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12、イデオロギー

トーン「『前回のあらすじ』だっ」



ダイ「ついに虎眼に潜入した。その正体は壁の中に従業員を拉致し、作業効率、給料の不正をする悪質な会社だった」


トーン「今日ドラゴン○○の発売日だ。ちょっと買いに行きまーす」トコトコトコ


しかしトーンは外に出ることは出来なかった。


トーン「うわぁ、ゲームが買えないよぉ」


ダイ「馬鹿なのか。ここから簡単に出れたら拉致じゃねぇよ」



~12、イデオロギー~

 黒と茶色の混じった砂を踏みつけ歩く。

 潜入開始から五日目。最初の三日は研修で終わり、昨日は一日の業務を確認し、今日は壁の向こうへ行けない事実を知った。

 仕事が終わり寮に戻る代わりに外の溜まり場に来ていた。

 夕日にうたれながら積まれた鉄鋼に腰をかけるトーン。鉄鋼にもたれかかるダイ。他にも十名程度の従業員がいた。

「来たか。ミドリ」

 鉄鋼から背中を離す。鉄と鉄が小さく擦れて音がなった。

 早速本題へと入っていく。

「この会社は黒よりのグレーだな」

 グレーゾーン。違法かどうかは分からない。だからこそ、下手に手は出せなかった。

 しかし、この会社はクロの可能性が高いように見られる。

 拉致、不当な給与。実際の体験と従業員からの話でこの問題が浮き彫りとなっていく。

「あんたら異災警察だろ。早く社長を捕まえてくれよ。俺はここから出たいんだよ」

「まだ無理だ。今はその時ではない」

 ダイは話しながら一人の従業員を連れてきた。青色の従業服を着た真面目そうな見た目だ。顔の(しわ)が少し目立っている。

「まずは事情聴取のために従業員に話を聞く。彼が一番の古株だ。ここのことも知り尽くしている」

「いえいえ、そんなに誇張(こちょう)しないで下さい」

 彼は鉄骨に腰を下ろして口を開き始めた。

「それでは話します。虎眼(ここ)の実情について。この会社は新入社員に対して決まって、三日間研修させ有無を言わせず寮に入らせるのです。まあ、元々募集要項や面接の時点で家から離れて居座れることは聞かれてたんですけどね」

 直接会って安否を確認しなければ不安になる。その不安から会社を捜索されては秘密がバレてしまい困る。だからこそ、不安になるような親族や友人などがいられてはならない。

 また、強制的に寮へ入って貰う必要がある。自宅出勤などは困るのである。

 虎眼は書類と面接、さらに度重なる面会でふるいにかける。そして、合格した者を閉じ込めるのだ。

 もちろん、封じ込めて終わりではない。

「ここの状況を伝えることは許されない。一応、知り合いには手紙を送れるが全て検閲されて思うようには書けない。大切な人へ本当の思いは伝えられないんだ。それに、連絡する機械は与えられない」

 彼らに手紙をかかせ安否を知らせる。ただし、虎眼の検閲が待っている。

 ここから外へと情報は発信されない。連絡する手段は手紙しか与えられず、その手紙は事実を明白にすることはできない。

「この壁から出ようとしても出られない。壁に近づくと謎の力が働いて跳ね返される。それに出られても外には門番がいる」

 提供される食事や水分が人々の体に知らず知らずの内に磁砂鉄を溜めていた。その行為を断ることは人間の本能が許していなかった。

 壁に設置された磁力。体に含んだ磁砂鉄が反応し反発し合う。壁に触れることなく飛ばされてしまう。もう壁の外へは出られない。

「三食住居付きだが、その提供分を違法な値段で給料から天引きしている。休憩や休日の良さは他社に劣らないが、ここから出られないから心のゆとりに繋がるとは限らない」

 自由を与えられているようで実は与えられていなかった。広いカゴの中で自由を与えるが、カゴの外へは出られない。連絡手段となるスマートフォンは所持できず、遊びとしての遊園地は提供されず。自由を与えていると見せかけただけ。

「こんな生活が嫌だと反乱やストライキを起こすと虎眼の警備員を派遣して地下牢に閉じ込めるんだ。理由がなければ捕まらないが、捕まってしまえばそこは地獄だよ。私も一度ストライキをして捕まったが、地下牢は暗くて狭くて寂しくて辛かったよ。暴力とかはされなかったが、その牢からは出してくれなかったから体が辛かったよ。それに、食事も不味かったしね」

