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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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牧場の策術

 ある程度の予感はしてはいたものの、俺はその声を聞くとともに頭の中が真っ白になった。返事が来ないことに耐えかねたのか、牧場が電話の向こう側から言葉をまくしたててくる。


「本当に会いたかったんだよ、本当に。最後にあったのはいつだっけ? 少女時代のミス霧江が帰った時かな? 僕が銀行強盗を企てた時は結局会うことができなかったからね。あ、そうそう。今思い出したけど、稲岡君を捕まえてくれてありがとうね。しかも、きちんと町の放火計画も止めてくれたんだから。もう水前寺くんには頭が上がらないよ。まったく、あんなむごい計画を立てるなんて稲岡君はまさしく極悪人だよねぇ」

「……何の用だ。何の用で電話を……?」


 俺は必死に自分を落ち着かせながら、なんとか声を絞り出した。


「いやぁ、実はね水前寺君に見てもらいたいんだ。この僕が霧島神社の神力を手に入れる瞬間をさ」


 牧場は笑いながら言った。あまりに明るい口調で牧場が話したからか、俺はその事態の深刻さについて一瞬理解が追い付かなかった。


「神力を手に入れるだって?」

「そう。もう準備はすべて整ったからね。後は忌々しい封印を解くだけなのさ。ぜひその瞬間を君にも見てもらいたいのさ。なんたって、水前寺くんとは深い絆で結ばれてるからさぁ。ま、水前寺くんには実質的に拒否権はないけどね」


 いったいどういうつもりで言っているのか。俺が尋ねると、牧場は嬉しそうに答えた。


「実は今僕は霧島神社にいるんだよ。つまりね、僕は今すぐにでも神力の封印を解くことができるってわけ。何せミス霧江も今は近くにいないことだし。何も僕を邪魔するものはない。だから君がここに来ないっていうのなら、僕も大人だからね、諦めてさっさと神力を手に入れる。だけど、君がここに来てくれるっていうのなら、僕は君がやってくるまで神力の封印を解くのは待ってあげるってこと。おわかりかな?」


 ゆっくりと深呼吸をしてから、牧場の言葉について考える。

 そして俺は携帯で今の時間を確認する。時刻は正午過ぎ。つまり、霧江さんは今俺の学校に来ていて、牧場の言う通り霧島神社にはいない。

 果たして牧場は言葉通り、神力を手に入れるための準備をすべて整えたというのだろうか。正直言って、それを信じることができるほどの証拠はない。しかし、俺は直感的に牧場が真実を話していると判断した。平島たちから追い詰められているにもかかわらず、牧場の口調には絶対的な余裕が垣間見えたからだ。

 どのみち俺には選択の余地はない。俺は牧場に今すぐに霧島神社に行くことを告げた。


「やっぱり、水前寺くんはできた人間だね。最初に会った時と全然変わらない。とりあえず携帯はこのまま切らないでね。嵐田くんたちに連絡されても困るし。それとこれはちなみにだけど、君の居場所を大体把握しているんだ。だから、君がまっすぐ霧島神社に向かった時にかかる時間も大体把握できる。もちろん水前寺くんを信頼てないってわけじゃないんだよ。だけど、もしその時間を超えても君が現れなかった場合、僕はすぐに神力の封印を解いちゃうから。まあ、前置きはこれくらいにしてさ、僕とお喋りしながら霧島神社においでよ」


 どうやら抜け目のなさは衰えていないらしい。俺は牧場の条件を飲み、霧島神社の方向へ歩き出した。

 俺は牧場に対し、抱いていた疑問をぶつける。


「平島と嵐田はお前を追い詰めていたはずだ。それなのになぜお前はあいつらからこうして逃げることができているんだ?」

「いやぁ、そのことね。まあ、確かに今僕は彼らの追跡をまくことに成功しているんだけどね、追い詰められているのは事実なのさ。今の僕ができることと言えば、献血バスを使った時間稼ぎくらい。まあ、それも子供だましみたいなものでさ。彼らを完全に欺くことはできないよ。なんたって、彼らも優秀だからね」

「なんで時間稼ぎとは言え、なぜ献血バスなんだ。まさか由香が自分から献血に協力してくれると思ってたんじゃないだろうな」


 牧場は一瞬だけ沈黙した後、大声で笑い始めた。


「いやぁ、水前寺くんも冗談が上手いね。そんなわけあるわけないじゃないか。もちろん、嵐田くんたちを一時的に騙すのは車でも可能だったんだよ。だけど、あえて献血バスにしたのには理由があるんだよ。それは、水前寺くんが嵐田くんたちに霧島家の神力について打ち明けちゃってる場合を想定してたからなのさ」


