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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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神様はそこにいる

 牧場が最初に神力に願うこと。それはまさに予想通りのものだった。牧場らしい、合理的な内容だ。神力を独占するためには、神主である霧江さんを筆頭に、神力と関係のある人物、そして神力の存在を知っている人物を消し去ることが必要だ。俺が願い事の内容に含まれていないのは、これから直接殺すつもりだからなのだろう。

 牧場は俺の方へ振り返り、高らかに笑い始めた。


「あっはっはっは! これですべてが終わったんだ。今この瞬間、神力はこの牧場風太郎に独占されることになった。つまり、もう僕を止めることができる人間はいない。どうだい、水前寺くん!? 言葉を発することもできないのかな?」


 頭痛と耳鳴りはさらにひどさを増し、呼吸が苦しくなってきている。しかし、それでもなぜか頭はすっきりとしていた。俺は表情を変えないまま、じっと牧場を見つめる。冷静に、そして冷淡に。

 牧場も俺の様子をおかしく思ったのか、再び俺に近づいてきた。


「なんだい、その目は? いささか場違いじゃないのかい? それともいまいち状況を把握しきれていないとか?」


 牧場の言葉に俺は力なく微笑む。


「……いや、ちゃんと状況は理解できてる。その上で……言わせてもらう。霧江さんたちは死んでいない……。お前の願い事は……叶えられていない……」


 牧場は肩をすぼませ、嘲るように俺を見下ろした。


「はあ、ここに来た時から少し様子がおかしいと思ってたけど……。君は思っていたよりもずっとひどい状態なんだね。頭が働かないとはいえ、そんなうわごとを口にするなんてさ。願い事が叶えられないだって? 何の根拠があってそんなこと言うんだい? この僕の計算に狂いはないよ。どかした賽銭箱の下に呪印が現れたし、神力の封印が解かれたことは確実なんだ。まあ、でも。そこまで言うのなら確かめてあげようじゃないか」


 牧場は不敵に微笑むと、再び賽銭箱のもとに歩いて行き、そのままそこに硬貨を投げ入れた。硬貨が賽銭箱の中に入った音が聞こえた後、牧場は大声で願い事を口にした。


「似たような願い事で大変申し訳ないんだけど……。神力様、どうかそこにいる水前寺くんを今すぐ死なせちゃってください。今すぐにですよ」


 それだけ言い終えると牧場は俺の方へ振り向いた。俺は牧場と視線を合わせ、にやりと笑いかけた。俺はまだ死んでなんかいない。それを伝えるために。

 牧場も俺がまだ生きていることに対し、驚きの表情を浮かべる。そして唐突に右手の指の爪を噛みはじめ、ぶつぶつを独り言を唱え始めた。


「なぜ……? なぜ、水前寺愁斗がまだ生きてるんだ? 願い事の実現にタイムラグは存在しないはず。現に少女時代のミス霧江の時もそうだったじゃないか。ならばなぜ? 最初の願い事で、思った以上に魔力を消費してしまったからか? それなら……」


 牧場は慌ててポケットから小銭を取り出し、再び賽銭箱に放り入れた。そして、先ほどとは違い、きちんと手を叩いてしてから願い事を言う。


「神力様、僕のポケットにある財布を右方向に二メートルほど移動させてください」


 しかし、牧場の右方向に財布は現れない。牧場はそろりとポケットに手を突っ込み、中身を探る。牧場の身体が一瞬硬直したことから、ポケットの中にまだ財布が存在していることを察することができた。牧場の様子を見ていた俺は、思わず声に出して笑ってしまう。笑うたびに胸のあたりがきしむような音がし、鋭い痛みが身体を襲ったが、それでも笑いを止めることができなかった。

 牧場は怒りに身体を震わせながら俺をにらみつける。その顔はいつものひょうきんな態度からはかけ離れた、鬼のような形相だった。


「なにを……。何をしたんだい? 水前寺くん」


 俺は牧場に聞こえるように、可能な限り声を張って答える。


「さっきお前に言った、俺の最初の願い事……。あれはな、俺が中学生の時にした願い事なんだよ……」


 俺の言葉を理解できなかったのか、一瞬牧場は困惑の表情を浮かべる。しかし、その意味を察するやいなや、牧場の顔は一気に青ざめていった。牧場は両手で頭を押さえ、そのまま身体をふらつかせる。牧場はすぐそばの賽銭箱に寄り掛かり、小刻みに身体を震わせ始めた。


「そんな馬鹿な。ありえない……。そんなハチャメチャな力があっていいはずがない。嘘だ……。嘘だ!」


 無理もない。俺は心の中でつぶやく。神力を徹底的に研究し、かつあらゆる可能性を想定して動くことができる牧場でさえ思い至らなかったのだ。俺が牧場の立場にいたとしても、決してこのような可能性を考えることはなかっただろう。俺がこの事実を知ることができたのも、偶然によるものだと言わざる得ない。

 俺の視界が再びゆがみ始める。俺はそこで大きく咳き込み、信じられないくらい大量の血が口から吐き出された。ああ、もう終わりなんだな。そんな考えが頭をよぎる。それでも俺は力なく微笑みながら、残った力すべてを振り絞って牧場に言い放った。


「悪いことはできねぇよなぁ、牧場……。町の隅っこに隠されていても……厳重な封印がされていても……。いつだって……神様はそこにいる( 、、、、、、、、)んだぜ……」


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