13、パワハラとカスハラ
ミドリ「『前回のあらすじ』です」
ミドリ「前回は私の失言でみんなに迷惑かけました。すみませんでした」
ダイ「この会社は良いと発言した後どうなったんだ?」
ミドリ「トーンに説得されました」
ダイ「なるほどな。じゃあ、もう始めても大丈夫だよな?」
ミドリ「はい!」
ダイ「じゃあ、始めるぞ」
~13、パワハラとカスハラ~
開いた口の中には異物が見える。炎をまとう真っ黒い存在。相当強い悪魔の肉片に見える。
『悪魔の肉片』と言っても一概に同じとは言えない。様々な個体が存在する。悪魔から抽出されたソレは抽出された程度によって強さが代わる。悪魔から多く抽出された肉片はより強くなる。
さらに強い肉片を作るにはそれなりのリスクを負わなければならない。悪魔への封印が外される可能性が高くなってしまう。そこまでしてより強い肉片を取り出す理由。それは……。
雄叫びをあげる肉片。なりふり構わず殺意を放っていた。
従業員達が近くの鉄鋼から武器になりそうなものを手に取る。
「助太刀します」
しかし、ダイはそれを許さない。
「やめろ。戦いを甘く見るな。死ぬぞ────」
魔の手が腹に空いた次元の穴から出てくる。長く飛び出していき、唸るように進んでいく。
ダイの周りを彷徨く魔の手。細く伸びた身体。その姿まさに──龍──の如し。
「はよ逃げろ」
従業員はその場から逃げていった。
肉片とダイが対面する。
肉片には知性がない。ただ本能のままに攻撃を繰り出すだけ。肉片は口から炎の玉を吐き出した。
玉が魔の手の鱗に当たる。その鱗に沿った軌道で進み空に向かって飛んでいった。もちろん、ダイには当たる気配はなかった。
何度も何度も炎の玉を繰り出すが攻撃は当たらない。
今度は炎の吐息で攻撃してきた。が、鱗が壁となってダイには当たらなかった。
この状態に遠距離攻撃など効かない。遠くから発射される攻撃は魔の手がレールとなってダイ本人のいる方向から別方向へと軌道を逸らす。また吐息系も効かない。とぐろが壁となりダイ本人には届かない。
肉片はダイ向かって突進し始めた。
魔の手がとぐろを巻き始めダイをぐるぐる巻きにする。その姿まさに──ミイラ──のよう。
突進を食らって宙に投げ出された後地面に落ちる。しかし、そこにダメージはない。
隙間なく巻かれた魔の手がダメージを吸収する。もはや無敵だが、攻撃はできない。
すぐさま解除して、今度は魔の手を肉片の頭上に伸ばす。
魔の手が巨大化した。
巨大な腕が下へ落とされ肉片を強く叩きつける。その腕まさに──巨人──のようだ。
肉片は立ち上がる。けれども、負傷しているのは見てわかる。
魔の手が地面を蹴り飛ばす。
ダイは肉片よりも高い位置から見下していた。
空中で捩り回転する。それと同時に魔の手を伸ばした。真っ直ぐ伸ばされた手のひら。遠心力を加えて肉片を横から鋭く切り裂いた。
その手まさに真横へと振り落とされた──剣──のように。
肉片は真っ二つに割れた。
そのまま結合されることなく崩れ去っていく。真っ黒な肉片の残骸がそこに残されていた。
倒した残骸を見届けた従業員が戻ってきた。半数は帰ったのだろう。見届けていたのは半数だけだった。
遅れてミドリとトーンがやって来た。
二人に今起きた状況を伝え、トーンはミドリとの折り合いの結果を伝えた。
ミドリは皆に謝ろうと思っていたが半数は帰っていたのでまた明日言うことにした。
トーンはダイの言葉を聞いて笑っていた。
「面白い。ここにはすごい秘密が隠されていそうだ。名探偵の腕がなるね」
夕日が落ちつけられた電灯だけが壁の中を照らしていた。
帰り際トーンは手帳を開きながら会社の方を眺めていたのであった。
*
ほのかな灯りが発電機を照らす。闇に隠れながらその様子を確認していた。
虎眼の地下に聳える装置。真夜中の内にトーンは薄い警備をすり抜けてそこに潜り込んでいた。
『悪魔の肉片』を閉じ込めたカプセルを特殊な機械に入れる。その中ではカプセルとともに肉片を粉砕し、その時に生じるエネルギーでタービンを回す。火力発電五日分のエネルギーが肉片一つでできるのだ。この発電で壁の中の社会を全て回しているのだろう。
