ」
彼女は魔の手を挟んでダイに抱きついた。
瞼から涙が溢れ出していた。
「あの時ダイは私を守ってくれた。今度は私が守る番。苦しむダイを放っておけない!」
優しさに包まれる。
彼女は苦しむダイを見捨てられなかった。それに貰った恩が加わりこのような行動へと変わったのだ。
最後の会話だった。精一杯の笑顔が心を抉っていく。
鮮血が舞う。
背中を貫き胃を貫通する。
魔の手によって彼女の灯火は瞬く間に消えてしまったのだ。
魔の手は変わらず暴れていく。
俺は目の前で野垂れ死んでいる彼女を抱き抱えて泣くことしかしていなかった。それ以外の行動を取れなかった。
俺は今悪魔を宿している。この能力を安く売るから誰か買ってくれ。そう思っても意味はない。現実とあの物語とは違うのだ。
そこへと現れる二人の男女。
魔の手がその二人を捉えた。魔の手が殺しにかかった。しかし、軽々しく避けられる。その内、一人が走り出して近づいてきた。
暴風が吹き出す。風が衝突し目には見えない壁となり、魔の手の攻撃を防御した。
いつの間にか魔の手よりも速くダイの懐へとはいっていた。
壁となっていた風が消える。と同時にダイに手錠がかけられた。それを気に魔の手は次元の穴へと戻っていった。
手錠をかけられたことで彼らが警察だということに気づいた。
最近新設された異災警察という者だろうか。能力を抑える効力がある手錠は初めて見た。
もう一人の男がやってきた。
相当年齢層の高い男だった。彼らは俺を連れて署へと連行した。途中の話を聞いて、女性の方は最近異災警察になった新入警察のようだ。
署の中で事情聴取がされた。ありのままを話した。能力が暴走したこと、彼女を失ったこと。それを聞いた警察は監視つきでダイを放流した。
薬が渡される。
手錠と同じ効力があるようだ。飲んだ後一日程度能力を抑えられる。しかし、毎回使用するのは効力を薄めていくので、能力が発動しそうな時に飲むことになっている。
何もかも失った。
窓の外に映る景色は澱んで見えた。何か不幸が起きる予兆だ。しかし、何も起きなかった。
周りの目は厳しく残酷だ。
事件はネットで広く知れ渡っていた。近所の人や友達、出歩く人々など身近な人は警戒し罵り逃げ腰になる。大学では不条理に辞めさせられた。アルバイトも同様の理由で辞めさせられたためもう何も残ってはくれなかった。
何も感じない日々。
彼女も生活も金を得る仕事も、何もかも失った。
少し先の未来は絶望の色に染まっていた。
多分あの事件からそんなに経ってはいなかった。だが辛いのを我慢するのが限界となっていた。
自殺には疎いためより簡単に確実に死ねる方法を知る本を買う。さらに、ホームセンターで縄を買う。後は、睡眠薬をネットから購入して準備は整った。
いざ自殺しようと思って準備していると警察が押しかけてきて俺を止めた。
「やはり自殺か。経過観察中ではなかったら彼女の託した命は無駄になるんだぞ。馬鹿な真似は辞めろ」
説教をするが俺の心には届かない。
説教よりも俺の心を貫く言葉が彼の後ろから聞こえた。もう一人の警察だ。
「彼を異災警察に引き入れてみてはどうですか?」
「はぁ? 何を言ってるんだ、レキ」
この提案は、俺を異災警察に入れることで心のケアを続け、さらに能力を操れるように鍛えるというものだった。先輩と思われる男も納得し、後は俺の意思だけとなった。
行くあてもない。
ここで死ねないなら仕方ない。
俺は彼らの提案にのった。そうして俺は異災警察に入ったのだ。過去と能力を克服するために。
今では過去を乗り越え、能力を扱えるようになっている。
しかし、大切な人をこの能力で失った過去は変えられない。俺は今もそれを受け止めながら犯人と戦う。
涙が一滴流れたが黒い砂がその涙を隠していたのであった。
──
───
────
虎の突撃を器用に避けていく。
虎と虎が衝突した。磁砂鉄が舞い散る。
ガーズは右腕を捻る。電流は磁砂鉄をはじき飛ばした。
義手には磁力を放つ機能と磁砂鉄に電力を流して磁波で模型を作る機能があるようだった。
はじき飛ばされた磁砂鉄が辺りに舞った。
磁砂鉄の砂嵐が視界を奪う。
何か危険な予感。ダイは感覚を研ぎ澄ませる。
ダイを襲う歯に似た刃。その刃が一つ襲う。感覚を頼りに攻撃を避けた。続いてまたも頭上からまた刃。避けても避けても攻撃の雨は続く。
埒が明かない。
魔の手を左足に絡ませた。一回使うと足が強く消耗して何日間は使えなくなる技。この日右足は使用したので左足でしか使えない。そして、この技を使えばこの日二度と同じ技は使えない。
真上へ高く跳ぶ。
吹き荒れる砂嵐を越えて上から様子を眺める。
ボヤッと敵の位置が見える。魔の手を繰り出し攻撃の準備をする。
鳴り響く機械音。突然右足が何かによって縛られる。
砂嵐が止んだ。ガーズの左の手のひらに空いた小さな穴から鎖が出ている。その鎖がダイの右足に絡み離さない。
ガーズは右腕で武器を手に持っていた。溜められるパワー。強力な一撃のために力を溜めていく。
「落とされる時に武器を引き寄せておいて良かったよ」
最上階での戦闘時に壁諸共吹き飛ばしたレーザー。その武器を落ちる時に磁力で引き寄せた。お陰でこの磁砂鉄が蔓延る地面に落ちていたのだ。
その武器でダイを狙う。
ダイは魔の手で鎖をちぎろうとするが無駄だった。
鎖がガーズの右手に引き寄せられる。レーザーの軌道に逆流するように進む。
「しまった!」
強烈なレーザーが放たれた。
鎖は粉々に消えた。レーザーの中に消失していく体の一部が見えていた。
音が消えた────
人物紹介
【新田 ガーズ】①
身長:178cm
性別:男
年齢:53
髪色:黒 (ラフ時:金)
所属:虎眼株式会社社長
趣味:釣り
特技:計算
特徴:両手が特殊な磁力を持つ義手。ピシッとした服装と社長っぽさが特徴的。
信念:勝ち続けて頂点を取ること
いし:タイガーズアイ (富)
次は深夜2:00です。




