神様への願い
私は恐る恐る目を開ける。
目の前には見慣れた花崎倉庫の壁があるだけ。地面に目を向けると、そこには私が必死になって完成させた魔術式がそっくりそのまま残されていた。
私は慌てて、魔術式の確認を行った。
どこかが間違っていたのか?
計算ミスとか、スペルミスがあったのかもしれない。私は祈るような気持ちで自分の書いた魔術式を読む。単純な間違いを自分が見落としていたことを期待して。
しかし、魔術式を何度読み返しても、間違いは見つからなかった。私は苛立ちのあまり、隣に置いていたスーツケースを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたスーツケースが魔術式の外へ転がっていった。
私は頭を両手で抱えながら、ふらふらとその場を離れ、倉庫の壁にもたれかかる。
失敗。私の頭にその言葉が浮かび上がる。ショックのあまり、私はその言葉の意味が一瞬わからなかった。
失敗。それも一番最初の段階での失敗。
私はただぼんやりと目の前に広がる、私の六年間の努力の結晶を眺めた。涙を流すこともできず、私はただただ自分の浅はかさを呪うことしかできなかった。
もしかしたら心のどこかで気が付いていたのかもしれない。ただそれから目を背け続けていただけで。私はふとそんなことを考える。
私だって本当はわかっていたはずだ。たとえ現代魔術が発展しているとしても、さし合わせたように『物質移転』魔術の飛躍的進歩が起きたとしても、私がカンパニーの記録を塗り替えるほどの神童だったとしても。二十才にもならない少女が、単独で魔術の三大悲願の一つを実現させることなど夢物語に過ぎないということを。
私はただ救いを求めていただけなのだろう。兄貴が死んだあと、その事実を認めたくないという一心から。私がやってきたことは、ただ事実を強引に捻じ曲げ、自分の都合の良いように物事を捉えてきただけなのだ。
きっとうまくいく。それだけを信じて。
「それでも……」
それでも、私のこの六年間は間違っていたのだろうか。たとえ独りよがりの努力だったとしても、それだけですべてを否定されなければならないのだろうか。
兄貴を助けたい。どれだけゆがんでいるとしても、どれだけ見苦しいとしても、その気持ちは私の本当の気持ちなんだ。
私は唇をかみしめる。
もし神様というものが存在するのなら。もし神様がそこにいるのなら。ちっぽけで無力な少女の願いを聞いてほしい。
「私は……兄貴を助けたい……!!」
その瞬間、私の視界が突然明るくなった。あまりのまぶしさに私は思わず目を閉じてしまう。
ゆっくりと目を開けると、魔術式全体が白く輝いているのがわかった。いったいなぜ、どういう理由で? このような現象は見たことも聞いたこともない。そしてそれが何を意味しているのかさえ理解できない。
しかし、そんなこと私にはどうでもよかった。
私はすぐさま立ち上がり、誰かに背中を押されるかのようにしてその光の中へ飛び込んでいった。