まずこの装置があることから、肉片を所持するのは初めてではないことが分かる。
これは法に触れる禁止行為。この事実は会社にとって明かされてはいけない秘密。探偵としてはとても嬉しいビッグニュースだ。
この様子を写真に収める。
続いて機械からデータを盗めば完璧だ。
隠していたメモリを持って機械に近づく。
「そこで何してんだい?」
フロア全体についていく照明。廊下にはパタがトーンの姿を捉えていた。その横には私服の男性がいる。
「新型の肉片を倒されたんだって。そいつに殺される予定だったけど、仕方ないねぇ。今ここであたしらが殺してあげる」
「まじか~。そんな怖いこと言わないで下さいよ~」
パタは殺意丸出しで近づいてくる。話し合う気はないようだ。
なら殺られる前に攻撃するまでだ。
両手を前に差し出すとそこに茶色い壷が作られる。壷の中から鰐が現れパタ向かって空中を進んでいく。
トーンの能力は【水】の〘鰐壷〙。壷から鰐を繰り出して攻撃する。
鰐がパタ向かって進む。大きく開けられた口。力強い顎で噛み砕こうと獲物に襲いかかる。
パタは素早い鉤爪捌きで鰐を切り裂いてゆく。
切り裂かれた鰐は毒が回って塵となって消えていく。鰐の攻撃をパタの鉤爪捌きが上回っていた。
もう一人の男は氷の槍で鰐を刺して消していった。
「抵抗しちゃ駄目じゃない。あたしゃ、あんたの上司。上司の命令は絶対だ。静かに殺されるのは上司命令だからねぇ」
「おいおい、オレは単なる客だぜ。お客は神様だろ? そんな神様に手を出してただで済むと思うのか?」
鰐は敵を噛み砕くことなく消えていく。
「神様って……。あんたは人間でしょ? もしかして厨二病なの?」
「うるせぇ。そんなんただの比喩だ。オマエはただの社員で、オレは客。客が偉いのは当たり前だろ?」
鰐がパタを避けて進んだ。危機を与えていないのでその鰐は攻撃されなかった。
トーンが走り出す。
「上司命令が絶対。客が偉い。そんなの誰が決めた? この言葉知らないのか?」
鰐の尻尾を掴んで回る。そして振り回した鰐がパタを狙って進む。
パタは飛んでくる鰐を対処するのに必死でトーンの回す鰐には対処できなかった。
重い一撃がかかる。
ビシビシと骨が痛む音が鳴った。
「「人は生まれながらにして平等」って」
パタは壁に叩き飛ばされた。壁への衝突が体に重い負荷をかける。蓄積された疲労と重なって動けなくなっていた。
残るは付随してきた男だけだ。
「おいおいおい。オレはお客だぜ。手を出していいのか?」
「お客お客ってこの会社に何かしたのか?」
「あぁ? 半年に一回はここの商品買ってやってるんだよ」
「まさか、それだけなのか……」
「そうだよ。オマエは単なる社員だから客を敬うのは当たり前だよなぁ?」
大量に繰り出される鰐。対処が段々と遅くなっていく。
正面で進む鰐の対処に遅れている。
「あんたは単なるイキリクレーマーだ。良かったね、日本に生まれて。日本じゃなければあんたの価値なんて……」
鰐が鋭い回転を加えて進む。
「チップ以下だ────」
男の腹に捻れ進む鰐。
「もっと追加金を払った方がいい。クレーム言いたいなら見合った対価を払ってから言いなよ」
男は後ろの方へと飛ばされていった。
抉られた腹から疲弊が体に流れ込む。立つこともできず地面に蹲っていた。
人の歩く音が聞こえる。
また来た。騒がしさを聞いてやってきたのだろう。
「パタも助けに来た顧客もやられたのですね。情けない」
廊下を歩く男性。会社側の人間だ。
油断はできない。
「私は三枝龘です。上からの命令通り半殺しにさせて貰いますよ」
ズカズカと近づいてくる。
まだ攻撃はしてこない。ならばこっちから攻撃するまで。壷から出る鰐が彼を襲う。しかし、ダメージはないように思えた。
拳で鰐を殴り、消し去る。
こいつ、強い────
そう感じた。だから、本気の攻撃を繰り出す。
巨大な鰐。強い顎と鋭い牙は岩をも噛み砕く。その鰐は腕目掛けて進んでいく。そのまま腕を噛みちぎろうとする。
歯の破片が飛び散る。鰐の牙の方が砕けたのである。
「人間じゃないのか?」
今度は毒を含んだ鰐で噛み付く。しかし、彼には効いていないようだ。
