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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
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えくぼ

 カンパニーのカリキュラムを終え、魔術師として独立した今。この計画を実行に移す時がやってきたのだ。


 私は計画実行の拠点を、私にとってなじみ深い、花崎倉庫に設置した。花崎倉庫は私が小学生だったころの秘密基地だ。幸運なことにいまだ取り壊されておらず、人に見つかることはない。そしてなによりも、魔術式を書ききるだけの十分なスペースがあった。

 複雑な魔術式はその分だけ、長く、そして入り組んだ文字式を要求する。例えば、人を一人、一メートルだけ移動させるような『物質移転』の魔術式の場合、それを書くためには六畳ほどのスペースが必要だ。私がこれから取り掛かる魔術式はそれよりはるかに複雑で入り組んでいる。だからこそ、十分に広いスペースが必要だ。それこそ、この花崎倉庫の床いっぱいに文字式を書く必要があるくらいに。

 私がこれから書く魔術式。それは『時空跳躍』の魔術式だ。名前の通り、タイムリープをするための魔術式。

 イメージトレーニングは十分した。推敲に推敲を重ねた。大丈夫。きっとうまくいく。私は自分にそう言い聞かせながら、花崎倉庫の隅に、最初の一文字をチョークで書き記した。



 それから数か月間。私は日中はずっと花崎倉庫にこもり作業に明け暮れた。文字を書き、チェックし、計算を繰り返す。それの繰り返し。しかし、やめてしまいたいと思うことは一度もなかった。それはきっと、私が魔術式を書き進めるたびに、兄貴に近づくことを実感できたからだろう。


 そしてこの作業の間、私はできる限り知り合いとの接触を断つことにした。魔術師候補生としてカンパニーに入社してからというもの、由香ちゃんや葵ちゃんといった昔なじみとは顔を合わせていない。私自身が町を離れたのもあるが、それに加えて自分から避けていたということもある。親父から聞いた話では、由香ちゃんは外の大学に進学が決まって町を離れ、一方の葵ちゃんはそのまま町の中学高校に進学したらしい。ほのかちゃんはというと、兄貴の葬式で会って以来音沙汰がない。


 寂しいと言えばうそになるが、それでも自分が決めたことなのだ。今はただ自分の目的だけに集中していたい。いや、彼女たちに会い、そして優しくされてしまった場合に、自分の決心が揺らいでしまうことを心のどこかで恐れていたのかもしれない。


 それでもやはり町は狭い。


 私が気分転換を兼ねて、町へ繰り出したとき、突然後ろから声をかけられた。私がおずおずと振り返ると、そこには驚きの表情を浮かべた葵ちゃんが立っていた。


「あずさちゃん……だよね」


 久しぶりに再会した親友の第一声はそのような言葉だった。

 そのまま私たちは近くの店に入り、互いの近況を報告しあったり、昔みたいにはしゃぎあった。自分が魔術師になったなんてことは言えないにしても、今まで内に秘めていた色々なことを吐き出すことができたのかもしれない。私は時間を忘れ、葵ちゃんとの時間を楽しむことができた。

 別れ際、葵ちゃんは嬉しそうに私にこう話しかけた。


「最初見た時は、正直自信がなかったんだよね。今のあずさちゃん、昔と比べて随分変わってたから。なんていうか……大人びたっていうのかな? でも、今日久しぶりに話してみて、やっぱりあずさちゃんはあずさちゃんのままなんだって確認できて安心したなぁ」


 どうして? と私が尋ねると、葵ちゃんは笑顔を浮かべながら自分の頬を指さした。


「えくぼだよ。笑った時に浮き出るえくぼ。これだけは小学生のころから全然変わっていないんだもん」

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