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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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対策

 あまりにストレートな質問に俺はうろたえてしまった。

 霧江さんは以前血を吐いた由香の手当てを行っている。神力と長い間関わってきた霧江さんに嘘は突き通せないことはわかっていた。俺はゆっくりと首を縦に振り、霧江さんの質問に答えた。

 俺の返事に対し、霧江さんは悲しそうな表情を浮かべる。


「無理を承知で聞きますけど、霧江さんの力で俺への副作用を治すことってできます?」


 霧江さんは首を横に振った。無理だとわかっていたつもりだったが、やはりその答えに落胆してしまう。

 霧江さんは霧島神社を守るという条件でしか神力の力を借りることができない。以前由香の身体を治療できたのも、由香が霧島家の人間だったかららしい。しかし霧島家の跡継ぎである由香とは違い、俺は霧島家とは縁もゆかりもない人物だ。俺のために霧江さんが神力を使えるはずがない。

 由香がまだ戻ってこないことを確認しながら、霧江さんは俺にだけ聞こえる音量で俺にささやいた。


「神力に副作用があるってことは知ってたの。もちろんそれが霧島家以外の人間にも適用されるとは思ってなかった。愁ちゃんみたいに、何回も封印をかいくぐって神力にお願いをしたっていう人間なんて今までいなかったからね……。だから、正直私にも副作用によって愁ちゃんがどうなるかはわからない。だけど、これだけは約束して。もう絶対に神力にお願いしちゃいけないってこと」


 神力に一番近い存在でありながら、身近な人間をその力で救うことができないことをはがゆく思っているのだろうか。霧江さんの声にどこか熱がこもっているように感じた。

 俺はつい先日、ウリエルとともに霧江さんの目を盗んで神力の封印を解いたことを打ち明けた。俺は神力が必要だった理由を説明した後、怒られることを承知のうえで必死に頭を下げた。もちろん霧江さんは霧島神社の神主として、そして保護者として俺たちの行為を叱った。しかし、その後になって突然俺の身体のことについてあれこれと質問をしてきた。その時にはまだ副作用について確証しきれていなかった俺は大丈夫だと返事をしたが、今思えば、あれは神力の副作用を心配しての質問だったのだろう。

 俺が霧江さんに封印を勝手に解いたことを打ち明けたのは、もちろん良心の呵責にさいなまれたからということもある。しかし、打ち明けたのにはもう一つだけ理由があった。


「霧江さん、由香を牧場から守るための手立てってどうなりました」

「大丈夫。それについては愁ちゃんの言った通りにちゃんとしておいたから」


 霧江さんの言葉に俺はとりあえず安心する。

 由香を牧場から守る。それを実現するために、俺は霧江さんに封印を解いたこと、そしてどのように封印を解いたのかを伝えたのだ。

 神力の封印を解くためには霧島家の血がいる。そして、その血は別に血管を流れている必要はなく、また少量で事足りる。神力について徹底的に調べたウリエルだからこそ導き出せた答えではあるものの、牧場風太郎が同じような結論にたどり着く可能性がないとは言えない。いや、可能性は十分にあると言った方がいい。それに、その答えにたどり着かないとしても、俺が以前ウリエルに提案したように由香を脅迫して封印を解くことを牧場は思いつくかもしれないのだ。

 神力を扱える霧江さんとは違い、由香は牧場に対して何の抵抗もできない。だからこそ、由香を牧場の手から守る手段を講じておかなければならないのだ。むしろ、今までそのことを思いつかなかったことを反省するべきなのかもしれない。


「平島に聞いた話なんですけど、牧場風太郎が今この町に潜伏しているそうです。だから由香が見たっていう不審者は、もしかしたら牧場なのかもしれない」

「やっぱりねぇ。なんか嫌な予感がしてたのよね」

「というか、霧江さんはどうやって由香を守ってるんですか?」


 俺は好奇心から尋ねてみる。


「由香には私が神力を使って作ったお守りを持たせてあるの。誰かが由香に何かしようとしたら、その瞬間神力への侵害が起こったとして術式が発動する仕組み」

「術式が発動したら何が起こるんです?」

「……聞きたい?」

「……やっぱやめときます」


 霧江さんの不敵な笑みから察するに、えげつないことが起こるのだろう。あまり詮索しない方がいいと俺は判断する。

 しかし、それでも牧場が捕まるまで決して油断してはいけない。俺が真剣な顔でそのことを訴えると、霧江さんは俺の言葉にうなづきながらも、少しだけリラックスした表情で答えた。


「確かに愁ちゃんの言う通り、できることはすべてやっていた方がいいと思う。だけど、これは霧島家の問題でもあるんだから。あんまり愁ちゃんが一生懸命になる必要はないからね」


 霧江さんはそう言った後、今思い出したかのように言葉を付け加えた。


「そういえば、牧場さんは神力に何をお願いするつもりなんだろうね……。愁ちゃん知ってる?」


 霧江さんの言葉に俺は首を横に振る。牧場の野望に関しては、俺にもわからない。

 それでも。牧場が神力の封印を解いたとして、真っ先にやつが願うことだけは予想がついていた。そしてその願い事について、俺は目の前の霧江さんに話すことができなかった。

 そうこうしているうちに、由香が氷を入れた袋やティッシュを持ってリビングに帰ってきた。俺は由香からそれらを受け取り、鼻血の応急処置を行う。

 二人はもう少し休んでいくことを勧めたが、霧江さんと話しているうちに十分体調が回復したことを告げ、家に帰ることにした。玄関で靴を履いていると、霧江さんが小走りで駆けよってきて俺の手に何かを握らせる。それは神社わきで売られているものとは別の、手製のお守りだった。


「これは由香に渡したお守りと全く一緒のもの。もちろん直接愁ちゃんを守ってくれるってわけじゃないけど……。私からの気持ちだと思って受け取って」


 確かに神力が込められているとなると、そこらのお守りなんかよりずっと効果がありそうだ。俺は霧江さんにお礼を言い、母屋の外へ出た。

 このまま帰ろうと境内を横切った時、ふと霧島神社の本殿が視界の隅に移った。そのまま俺はなんとなく神社の本殿に近づき、賽銭箱の目の前で立ち止まる。

 すべては俺が中学時代にここで痛い願い事をしたことから始まったのだ。ウリエルが俺の目の前に現れたことから始まり、そして神力を狙う牧場風太郎と出会った。その後何やかんやあり、今では神力の副作用によって俺は死にかけている。

 馬鹿げた力であり、そして強大な力だ。牧場風太郎があれほど血眼になって手に入れようとしているのもわかる。しかし、これは牧場が、いや人間が手にしていいような力ではない。

 こいつのせいでひどい目に遭っているというのに、随分と自分が神力に肩入れしているんだな。俺はそのことに気付き、思わず苦笑してしまう。

 でも、牧場風太郎は止めなければならない。これはゆるぎない事実だ。俺は目の前にそびえたつ霧島神社の本殿をじっと見つめ続けた。

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