勝ち目はないように感じた。
写真はある。この情報さえ持ち帰れば会社との交換材料にも異災警察の逮捕根拠にもなる。ここは逃げれば勝ちだった。
踵を返して逃げ出す。
彼はのんびりと歩を進めるので逃げられる。
廊下の中を走っていく。その進路先に待ち構えていた男性が一人。その人物は何と……
もう一人のタイトだった────
二人目のタイト。来た道を戻ろうと振り返るとそこには瓜二つのタイトが。
トーンは動くことすらできなかった。
*
朝日を浴びながら外の風に当たる。
ミドリとダイは溜まり場にいた。そこに何人かの従業員もいた。
ミドリは頭を下げる。
「昨日はごめんなさい。私みんなの気持ちも考えないで気分を害することを言ってしまって……」
横から「気にすんな」という声が飛んできた。その言葉がミドリの心を少し軽くしていた。
唐突に緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響く。休んだ心に緊張が襲う。
サイレンがなり終えた頃にアナウンスが鳴り響く。
「全従業員に連絡です。今日は休業とします」
溜まり場にいたみんなは何故だろうと首を捻っていた。
アナウンスは続く。
「佐伯 大吾改めて木更津 大様、福嶋 緑改めてミドリ・フローラ様」
佐伯大吾、福嶋緑は大と緑がここに潜入するために使っていた偽名である。
「お連れの赤井 富雄改めて焔 トーン様を引き取ってます。詳しくは第十二広場へと足を運んで下さい」
赤井富雄はトーンの使った偽名だ。
そして、アナウンスは第十二広場へと向かわせようとしている。
トーンに何かあったのだろう。今もここにいない。何か胸騒ぎがする。
近くの従業員に道案内を頼んでそこへと向かった。
例の場所には女性職員が待っていた。
「良くぞ来ました。ダイ様。ミドリ様」
その声はアナウンスで聞いた声と全く同じだった。
彼女は淡々と話を始めていく。
「二人には社長直々から社長室へ向かうように申し付けられています。そこから会社の中へとお入り下さい。一度お入りになられたら出られなくなりますのでご注意下さい」
胡散臭い話だ。罠に違いない。
断ろうと頭を過ぎったが次の言葉で無駄に終わった。
「行かないこともできますが、その時は人質の命がかかっておりますのでよくお考えになられて下さいね。私はこれで失礼致します」
彼女はその場から去っていった。
二人はただ呆然と立ち尽くしていた。
「これは罠ですね」
「ああ。だけど、トーンが人質に取られてるせいで受けて立つしかねぇ」
もう答えは決まっていた。
もちろん、社長室へ向かう────
明日まで待てば外から仲間がやってくるがそれを待っていればトーンの命がない。
後ろにいた従業員が訊ねた。
「何が起きたんだい? さっぱり分からなかった」
「簡単に言えば喧嘩を売られた。これは罠だ。今から虎眼との戦闘になるかもしれない」
男はおどけて止める素振りを見せた。
「やめた方がいい。虎眼は最強の男を雇ってるんだ」
その声は震えていた。
「最強の男とは誰ですか?」
「そいつの名はタイト。裏で行われている殺し合いの大会で毎回優勝を奪い取っていく男だ。裏社会で知らない奴はいねぇ。ワシが裏社会にいた時は何度耳にしたことか……」
この人、裏社会にいた?
そんなことは今はいいとして、殺し合いの大会で優勝を奪い取っていく。多分、人間の常識を凌駕しているのだろう。でなければ死んでいるか重症になっているだろう。逆に、その大会がしょうもないレベルの可能性もあるが。
「人質に取られてるんだ。行くしかないだろ」
ダイは歩いていく。ミドリもそれに続く。
二人に向かって話しかける従業員の一人煬良。
「すみません。何かあなたたちの力になれることはないですか?」
ダイは首だけを回して口を開いた。
そして、裏口から会社の中へと入っていく。
人物紹介
『パタ』①
身長:152cm
性別:女
年齢:68
髪色:紫と白髪
所属:虎眼株式会社重役
趣味:編み物
特技:針の穴への糸通し
特徴:腰の折れかけた老婆。黒色の鉤爪が印象的。
信念:権力に縋りつく
いし:アパタイト (優しい誘惑)
次回は2時間後




