私の目的
私の目的。
つまり、私がこの五年間必死になって勉強した理由、そして時間を自由に使えるポジションを望んだ理由。
それは他ならぬ、兄貴のためだった。
魔術師候補生として勉強を始めた当初、私は兄貴の部屋に残された神力について密かに調べていた。あらゆる不可能を可能にする力。私はその力を使い、兄貴を生き返らせることができないかということを考えたのだ。
しかし、師匠を始めカンパニーにいる他の魔術師たちにとって、その存在そのものは知っているものの、そんなもの単なるおとぎ話に過ぎなかった。そして、頼みの綱であった本の著者『H.ヴァイデ』についても、その正体をつかむことができなかった。いくら探しても見つからない以上、ペンネームなのだろう。もしかしたらこの本も悪ふざけによって書かれたものなのかもしれない。そして壁にぶつかった私はおのずとある疑念に苛まれる。神力そのものも存在しないのではないのか。
しかし、それは違った。
というのも、私が魔術を勉強すればするほど、本の中身が悪ふざけでは収まらないほどの高度で、そして説得力のあるものだということが分かったのだ。私はその本を繰り返し読み、そのたびに神力の存在について確信させられた。神力は存在する。それがわかった瞬間私の視界が大きく開けたような気さえした。それ以降私は自分の力で神力を探し出す努力をし始めた。ただ兄貴を助けたいという一心から。
しかしその一方で、私は神力とは別の異なる方法によって兄貴を助けることを考え付いていた。
神力によって実現できる一例として挙げられていた、魔術の三大悲願。その中の一つ、タイムリープ。何気なしにその魔術について調べ始めた時、突然この魔術を実現するための魔術式の外形が頭に浮かんできたのだ。これこそ一瞬のひらめきというものなのかもしれない。私は自分のうぬぼれを理解しつつ、それを試しに紙に書き起こしてみた。もちろん細部がボロボロで基礎さえなっていない。それでも私はそれを眺めた時、直感的にそれが可能だと考えたのだ。
兄貴を助ける方法は簡単だ。私が過去に戻り、兄貴の未来を変えてしまえばいい。そのような恐ろしく単純な答えは私は心から魅了し、以後、私はその手段を本気で実現しようと思い始めたのだった。
私が成長するに伴い、私は親父から兄貴の死の詳細について聞かされた。正直、聞かなければよかったとさえ思えるほどに凄惨な死にざまだった。しかし、それを聞き、一つだけ理解したことがある。それは兄貴の死が自然死ではないということだ。
魔術の勉強を始めていた私にはわかる、兄貴の死には魔術が関係している。そして、そこには人為的な意図が透けて見える。それならば、過去に戻った私がその原因を取り除くことによってその死を避けることができるのではないか。
私がそのように考えてしまったのはきっと、その時ちょうど神力の研究が行き詰っていたからだったからだろう。神力の性質についての研究は進めたものの、肝心の居場所がわからない。わらにもすがる思い。その表現がしっくりくる。しかし、何はともあれその時点で重大な方針転換をすることになったのだ。
結論から言えば、その方針転換は大成功だった。
私はタイムリープの基礎となる『物質移転』の魔術がむしゃらに研究した。さらに、なんの偶然かはわからないが、ちょうど私が魔術師候補生として勉強に励んでいたその当時、魔術学会において前例のない、『物質移転』研究の飛躍的発展が起きたのだ。そして、パズルが組み合わさったみたいに偶然は重なる。なんとその飛躍的発展の中心にいたのは、あろうことか私の師匠、ワン・チェンだったのだ。
師匠は私が出会う以前には全く別の魔術を専門としていたらしい。しかし、なぜか突然五年前、ちょうど私と出会った頃から『物質移転』研究を始め、矢継ぎ早に画期的な論文を世に送り出すことになった。
師匠はそっち方面の才能があったということなのだろうか? それにどうして突然専門の変更を行ったのか?
以前興味本位で直接聞いたことがあるのだが、師匠は答えてくれなかった。まあ、いずれにせよこのような師匠の功績は、私の背中を押してくれた。私は企てを隠しながら師匠に食らいつき、最先端の『物質移転』研究をどん欲に吸収し続けた。
そして準備はすべて整った。