 反乱すれば地下牢に収容されるらしい。単純に閉じ込められるだけ。しかし、さらに狭いカゴは肉体を少しずつ蝕んでいく。精神をすり減らす。

「ストライキだったから一週間で出されたのが救いだった。これがもし暴力沙汰(ざた)の反乱なら一ヶ月は閉じ込められていたよ。アドバイスをするけど、ここではセクハラとかパワハラとかの不祥事(ふしょうじ)を起こしたり怪我を負わせたりしても捕まるから、言動には常に気を付けた方がいい」

 なるほど。会社への反乱の他に、人々の不祥事言動を許さない体制ができているのか。

 ミドリは話に横入りして質問した。

「誰か殺されたり暴力を受けたりした人はいますか?」

「いや、聞かないな。多分、他殺を嫌ってると思うからここはそんな行為をしないと思う。他殺が起きると捜査が入るからね。皆自然死になることを求めているはずだ。だからか、従業員の不祥事や争いごとが絶対に許さない体制がひかれているよ」

 争いごとが許さない体制がひかれているよ────

 その言葉を何度も頭の中で反芻させる。とても良い響きに聞こえた。


 戦争、人の殺し合いが起きない社会。

 悪が影で得することのない社会。

 人は生まれながらにして愚かだ。愚かな人々を抑える社会の秩序。今の状態では不十分だと感じていた。いつでも暴力沙汰が起きる可能性がある。

 人の視線が届きにくい裏の社会で違法なことに手を染め、何の罪のない人が傷つく。そんなことが今もどこかで起きている。

 必要なのは監視社会。

 誰も死ぬ事の無い悪が悪事を働けない平和な世界こそが至高。

 そんな社会が目の前には広がっていた。

 壁の中に築かれた争いが起きず悪事も働けない社会。虎眼はその社会を造り上げていたのだ。

 こんな社会だったら、私の親は戦争に巻き込まれず死なずに済んだのに。

 思わず本心が溢れていた。


「いいじゃないですか。壁の中(ここ)は最高です。ここなら戦争なんて起きない。(しっか)りと衣食住はありますし、不当な殺害もない。まさに平和な場所だと思いませんか」


 周りが無音になる。

 辛辣な視線を送る周りの人々。仲間であるダイは(まぶた)で目を隠し、トーンは周りの従業員と同じ目をする。

 無数の視線が痛い。

 穏やかな表情から一変して険しい表情を見せてきた。一部は睨んでもいる。

「あんたは何も分かってはくれん。私達はあんたを味方とは思えん。こっから出てけ! 近くに来ないでくれ!」

 出てけ!

 その声は増していく。

 思わない所で批判された。突然背中を押されて感じがした。

 ここには私の居場所がない。その雰囲気が足を動かしていた。仕事中なのにその場所から逃げてしまった。

 そこから少し離れた場所で一人空を見上げていた。落ちていく夕日は何とも言えない美しさだ。



 ミドリが走ってどこかへ行ってしまった。

 それを追いかけるトーンと一人の女性。残された人は重い空気の中、その後ろ姿を眺めていた。

 鉄骨に座っている男が質問した。

「警察! あんたはこの会社をどう考える?」

 ダイは声色変えずに答えていった。

「何とも。彼女とは違って俺は逮捕が必要なら逮捕するだけ。ただ任務にしか目を向けてない」

 彼は体に溜まった緊張の空気を吐き出した。

「まあ、あんたは味方に思えるな。お願いだ。私達の英雄(ヒーロー)になってくれ」

 黒と茶色の砂が風で飛び散る。

 その風の中、ダイは彼を見た。

「はー。俺はヒーローになんてなる気はねぇわ」

「どういうことだ? 虎眼の社長は逮捕しないのか?」

「それとこれとは別だ。ヒーローってのは大衆向けの正義だが、俺ら警察は違う。お前らの正義に合わせる気なんてない」

 ダイは続けた。

「俺らは単なる()()()()だ。政府の掲げる正義を実行していくだけだ」

 そして、この場の会話に終止符を打っていた。

 誰も話さない無音の中、砂の舞う音だけが響いていた。



*



 息を切らした従業員。

 彼女は何度も話しかけてくるが耳には残らなかった。


 規律通りの生活を送れば身の回りの平和は守られる。確りと自由の時間も平穏な場所も用意されている。ただただ規律を守り続ければいいだけだ。

 規則正しく生きるミドリにとって箱の中の自由など苦には思えなかった。

 ルールさえ守れば平穏。それはまさに、ミドリの目指していた警察としての信念と何ら変わりなかったように思える。

 一度見た煌びやかな世界が脳裏に焼き付いて離れない。


 説得を試みる女性。しかし、肥やした目は彼女の問う世界など目には入らなかった。


 遅れてトーンもやって来た。

 息は切らしてない。全力を出してやってきたのではなくマイペースなスピードで走ってきたのだろう。

「あんた、変わらないよな。みんながみんな規則正しく生きていけば平和で幸せだと思ってるんだろ?」

 間違いではない。

 ただ、少し修正するならば全員が全員幸せになるとは思っていない。さっき見た従業員達を見れば分かる。満たされてないことは。

 それでも平和と幸せを天秤(てんびん)にかけると答えはもう決まってしまう。平和ではない世界が生み出す悲劇が生まれなければいい。それと比べれば幸せなどちっぽけな存在だ。