 牧場は饒舌に喋り続ける。


「もし君が神力の秘密を喋る。すると、だ。この前君とウリエルとか言うお嬢ちゃんがやって見せたような、霧島家の血を使った封印解除について嵐田くんたちが知っていることになる。その場合、彼らは献血バスというだけで勝手に注意を向けてくれる。そしてその献血バスに僕の痕跡が残っていることが判明したとなると、彼らは喜び勇んで僕の子供だましに引っかかってくれるということ。これが僕の計画、いや保険と言った方が正確かもね。ま、実際はまったく知らなかったようだけど。はぁ、僕の苦労を返してほしい気分だよ」

「……ということは、由香の跡をつけていた不審者もまた、嵐田たちを欺くためのフェイクだったってことか」

「それもあるね。僕が霧島由香を狙っているのではないかという疑念が君たちの間で強まるほど、霧島神社への注意は弱まるわけだし。だけど、それだけじゃない。一番の目的は、不審者の目撃をえさにして霧島霧江を神社から離れさせることなんだ」


 俺は昨日、霧江さんが学校から呼び出しの電話を受けていたことを思い出す。確かに特別な理由もなしに呼び出しを食らえば、変に警戒されてしまう。より自然に霧江さんを神社から引き釣り出すための布石でもあったということか。


「昨日の電話の相手はお前か?」

「まさかぁ。ミス霧江には『印象操作』の魔術が効かないんだよ。声を意識的に変えたって、僕の声ではないかと少しでも疑われたら一巻の終わりだからね。僕ではなく、自由の身になったばかりの赤川君にお願いしたのさ。厳密にはミス霧江と赤川君は会ったことがあるけど、ミス霧江にとってはずっと昔のことだからね、彼からの電話だとばれることはないと踏んだのさ」


 俺は霧江さんの言葉を思い出す。









―――いや、生活指導の岩村先生とかなんとか言ってたかな。お会いしたことはないんだけど、なーんか聞いたことあるような声だったんだよねぇ」










 あの時、霧江さんは聞いたことのあるような声と言った。確かに少し前に聞いた牧場の声ならば、一瞬で気づくことができる。牧場の口調は特徴があるからな。しかし、さすがにずっと前に聞いた赤川の声を霧江さんが明瞭に覚えているはずがない。


「ちなみに献血バスの中にいるのも赤川君ね。今回ばかりはさすがに自分一人でできないからさ。仕方がなく、言うことを素直に聞いてくれる赤川君を組織から救出する必要があったの。実際、リスクが高すぎて、何回も考え直したけどね」


 牧場は先ほど俺の大体の位置がわかると言っていた。赤川が高校近くに潜んでいたとしたならば、赤川から連絡を受けた牧場が俺の早退を知っていてもおかしくはない。 

 平島は確か、赤川をわざわざ助け出す必要がないのではと言っていた。実際、牧場の言うことを素直に聞いてくれる人間を探すこともできたのだろうが、捕まるまでもはや時間の問題となっていた牧場にとっては、多少のリスクを冒してでも確実な協力者をすぐに確保しておきたかったのだろう。


「赤川君も必死だよね、あれほどなりふり構わず魔力を欲しがるなんてさ」

「仮に赤川のおかげで神力を手にしたとしても、お前は赤川の願い事を聞くつもりはないんだろ」


 俺の言葉に牧場は笑いを押し殺しながら答えた。


「当たり前じゃないか。神力さえ手に入れば、僕はなんだってできるんだよ。つまり誰も僕に逆らうことは出きないんだよ。それなのに、どうして道徳にわざわざ縛られる必要があるんだい。透明人間になれる指輪を手に入れたら、水前寺くんだって好き勝手に振る舞うはずだろ?」


 牧場と話をしているうちに、俺はいつのまにか霧島神社の手前まで来ていた。霧島神社は目の前だ。しかし、俺は神社につながる階段を目の前にして、足を止める。

 その階段の一段目に俺の見知った人物が座っていたのだ。いや、見知った人物という言葉はふさわしくない。俺や平島、そして霧島家と親密であり、そして牧場の次に神力を知り尽くした少女。

 俺は牧場と通話中であることを忘れ、その名を口にした。


「ウ、ウリエル? なんで、お前がここに……!?」

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