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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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結末

 神力の遡及的効果とでも言おうか。

 たとえ封印がなされている状態であっても、神力に対してなされた願い事は保留状態に置かれる。その後神力の封印が解かれ、その瞬間において願い事が実現可能であった場合、並びにそれを実現するに足るだけの魔力量が存在する場合、神力は願い事を叶えてくれる。俺の中学時代の願い事が、数年経った後に実現したように。

 霧島神社の神力に備わる一つの特性であるのだが、牧場はそのことを知らない。だからこそ、俺はこの罠を仕掛けることができた。つい昨日、俺が霧島家に立ち寄った帰りに俺は神力にお願いしたのだ。どうか、牧場風太郎の魔力そのものを奪ってくださいと。つまり、封印が解かれた瞬間、まず最初に俺の願い事が実現する。そして牧場風太郎の魔力が消えてなくなり、以後どんなことがあろうと牧場は神力に願い事を叶えてもらうことはできなくなる。

 しかし、この作戦にも欠陥があった。それは俺が封印解除の前に死んでしまえば、願い事が実現しないということだ。牧場から霧島神社に来いと言われた時、俺は危険を冒してまでここへ来るべきではなかったのかもしれない。しかし、これはあくまで最後の防衛手段なのだ。俺の願い事が叶えられるということはつまり、副作用による俺の死を意味している。だからこそ、俺はわずかな可能性に賭けて、牧場と対峙した。それにわざわざ俺を呼ぶからには、封印を解く瞬間を生きたままの俺に見せたいと牧場は思っているはず。そして、俺の予想は見事に的中した。牧場は俺を生かしたまま神力の封印を解き、結果として牧場の願い事の前に、俺の願い事が先に叶うことになったのだ。




 牧場が力なく、その場へ座り込むのが見えた。放心した顔でなにかをぶつぶつとつぶやいているが、俺には聞こえない。

 それをじっと見つめていると、突然身体全体に今まで経験したことのないような激痛が走った。


「――――――――ッ!!」


 思わず口から嗚咽がこぼれ出る。激痛は内臓全体をまんべんなく駆け抜け、それと呼応するかのように頭痛と耳鳴りが一層激しさを増していく。頭を金槌で何回も勝ち割られているかのような痛みと架橋下の轟音にさえ勝る音量の耳鳴りがいっぺんに襲い掛かってきた。神力の副作用が本格化してきたのだろう。俺は歯を食いしばって痛みに耐える。しかし、痛みは容赦なく、そして途切れることなく俺を苦しめる。

 痛い痛い痛い痛い! 動かないはずの身体が何か救いを求めるかのように痙攣を始め、次第に体全体が急速に熱を帯び始めてきた。熱は内側からどんどん上昇していき、まるで身体の中の水分が外へ蒸発していくような錯覚さえ覚え始めた。


「す、水前寺くんっ!?」


 突然境内に女性の叫び声が響き渡った。俺は痛みに支配されつつある頭の片隅で、その声の主が平島ほのかであることを理解する。思ってたよりずっと早くここに到着してくれたみたいだ。遠くから嵐田の声も聞こえてきた。方向感覚はすでに狂い始めていたが、耳鳴りに混じるかすかな足音を頼りに平島がいる方向へなんとか顔を向けることができた。

 顔を向けた先には、真っ青な顔に両手をあてた平島の姿があった。俺はうつぶせのまま顔を上半身を起こし、最後の力を振り絞って右手を伸ばした。


「あっ…………! あ…………!」


 俺は思わず戦慄してしまう。声が出ないのだ。声を出そうとしても、息が漏れるだけ。みっともない空気が抜けるような音だけしか発することができない。

 それでもなんとか言葉を発しようとしたその時、胃の奥から何かがこみあげてくる感覚に襲われ、俺はそのまま平島の目の前で嘔吐してしまう。顔のすぐ下に黄色い胃液がぶちまけられる。さらにその酸っぱい臭いをもろに嗅いでしまい、そのまま勢いよく咳き込んだ。のどの奥で刺すような痛みが走り、口から再び血が吐き出される。


「い、いや……」


 平島は目の前のおぞましい光景に身体を震わせ、後ずさりする。俺の右手は行くべき場所を見失い、俺の上半身とともにそのまま地面へと倒れこむ。その結果、俺は顔面から吐しゃ物の中に突っ込む形となり、鼻から強烈なにおいが入り込んできた。

 俺は痛みに身体をなぶられながら、何とか身体を仰向けにする。視界の隅で、嵐田らしき人物が牧場風太郎を地面にねじ伏せているのが見えた。俺は遠ざかる意識の中で、目の前に広がる空を眺める。そこには青空が開け、申し訳程度に薄雲が漂ういつもの風景があった。しかし、そんなことはお構いなく、身体は焼け付くように熱を帯び、視界は徐々に真っ暗な闇に浸食されていた。そして、まるで追い打ちをかけるかのように、耐え切れないほどの激痛が俺の身体全体を再び駆け巡った。


「――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」


 俺は空に向かい、声にならない悲痛な叫び声をあげた。

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