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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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決死の抵抗

 そう。俺の言葉が嘘である可能性は限りなく高い。俺も別に本気で牧場を騙せると思ったわけではない。しかし、俺の目的はそこではなかった。


「ほらぁ、水前寺くんもわざわざ痛い思いをする必要もないんだからさぁ」


 牧場との距離が少しずつ狭まっていく。

 もし俺の嘘を完全に見抜いていた場合、牧場はどうする? 俺が牧場だとしたら、何のためらいもなく銃の引き金を引くに違いない。

 しかし、牧場は今現在俺に近づいてきている。なぜか。それは牧場が仮に俺の言うことが本当だった場合を想定したうえで行動しているからだ。そして、これこそが俺の狙いだった。

 牧場は神力の研究者で、神力の知識に関してずば抜けている。しかし、だからこそ神力の不可解性についても牧場は痛いほど知っているはずだ。もし、様々な条件の下で霧江さんの制約を解く、あるいは緩めることができるとしたら? もし、霧江さんの言葉が最初から嘘だったら? きっと牧場は低い可能性だと認識していながらも、そのような疑念を頭の中に抱いているはずなんだ。そうじゃなければ、わざわざこうして俺に近づいてくるはずがない。

 牧場はおそらく拳銃で威嚇しながら、俺のお守りを奪うか叩き落とそうとしている。こうして俺が前にお守りを突き出している限り、それが可能だからだ。もしここで俺がお守りを懐にしまい、奪い取ることが難しくなった場合、牧場は拳銃で俺を撃ってくるかもしれない。無謀な挑戦をするくらいなら、高い可能性に賭ける方が合理的だから。

 しかし、牧場はあくまで一番安全で、確実だと思われる行動を取る。だからこそ、俺のお守りを不意打ちで奪い去ろうとするはずだ。その瞬間は必ずやってくる。そして隙が生まれるとしたら、その一瞬しかないのだ。この絶望的な状況で俺に勝機があるとすればそこしかない。

 その一瞬ですべてが決まる。その一瞬で俺と、そして牧場の運命が決まるのだ。俺は鼓動がどんどん早まっていくのを感じる。集中するんだ。その一瞬を逃してはいけない。

 牧場が近づいてくる。もう三メートルもない。

 そして、銃口が俺の目と鼻の先にまで近づききったその時、視界の隅で拳銃を握っていない方の牧場の手がピクリと動くのが見えた。


 今だ!


 その瞬間、俺は突き出していたお守りを牧場がいる方向へ放り投げた。

 お守りに集中していた牧場の身体が一瞬だけ止まった。それを見逃さず、俺は銃口から頭をずらす。そしてそれと同時につんざくような銃声が響き渡った。俺の頬に何かがかすった感触がした。俺は瞬時に弾丸が俺の頭に命中せずに済んだことを悟る。

 俺は身体にむち打ち、反射的に牧場の拳銃に向かって飛びかかる。俺の両手が牧場の拳銃をつかんだ。牧場が片手なのに対し、こっちは両手だ。神力の副作用で死にかけていはいたが、火事場のバカ力と言うにふさわしい力が腕にみなぎってきた。


 拳銃を奪い取れる!


直感的に俺がそう理解してその瞬間、突然俺が握っていた拳銃の姿が消えてしまった。


『物質移転』の魔術だ!

 牧場の後方に拳銃が突如として空中に現れるのが見えた。力を集中させていた対象を失い、俺は思わずバランスを崩してしまう。牧場はそれを見逃さず、俺の足に足蹴りをいれる。威力自体は弱くとも、それは俺を転ばせるのには十分の衝撃だった。

 しかし、俺は横に倒れこみながら、牧場の服をつかむ。牧場に拳銃を取られたら終わりだ! 牧場も俺の行動を予測していなかったのか、身体のバランスを崩し、俺と同じ方向へ身体をよろける。そのまま俺は牧場の服を思いっきり引っ張り、その力を利用して倒れこもうとする身体をなんとか押しとどめた。代わって牧場がどさりと地面に倒れこむ。俺はすぐさま牧場を飛び越え、拳銃へと駆け寄った。

 勝った! 俺は心の中で叫んだ。

 しかし、拳銃まで後少しというところまで近づいたその瞬間。俺の視界が何の前触れもなしにぐにゃりとゆがみ始めた。

 平衡感覚がめちゃくちゃになり、思わず俺の足がもつれる。必死に耐えようとするものの、その意志に逆らうかのように身体は前のめりに傾いていく。それでも、せめて拳銃だけは! 目に映るすべての境界があいまいとなりながらも、俺は拳銃があるはずの場所に右手を伸ばした。そして、身体が地面に倒れこんだその時、俺の右手は。














 むなしく宙を切り、そのまま情けない音とともに地面に落ちていった。

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