 規則正しく生きればいい。そうすれば平穏な暮らしが手に入る。幸せはその中で作ればいい。

「皆が皆規則正しく生きていけるとは思うなよ。ヒデを考えてみろ。一日で破ってくぞ」

 ヒデの姿を想像する。与えられたスケジュール。その通りには動かない。時間を厳守せず、仕事はサボって他人の所に行き、ルールに囚われない行動をしていく。

 しかし、この社会には……

「強い罰則がある。破らせない」

「ルールに添えない奴は罰則か。どこぞの全体主義かよ」

 周りの静けさが二人の激突を反響させる。

 それが緊張を生み出し静かにさせていく。

「それにこの社会、平和が続くとは思えない。もし平和を揺るがすようなトラブルが起きたらどうするんだ?」

「なら事前に対処すればいい」

「平和を揺るがすトラブルなんか未知数だ。現実的な推測を軽々しく越えてくる。準備なんか無駄だ」

「それなら、すぐさまそのトラブルを解決すればいい。ルールに則りながら対応すればいいだけのこと」

 トーンは持っていた手帳を床に投げ捨てた。

 怒り任せに投げられた手帳の中に茶色と黒の砂が入り込んでいく。彼は怒りを構築していたようだ。

「そういうところが嫌いなんだっ!」

 静けさが二人の口を閉じさせた。重くて唇は開けられない。


 トーンの脳裏には一人の女性が。

 赤色の髪が特徴的だった。今は仏壇に飾られた写真でしか見なくなった。

「あんたの事は聞いてる。アカ(ねえ)が殺されそうな時も異災警察のルールを守っていたんだってな。ルールを破ってまでして助けに行ってたら救えられた命なのに」

 ミドリは黙りこんでいた。


 トーンは三人姉弟(しまい)の一番下だ。弟のトーン、上に次女、そして長女のアカナ。仲つむまじい。仲良い家族だった。

 アカナは異災警察に所属していた。

 異災警察五期生。見せてもらった記念写真を思い出す。そこに映る五人。ダイ、オパル、黒羽、イエロー、そしてアカナ。写真の中のアカナは楽しそうに笑っていた。

 司令部として仲間達の戦闘をサポートする姿は当時のトーンにカッコイイと思わせていた。それと同時に異災警察への憧れを与えていた。

 しかし、あの事件が起きた。

 朽ちた建物に入っていく異災警察。そこで待ち伏せていた悪の集団。その集団と異災警察は一戦を交えた。

 手が離せない戦闘が続く。

 戦闘は中盤から終盤に差し掛かる頃、新たな刺客が現れた。アワルをリーダーとする彼らは異災警察の居場所を分断させた。アカナとそれ以外。アカナ一人だけが取り残されてしまったのだ。

 そして、アカナは誰にも助けられずに敵の一人に殺害された。

 誰かが助けに行けば救えたかも知れない命。しかし、異災警察は誰も助けに行かなかった。

 手が離せない人もいたのは確か。ただ、ミドリは手が空いていた。彼女なら助けに行けた。

 何故助けに行かなかったのか。

 それは明白にルールを破るから。

 異災警察に入りたてのミドリは世でいう研修生。新入りとして課されたルールを守ることはしなかったのだ。チーム一眼となって戦闘するというルールを。

 その事実をコラールから聞かされた時は、目を瞑った。まだ彼女は新入りだから仕方ない……と。


 今は違う。

 あの事件から大体二年も経っている。もう初心とは違うのだ。

 今のミドリならあの時と変わらない選択を取るだろう。そういうルールに縛られた考えは────嫌いだ。


「一つ聞かせてくれ。ルールを守ることと誰かを救うことどっちが大事なんだ?」

 冷静になった口調。冷たく響いた。

 ミドリは何も言えずに黙っていた。

 ルールは守るべき。しかし、誰かを救うことも捨てられない。

「ルールを守り続ければ平和? 平和なんて続かない。トラブルは起きる。その時にもルールを守ってたら誰かが悲しい思いをする。ルールでは守れないものがある」

 ミドリの考えは真っ直ぐ伸びていた。その意見を真っ向から反対する意見は軽々しく退けていった。しかし、トーンの意見はその直線を斜めから入ってきた。思わない方向からの反論にミドリの考えはポッキリと折れかけていた。

