入手方法
視界のゆがみはまだ治まらず、拳銃までの距離さえわからない。はってでも前方に進もうとしたが、思うように身体が動かなかった。後ろから牧場の足音が聞こえ始め、牧場が俺の横を通り過ぎていったことがわかる。そして足音は不意に消え、前の方から何かを地面から拾う音が聞こえてきた。どうやら牧場が拳銃を手にしたようだ。
俺は顔をあげ、牧場がいる方向を見る。視界のゆがみは先ほどよりは回復しており、ぼんやりと牧場が俺に拳銃を突き付けている姿が確認できた。
「まったく油断できたもんじゃないね。でもまあ、やっぱり僕の主人公気質っていうの? 結局最後は僕が勝つんだね。正直理由はよくわからないけど。いやぁ、なかなか楽しませてもらったよ。だけどさ、水前寺くん。正直言って、拳銃を奪ったところで君に勝機は本当にあったのかなぁ?」
そういうと牧場は空いている手の方を懐に突っ込み、何かを取り出した。俺は目を凝らし、それが拳銃だということを理解する。なるほど。スペアの拳銃を持っていたということか。
「拳銃ってね、訓練してないと意外に使いこなせないんだよ? 簡単にとはいえ組織で訓練を受けたことのある僕と高校生である君の撃ちあいじゃあ、結果は火を見るよりも明らかだよね。もちろん、拳銃が一丁しかなく、それを水前寺くんが持っているという状況だったら話は違うけど」
俺は力なく牧場を見つめる。確かに牧場の言う通りだった。ということは結局、最初から俺に勝ち目はなかったということなのか。
「じゃ、もたもたしてたら嵐田くんたちが来ちゃうかもしれないし、さっさと封印を解いちゃいますか」
牧場はそう言うと、拳銃を懐にしまい、霧島神社の本殿の方へ身体を向けた。
「……待て。一体どうやって、神力の封印を解くつもりなんだ……?」
俺はかすれるような声で牧場に尋ねる。すると、牧場は再び俺の方へ振り返り、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんごめん。すっかり忘れてたよ。方法は簡単さ。君たちがやったように、霧島家の血を体内に取り込み、霧島家の人間になる。これが僕のやり方。正直、他の方法は難しそうだったからねぇ。ま、派手じゃないけど、妥当な方法でしょ」
「それなら……。どうやって、誰の血を手に入れたんだ?」
「まあ、疑問に思っちゃうでしょうね。まず、誰の血かというところから説明しようか。消去法で考えれば、すぐに考え付くよ。この町にいる霧島家の人間を思い浮かべればいい。まず霧島霧江は無理だね。血を手に入れようとしたその瞬間に返り討ちにあっちゃうから。同じ理由で霧島由香も無理。もちろんミス霧江ほどではないけど、霧島霧江が僕を警戒して何か対策を取っている可能性が高いからね。わざわざ危ない橋を渡る必要はない」
牧場の言葉に俺は当惑する。霧江さんも駄目。由香も駄目。それだったら、誰から?
「おぉ、もしかして混乱してるのかい。できればもう少し焦らしたいところだけど、時間もないし答えを言っちゃうね。僕は霧島霧江から血を手にしました。ちなみにだけど、もうすでに体内に取り込んであります。これが答え。おわかりかな?」
「意味が分からない……。だって、霧江さんからは無理だって、さっきお前が言ったじゃないか……」
「違う違う。それは今存在している霧江さんのこと。ほら、もう一人いたじゃないか、霧島家の人間がさ。この町に」
その言葉とともに、俺の頭の中に様々な記憶が駆け巡る。
―――牧場の研究室にあった資料、データ、薬品。それにフラスコやら注射針やらビーカーやら、組織所有の実験用具まで盗んでいきやがった」
―――「ごめん。なんか立ちくらみが……。それになんか身体が妙にだるくて……」
―――「君たちと平島ほのか、そしてもう一人一緒にいた少女だよ。水前寺くんはこう呼んだよね? 霧江さんって。僕もその時は正直半信半疑だったけど、裏切り者赤川くんの話で確信に至った。君たちが一緒にいた少女は正真正銘の過去からやってきたミス霧江だってことがね」
そうか。そうだったのか。すべてを悟った俺は弱弱しい声でつぶやく。
「もう……血は手に入れてたんだな。二十年前の霧江さんから……」