 ミドリの堅い意志はもう崩れかけていた。

「それにさ、皆が皆ルールを守れる訳じゃない。ルールを守っていることが辛い奴だっている」

 もうミドリは意志を通す力を失っていた。

「もういい加減気づけよ。この社会で誰かが苦しんでいることに」

 何も言い返すことはない。

 眺めている世界が変わった気がした。

 幻想的に見えていた世界が突然現実的な姿に変わる。茶色と真っ黒な砂がこの社会の現状を生々しく伝えていた。


 ミドリはトーンを見た。

「一理あるかもね……」

 戦争のない平和な社会のために監視社会が必要。さっきまでそう思っていた。

 監視社会に出会った。けど、そこで問題点に直撃した。

 異災警察としての信念が揺らぎ、今までの自分が、意義が消失していく。

 ただ信念を失っても自分自身を見失う程(やわ)くはない。

 考え直そう────

 私が異災警察で任務をこなす理由。この任務を終わらしてまた考え直せばいい。今はただ目の前の壁を越えるだけだ。

「分かったわ……」

 自分に言い聞かせる。

 必死に追いかけてきた従業員を見た。

「ごめんなさいね。見苦しい所を見せてしまって。お手数ですけどもう一度この会社の闇について教えてくれませんか……」

 信念が視野を狭めていた。信念が崩れたことによって、従業員の話す内容は最初に聞いた姿とは違ったように見えていった。

 私は執拗(しつよう)に信念に囚われていたのだと気づいた。

 落ちていく夕暮れが三人を映していた。



*



 無音の溜まり場に登場した一人の老婆。

 顔の皺が目につく。少し高価そうな服装。手に付けている黒く(てら)鉤爪(かぎつめ)

 その姿を見ただけで従業員は怯えていた。

「あんたら何やってんだい?」

 虎眼の重役であるパタは鋭い爪をダイに向けた。

「あんた、異災警察だってねぇ。すまないけど死んで貰うよ」

 爪から滴りゆく紫色の液体。見た感じから毒だった。

 近くにいた従業員から助言が飛ぶ。

「あの人は社会に近い社員パタだ。爪から出る毒に気をつけて。全てを溶かす毒だよ」

 毒が周りに恐怖を与えていた。

 一人を除いて。

 ダイは魔の手を繰り出してパタの顔を掴んだ。抵抗して毒の混ざる爪を魔の手に刺しても何ともならなかった。

「荒くて失礼。あ、魔の手は無敵だから毒は効かねぇ」

 会社のイメージはグレーから黒へと変わった。

 もう逮捕の計画がある会社に対して下手な行動をする必要もない。そのため秘密を隠す気もなかった。そもそも、もう正体はバレている。

 パタは動けずにいた。

 諦めたのか抵抗をやめる。

 と、次に付けていたカプセルを手に持ってダイの付近へと投げ捨てた。

 カプセルが地面に当たり、破れる。

 中から異形の存在が現れた。思わず魔の手をしまっていた。

 形を留めていない真っ黒い存在。紛れもなく『悪魔の肉片』であった。

「まさかこんな所に野生の肉片がっ!」

 パタはそう言って本部へと逃げていく。

 野生の『悪魔の肉片』。悪魔の肉片は時々地面をすり抜ける力を持つ個体がある。誰かによって生み出された肉片が地面を通り、どこか遠い地に姿を現す。それが野生の悪魔の肉片だ。

 これは違う。パタの投げたカプセルから現れた。

「あからさまに野生じゃないだろ」

 人の三倍以上の大きさ。開いた口が炎をまとっていた。

 この会社はグレーよりの黒に感じていたが、今ので完全なる黒という確信を持った。


「ったく、黒に黒を重ねて真っ黒じゃねぇか」

キャラ紹介

〘サタン〙②


能力:プラズマの玉

属性:雷

武器:────

戦闘:手を合わせると手のひらの間にプラズマを発生させて、火の玉をその場に繰り出す。その火の玉は長時間そこに滞在する。

災害:電線

秘話:元々は最後のボスだった。ただ、物語を創る中で設定上だけ残したキャラ。物語では出ない可能性が高い。出ても少しの出番だけ。


次は18:00

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